Saturday, January 11, 2020

旅する文学者が辿り着いた境地


立野正裕『紀行 辺境の旅人』(彩流社、2019年)

http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-2631-4.html



立野の「紀行」シリーズ第7弾である。

「文学」「芸術」を基軸に北欧から南欧までの思索の旅を続けてきた立野は、今回もスコットランド、クリミア半島、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スペイン、ギリシア、イタリア、フランスを訪れ、欧米文学をはじめとする世界の思索を手がかりに、現地の風に吹かれ、景色に大きく息を吸い込み、時に道に迷いながら、探求の時間を過ごす。

立野が探求するのは、西欧文学の系譜と思索と人間であるが、そこにとどまらないのは言うまでもない。立野は歴史を探りつつ思想と論理を追い求める。偶然の中に必然の眼を探り当てる。個別事象を掘り抜いて普遍への道を辿る。試行錯誤の繰り返し、思い出の人々の言葉の反芻、そして遠野をはじめとする日本の歴史と伝承に息づく想像力、そこに生きてきた立野自身の現在を、幾度も幾度も遡行し、折り返し、畳重ねつつ、紀行の可能性に挑む。



立野の著作を初めて読んだのは『精神のたたかい』(スペース伽耶)であった。感銘力溢れるこの著書が立野の初めての著書だということに驚きながら、私は「平和力セミナー」という連続インタヴュー講座に立野をゲストとしてお招きした。面識のない私からの依頼に快く応じてくれた立野は、「インドへの道」を素材に文学と旅と人生と平和について語ってくれた。その記録は前田編『平和力養成講座――非国民が贈る希望のインタヴュー』(現代人文社)に収録した。

その後、立野は怒濤の勢いで著書を世に問い始めた。『黄金の枝を求めて』『世界文学の扉を開く』『日本文学の扉を開く』(スペース伽耶)にはじまり、やがて「紀行」シリーズに突入する。『紀行 失われたものの伝説』『根源への旅』『スクリーン横断の旅』『スクリーンのなかへの旅』『紀行 星の時間を探して』『百年の旅』と続く。毎年1冊のペースで続々と送り出される紀行は、失われたものへの旅であり、根源への旅であり、人間の絶望と希望への旅であり、立野自身への旅である。その持続力には圧倒されるしかない。

何が立野をして旅に誘うのか。「人はなぜ旅をするのか」。長きにわたって繰り返し問われてきたこの問いに、誰もが普遍的な答えを与えつつ、極めて私的で個別的で、またとない答えを与えてきた。その両者が合一するとき、著者と読者に訪れるであろう至福――立野の旅は遙か西欧の彼方に、景勝地に、文学記念の地に、忘れられかけた地に向いながら、思索は螺旋状に立野の周りを回り続ける。立野が立野の周りを回る。終わりなき旅の一つひとつのシーンに旅の終わりと始まりを見続ける。



『軍隊のない国家』(日本評論社)で世界27カ国を回り、続く『旅する平和学』(彩流社)で、文字通り「旅する平和学」を組み立てた私としては、果てしなき旅の果てに、いかなる出会いに出会えるか、いかなる夢を夢見ることができるか。立野の「紀行」には遠く及ばないが、私なりの旅を続ける理由が数多くある。