Sunday, January 12, 2020

ゴーンの日本刑事司法批判は基本的に正当である


刑事被告人カルロス・ゴーンの国外逃亡事件は近来まれに見るサスペンスでありコメディでもあった。1月8日の記者会見も、逃亡方法の具体的説明はなかったものの、デマを垂れ流してきた日本の御用メディアを排除し、国際メディアを相手に、ゴーンの主張を初めて提示した点で聞き所が満載であった。



日本の検察と日本の異常マスコミは「ゴーンが一方的な主張をした」などとデマ主張によって、恥の上塗りをした。これに対してゴーンは「検察が1年4ヶ月も一方的な主張をしてきて、自分はたった2時間話しただけなのに、なぜ一方的と言われるのか」と反論した。当然の主張だ。検察にもマスコミにもフェアネスという言葉が存在しない。



ゴーンの日本刑事司法批判は基本的に正当であり、適切であり、国際常識に適っており、国際人権法にも合致する。



にもかかわらず、マスコミは国際常識をきちんと説明しない。法務省もマスコミも国際人権法を踏まえた議論を否定している。







私はカルロス・ゴーンに興味がない。労働者大量解雇によって日産の業績を「回復」して自分の成果と誇っているゴーンを擁護しない。この間の日産ゴーン事件について関心はないし、特に情報を持っていない。



しかし、ゴーンの日本刑事司法批判には大いに関心がある。それは私たちが長年唱えてきた主張と共通する主張内容だからだ。日本の刑事司法には、基本的人権の観念が欠落している。無罪の推定が認められていない。プライバシーも認められていない。公正な裁判という観念は日本の裁判官や検察官にはまったくない。弁護士でさえ、まともな人権感覚を持っていない者が少なくない。日本の刑事司法は時代遅れであり、人権無視であり、有罪の推定に立っており、「疑わしきは被告人の利益に」原則を拒否して、「疑わしきは有罪」原則を採用している。



このことを私たちは30年以上主張してきた。1980年代の代用監獄批判、誤判・冤罪批判、死刑批判に始まって、弾圧、抑圧、差別、監視、人間性否定の刑事司法に疑義を唱えてきた。



そして、私たちは国連人権機関に日本刑事司法の問題性を訴えてきた。198090年代には国連人権委員会や、国際自由権規約に基づく自由権委員会にてロビー活動を行い、委員会から日本に対して勧告が出されてきた。



その後、日本政府が拷問等禁止条約を批准したので、拷問禁止委員会、自由権委員会、国連人権理事会(特にその普遍的定期審査)において、日本の人権状況が審査され、数々の問題点が指摘されてきた。



そして、拷問禁止委員会では、「日本の刑事司法はまるで中世のようだ」と特徴付けられた。長いこと国連人権機関に通って傍聴してきたが、「中世のようだ」と特徴付けられた国は他にはない。日本だけである。



それでは具体的にどのような点が問題とされてきたのか。代用監獄、死刑、刑事施設における処遇、外国人収容センターにおける差別と人権侵害、ジェンダー差別など多くの問題があることが明らかにされてきた。



ゴーン事件との関連では、未決段階での取調べと自白の問題が直接関係する。



例えば、20135 29日、国連拷問禁止委員会(拷問及び他の残虐な、非人道的な                       又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する条約に基いて設置された委員会)は日本政府に対して数多くの是正勧告を出した(CAT/C/JPN/CO/2)。例えば、次のような勧告である。やや長いが11パラグラフを引用する。



***



<取調べ及び自白>

11. 委員会は,拷問及び不当な取扱いによって得られた自白に法廷における証拠能力がないと規定している憲法第 38 2 項及び刑事訴訟法第 319 1 項,有罪判決が自白のみに基づいて下されることはないという締約国の発言,そして被疑者が犯罪の自白を強制されてはならないということを保障する取調べガイドラインに留意する。しかし,委員会は引き続き以下の事項に懸念を有している:

 (a) 締約国の司法制度は,実務上,自白に広く依拠しており,その多くは弁護士の立会いのない中で代用監獄において得られている。委員会は,暴行,脅迫,睡眠妨害,休憩のない長時間の取調べなど,取調べ中に行われた不当な取扱いに関する報告を受けている;

