Sunday, November 29, 2020

ヘイト・スピーチ法研究(156)

奈須祐治「【資料】オーストラリアのヘイト・スピーチ関連法令」『西南学院大学法学論集』52巻1号(2019年)

http://repository.seinan-gu.ac.jp/handle/123456789/1780

奈須はアメリカ、カナダ、イギリスのヘイト・スピーチ法を非常に詳細に研究してきた研究者であり、著書に『ヘイト・スピーチ法の比較研究』(信用山社、2019年)がある。

本書の書評として、前田朗「ヘイト・スピーチの本格的比較法研究」『部落解放』775号(2019年)。

「本稿は,オーストラリアの連邦及び各州のヘイト・スピーチ関連法令の条文を翻訳するものである。すべての規定を網羅するものではなく,核となる重要なものを選別して翻訳した。」

以下の法令の関連条文が翻訳されている。

 

オーストラリア連邦、1975年人種差別法、1995年刑法

 

タスマニア州、1998年反差別法

ニューサウスウェールズ州、1977年反差別法、1900年犯罪法、1999年犯罪(量刑手続)法

クイーンズランド州、1991年反差別法、1999年犯罪(量刑手続)法

オーストラリア首都特別地域、1991年差別法、2002年刑法

西オーストラリア州、刑法

南オーストラリア州、1936年民事責任法、1996年人種誹謗法

ビクトリア州、2001年人種的、宗教的寛容法

Friday, November 27, 2020

ヘイト・スピーチ法研究(155)

藤井正希「批判的人種理論の有効性――ヘイトスピーチ規制を実現するために」『群馬大学社会情報学部研究論集』第27巻(2020年)

https://gair.media.gunma-u.ac.jp/dspace/bitstream/10087/12920/1/27-N1-FUJII.pdf

藤井は以前、「ヘイトスピーチの憲法的研究――ヘイトスピーチの規制可能性について」という論文で、ヘイトスピーチの刑事規制積極説を唱えた。規制消極説の多い憲法学者のなかでかなり早期に積極説を唱えたので注目される。私の『ヘイト・スピーチ法研究原論』で引用させてもらった。

本論文で藤井は、近い将来に「より十分なヘイトスピーチ規制の根拠や方法論を提示する」と予告しつつ、それまでの途中段階の考察として、アメリカにおける批判的人種理論の検討を行っている。

批判的人種理論は1980年代にアメリカで登場した批判法学をさらに乗り越えるべく1980年代末に登場した。人種と法の間の特殊な関係を解明しようとする理論で、現実のアメリカ法は白人中心主義の産物であり、無自覚の内に人種差別を内包していないかと問う理論である。それゆえ、批判的人種理論はヘイト・スピーチ規制の根拠を提示する理論でもある。

大沢秀介、木下智史、桧垣伸次、塩原良和らの先行研究があるので、藤井はこれらに依拠しつつ、アメリカにおける批判的人種理論の枠組みを明らかにし、これを日本にも適用できるのではないかという。

「アメリカにおける白人の黒人に対するヘイトスピーチと、日本における日本人の在日韓国朝鮮人に対するヘイトスピーチは、国籍の有無という点では違いはあるものの、歴史性・無自覚性・構造性等で多くの共通点がある。とするならば、批判的人種理論を日本にける在日韓国朝鮮人に対するヘイトスピーチ規制に活用することは十分に可能であろう。」

「筆者としては、最終的には『日本では憲法的にヘイトスピーチはこのように考えるべきであり、具体的にはこのような規制方法が望しい』という形で明確に自説を主張したいと考えている。」

予告されている次の論文「ヘイトスピーチの公法的研究」が待たれる。

レイシズムは民主主義と相容れない。レイシズムを容認しておくと民主主義は成立しない。民主主義を守るためにはレイシズムの典型であるヘイト・スピーチを規制しなければならない。民主主義を守り、表現の自由を守るためには、マジョリティによるマイノリティに対する暴力と差別の煽動を予防しなければならない。マイノリティの人間の尊厳、個人の尊重法の下の平等のためにもヘイト・スピーチは規制しなければならない。私がこの10年間主張してきたこととおおむね同じ趣旨の見解を藤井は唱えていると言える。今後の展開が楽しみだ。

Thursday, November 26, 2020

兵役拒否をあらためて考える(2)

市川ひろみ「良心に基づいて命令を拒否する兵士たち」京都女子大学宗教・文化研究所『研究紀要』33号(2020年)

http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3075/1/0160_033_010.pdf

ドイツ連邦軍では、「制服を着た市民」という位置づけの下、「共に考えてなす服従」を認めている。兵士が、良心に反した行動を強いられない権利を保障しようとするものであり、兵士には違法行為をなさない責任があり、政策の最終執行者である兵士自身が、国家行為を監視する契機ともなるという。

その実際はどうなっているのか。市川は自らの良心に基づいて命令を拒否した事例、現役の兵士に対し命令ではなく自らの良心に従って行動する権利を認めた連邦行政裁判所の判決を紹介・検討する。

フローリアン・プファフ少佐の場合、時間はかかったが、裁判を通じて「共に考えてなす服従」が認められた。画期的な判断と言える。他方、クリスティアーネ・エルンスト-ツェットゥル及びフィリップ・クレーファー中尉の場合は、「共に考えてなす服従」が認められたとは言えないという。

