Tuesday, March 05, 2019

部落解放論の最前線(3)


2部「部落と部落差別の現在」は次の5本の論考である。

「大阪府における同和地区実態把握と社会的排除地域析出の試み」内田龍史

「『特別措置法』終了後の差別事件の動向」本多和明

「三度『カムアウト(部落を名乗る)』について」住田一郎

「インターネット社会と部落差別の現実」川口泰司

「近年の新聞と部落問題」戸田栄


ここでも統一的な視点や分析ではなく、それぞれの分野、それぞれの対象、それぞれの分析による論考が並列している。順次開催した研究会の記録であることや、あえて統一性をもたらすような編集を行わなかったことによるが、結果としてそうなっただけではなく、むしろ、多様性、多角的な視点という本書の基本方針に由来するとも言える。


特措法以後の状況について、第1に、主に『全国のあいつぐ差別事件』(1981年~)で取り上げた差別事件の特徴の分析、第2に、インターネット時代における差別現象の変容、第3に、新聞記事の減少傾向の分析。これらを通じて、特措法終了が部落差別の解消を意味するかのごとき観念の登場を許してきたこと、しかし、実態を見ればいまだに許しがたい差別が相次いで生じていることが確認される。

特にインターネット上の差別が深刻化しているので、ネット対策として、行政によるモニタリングと削除要請、被害者救済、法整備の課題、企業の取り組みとして「差別投稿の禁止」、広告配信の停止、差別解消にIT技術を活用する必要性が指摘される。

また、ネットが差別をなくしていく大きな武器になるので、ネット版「部落問題・人権事典」、部落問題の総合サイト・ニュースサイトの作成など時代に即応した対策が提案されている。