 (b) 全ての取調べにおいて,弁護人の立会いが義務付けられていないこと;

 (c) 警察の留置施設において,被勾留者に対して適切な取調べがなされたのか検証する手段が欠けており,とりわけ,一回あたりの取調時間に厳格な制限がないこと;

 (d) 検察官に対する被疑者及びその弁護人による取調べに関する 141 件の不服申立てのうち,訴訟に至ったケースがないこと。(第 2 条及び 15 条)

 委員会は,憲法第 38 2 項,刑事訴訟法第 319 1 項及び条約第 15 条に沿って,締約国が,あらゆる事件において,拷問及び不当な取扱いによって得られた自白が,実務上,法廷において証拠能力が否定されることを確保するため,全ての必要な手段を講じるべきとの前回の勧告

(パラ 16)を繰り返す。特に:

(a) 取調べの時間制限について規則を作り,その不順守の場合に適切な制裁を設けること; (b) 刑事訴追の際,自白に証拠の主要かつ中心的な要素として依存するような慣行を終わらせるため,捜査手法を改善すること;

(c) 取調べの全過程を電子的に記録するなどの保護措置を実行し,その記録を裁判で使用できるよう保証すること;

(d) 強制,拷問,脅迫,または長期間にわたる逮捕や勾留の末になされた自白で,刑事訴訟法第319 1 項に基づき証拠として認められなかったものの件数を委員会に提供すること。



***



 このように未決の検察・検察段階における被疑者取調べでは、自白強要がなされ、暴行や脅迫がなされ、長時間に及んでいることが指摘されている。



これに対して、森雅子法務大臣が「ゴーンは無罪を証明するべきだ」と述べた。文字通り、有罪の証明が当たり前と思い込んでいるから、法務大臣がこうした異常な主張を平気で述べる。まともな国なら、大臣失格で辞任騒ぎになるはずだが、日本ではそうはならない。検察も社会も有罪の推定がなぜ許されないのかさえ理解していないからだ。



法務大臣は後に、言い間違えたなどと釈明したが、弁護士でもある法務大臣が、この点で言い間違えることはありえない。フランスの弁護士が皮肉交じりに「あなたの国では有罪の推定だから」と述べたという。



無罪の推定を理解していないのは、マスコミや一般人だけではない。裁判官と検察官が最悪なのだ。被疑者・被告人の人権など顧みないのが日本の裁判官と検察官である。



拷問禁止委員会の日本政府に対する勧告には次のような項目がある。



***



<研修>

締約国は以下のことをすべきである:

(a) 全ての公務員,特に裁判官並びに法執行官,刑事施設及び入国管理局の各公務員が条約の規定を認識することを確保するため,研修プログラムを更に発展・強化させること;

(b) 拷問事件に関する調査及び証拠書類作成に関与する医療職員や他の職員に対して,イスタンブール議定書についての研修を定期的に行うこと;

(c) 法執行公務員の研修に,非政府組織の関与を慫慂すること;

(d) ジェンダーに基づく暴力と不当な取扱いを含む,拷問の絶対的禁止と予防に関する研修プログラムの効果と影響を評価すること



***



日本の裁判官や検察官は国際人権法の素養がないから、こういう勧告が出されることになる。こうした勧告は今回が初めてではない。1990年代から何度も何度も出されてきた。しかし、裁判所も法務検察も勧告を受け容れていない。何が何でも人権無視を押し通す姿勢だ。



今回は拷問禁止委員会の勧告の一部を紹介したに過ぎないが、自由権委員会からも国連人権理事会からも同様の勧告が何度もなされてきた。



ゴーン事件についてコメントするつもりはない。しかし、ゴーンの日本刑事司法批判は実に説得的である。法務大臣や検察の反論はおよそ反論になっていない。それどころか、中世のような人権無視大国の実態を世界に露呈する結果になっただけである。マスコミは法務検察のお馬鹿な主張を垂れ流すことによって日本の恥を世界にさらしている。まともな知性を持っていないからだというしかない。