桐山襲『神殿レプリカ』(河出書房新社、1991年)
帯の惹句「夜の涯からひびく 幽かな生命のざわめき 変幻への予兆にみちた 静謐なタペストリー」とあるとおりの短編集である。
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J氏の眼球
十四階の孤独
S区夢幻抄
リトゥル・ペク
そのとき
神殿レプリカ
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「J氏の眼球」では定年間近の古代哲学者の人生と、病院で隣のベッドだった学生運動の闘士らしき人物の交錯。「十四階の孤独」では82歳の元釣堀屋主人の晩年の感慨。「そのとき」では3人の老女の人生の悲しみ。いずれも老境に達した主人公の物語だ。「神殿レプリカ」でも難波大助の父親・難波作之進の最後を描いている。
本書出版が1991年8月で、桐山は1992年3月に亡くなっている。1949年生まれの桐山だから、早すぎる他界であるが、その最後の時期に、人の終着点に関心を絞り込んでいたようだ。
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「リトゥル・ペク」は異色の作品だ。身長144センチほどの小さなペクは、トラック運転手になりたかったが、大型トラックの運転は無理なため、タクシー運転手になった。親戚の好意で29歳の女性とお見合いをして、次回の約束をしたことから有頂天になったが、2人が住む街からほど近い都市が軍隊に制圧され、若者たちの闘いが始まる。軍による虐殺が起きたその都市に、女性も、ペクも、別々に突入していく。錦南路、忠北路、開峰路。道庁へ、道庁へ。光州事件を想起させる舞台が選ばれている。
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天皇お召列車爆破未遂事件の『パルチザン伝説』でデビューした桐山が、「神殿レプリカ」では、摂政狙撃事件の難波大助の父親の人生を素材に、歴史と伝奇に挑む。黒い風が吹くその村の本物の神殿と、そのレプリカに過ぎない天皇家の大嘗祭。作品は、難波作之進の死去の「それから3年後の1928年、裕仁は新たなる神殿を拵え、大嘗祭に臨んだ。」と終わる。