佐々木辰夫『戦争とカニバリズム―日本軍による人肉食事件とフィリピン人民の抵抗・ゲリラ闘争』(スペース伽耶)
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<目次>
序論 小笠原父島における米兵捕虜人肉食事件
レイテ戦以後
第一五揚陸隊(鈴木隊)
「なぜ殺したのか」を問う(1)―フィリピンにおける二つの戦争裁判
「なぜ殺したのか」を問う(2)―幼児殺害から見えるもの
食人種(Cannibal)たち
征服の修辞学―もしくは大アジア主義
再録 フクバラハップのたたかい
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著者・佐々木辰夫
1928年生まれ。同志社大学卒業。中学校に職をうる。在職中から沖縄・奄美をはじめ日本各地の離島・僻地を精力的に歩く。同時に60年代、インド、沖縄その他に関するルポルタージュを『新日本文学』や関西在住者による文学・社会運動の同人誌『表象』『変革者』などに発表。80年代以降はおもにイラン革命、アフガニスタン革命について『社会評論』に執筆。同時にフィリピン・アフガニスタン・ソ連(とくにモスクワ)などに足しげく訪れる。著書に『阿波根昌鴻』『アフガニスタン四月革命』『沖縄 抵抗主体をどこにみるか』など。
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冒頭で著者自身が見聞した日本軍による人肉食事件を提示したうえで、本論ではフィリピン・ミンダナオにおける日本軍による大量の人肉食事件を論じている。先行研究および裁判記録をもとに、第二次大戦末期及び直後に、第一五揚陸隊(鈴木隊)が各地を移動しながら、主にヒガオノン族と呼ばれた現地の人々を殺害し、女性を強姦しながら、暴虐の限りを尽くした事件の全体像に迫ろうとする。
事件自体は従来から知られているが、著者は、猟奇的事件の本質を解明するために、日本軍の規律や体質、日本軍人の思考様式を明らかにすると同時に、植民地主義を直接の俎上に載せる。植民地主義、レイシズム、差別の重層性と、戦時(戦争直後)の状況とを重ね合わせて読み解く。
もう一つ重要なことに、著者は事件を「加害と被害」の観点で説明するだけでなく、被害側の抵抗闘争にも留意を怠らない。抵抗する側の「尊厳」意識を明確に論じることによって、日本軍及び日本国家の腐敗と淪落がいっそう浮き彫りになる。近現代フィリピン史は日本ではよく知られていないので、フクバラハップのたたかいを補足していて、読者にとって非常に便宜である。特に抗日ゲリラの一員であるアレハンドロ・サレ中尉に注目しているのは、重要である。
さらに著者は、フィリピンにおける抗日ゲリラ闘争を、フィリピンだけではなく、アジア史に位置づける。
「フィリピンにおけるゲリラ活動全体を、アジア的視野でふりかえると、第二次世界大戦期間の中国、朝鮮、ヴェトナム、マレー、シャム(タイ)、ビルマ(ミャンマー)、インドおよびスリランカにおける反日・反英の民族解放運動の一翼に、フィリピンがならぶ。南アジア、とりわけインドでは、英本国が反ファシズム戦争に没頭しているとき、反英独立運動に重心がかかっていくという相反現象が生じた。ここに第二次世界大戦とはなんぞや、という性格規定の問題がおこってくる。」
こうした問題意識が明確であるので、本書は首尾一貫した事件史であり、日本軍犯罪史であり、日本論であり、加えて東アジアの抗日・民族解放闘争史でもあり、ひいては人間論にも連なる貴重な書となっている。
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巻末に文献リストがあり、40点の文献が列挙されている。
彦坂諦『餓死の研究―ガダルカナルで兵はいかにして死んだか』(立風書房)
田中利幸『知られざる戦争犯罪―日本軍はオーストラリア人に何をしたか』(大月書店)
この2冊が示されていないのは、フィリピンではないからだろうか。
高橋幸春『悔恨の島ミンダナオ』(講談社)
が文献に挙げられていないのはなぜだろう。