市川はさらに、イラク戦争における、エーレン・ワタダ米陸軍中尉と、マルコム・ケンドール-スミス英軍軍医の事例も検討する。

市川は次のように結論付ける。

「ドイツ連邦軍の指導理念である「制服を着た市民」は、兵士であるからこそ、「悪をなせ」と命令された時には「市民」として責任ある行動を取ることを求めている。これは、人類が長く続いた惨禍の歴史から、二つの大戦を経てようやく学び取った理念である。たとえ形式的には「合法的」になされた命令であっても、それが違法・不正である場合には、兵士はその命令に従ってはならない。そのことは、兵士自らが所属する組織の意思決定に参加することでもある。しかし、「制服を着た市民」による「共に考えてなす服従」を実践した兵士の権利が認められたのは、連邦行政裁判所のプファフのケースのみである。連邦軍の命令拒否者への態度は、この理念をないがしろにしていると言わざるを得ない。」

重要な指摘だ。

韓国の兵役拒否に関連して、国際自由権規約第18条の良心の自由に抵触するとの訴えが国際自由権委員会に出され、勧告も出ていた。たしか、Center for Military Human Rights Koreaや国際友和会IFORがレポートを出していた。他方、今年はヒップホップグループのBTSメンバーの兵役の特別免除がニュースになった。最近の動きをフォローしている研究者がいると良いが。

 

Wednesday, November 25, 2020

兵役拒否をあらためて考える

市川ひろみ「兵役拒否をめぐるアポリア」『京女法学』16号(2019年)

http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/2905/1/0150_016_001.pdf

『兵役拒否の思想』(明石書店、2007年)の著者による論考である。兵役拒否の個別事例研究ではなく、兵役拒否の「総論」というべき位置づけと類型化、そして「兵役拒否のアポリア」の詳しい分析である。

徴兵制のある国で自らの良心のために兵役拒否を図ると、強大な権力を有する国家に一人で対峙しなければならない。それでも良心を賭けて兵役拒否を貫いた人々の努力により、兵役拒否を認める国や、代替役務につくことを認める国が出てきた。平和期拒否が個別の闘争ではなく、制度化されてきた面もある。

そうした時代における兵役拒否の類型として、著者は、免除型兵役拒否、代替役務型兵役拒否、民間役務型、選択的兵役拒否を掲げる。私の『非国民がやってきた!』(耕文社、2009年)において、市川『兵役拒否の思想』から、この4類型を引用した。市川は本論文で、その後の研究成果をまとめているようだ。

市川は「徴兵制に内在するアポリア」を「国民としての義務」と「良心(信仰・信条)」の選択として見るだけではなく、国家の側に「国家安全保障」と「国民の生命」のアポリアと見る。さらに市川は「軍隊に内在するアポリア」に迫る。徴兵制に限らず、軍隊では命令・服従関係が基本を成すからだ。ここでは抗命権・抗命義務が浮上し、「批判的服従」が登記される。

国際人権法の時代には、国際自由権規約の選択議定書の個人通報制度がつくられ、兵役拒否者が、国家を超えて、自由権規約委員会に提訴できる。自由権規約委員会では、韓国市民による兵役拒否も審理されている。2008年に開催した9条世界会議の時にも韓国から兵役拒否者をお招きしたが、当時はまだ韓国は選択議定書に加入していなかった。いまは、日本と違って、韓国市民は国際人権を直接活用できる。

他方で、戦争の民営化が始まり、様相が変わってきた。論文末尾の次の一文は、なるほどと、あらためて兵役拒否について考えさせる。

「兵役拒否権を保障する制度が整備されたことによって、多くの人々にとってはアポリアが緩和・解消されてきた。そのことは、とりもなおさず兵役拒否が体制内化されることであり、アポリアとして問題提起の契機となる機会が失われることでもある。さらに、国家は、軍の志願兵化、民営化によって国民と間で生じうるアポリアを回避することができる。現在では、軍隊内業務の民営化が急速に進められており、そこでは、国家はもはや国民に命令/強制する必要はない。委託契約であるので、業務は同意の下に行われる。業務の請負契約という形によって国家と切り離されることで、個人のかかえる現実のジレンマは自己責任とされ、ジレンマとしては認識されない。アポリアが生じないようにすることで、国家は、異議申し立ての契機を取り去ることに成功したといえよう。」

2016年に国連平和への権利宣言が採択された。宣言は兵役拒否には言及していない。だが、準備段階では私たちは宣言草案に兵役拒否、市民的不服従、ピースゾーンをつくる権利を書き込んだ。最終的に削除されたのは残念だった。

平和主義、市民的不服従、無防備地域宣言、ピースゾーンをつくる権利をつなげて、21世紀の平和主義を練り直したいものだ。

ヘイト・クライム禁止法(188)カンボジア

カンボジアがCERDに提出した報告書(CERD/C/KHM/14-17. 15 November 2018

ヘイト・スピーチに直接の言及はない。憲法が先住民族の権利を保障しているとの一般的な報告が中心だが、司法改革の中で先住民の権利保障を図ろうとしていることが報告されている。憲法第31条と条約第1条に従って、刑法第265条から270条において人種差別を禁止している。人種差別とは、人が民族集団や人種の構成員である、又は構成員でないことに基づいて、その人に対して、商品やサービスの提供又は雇用を拒否すること、雇用を終了すること、事務所から移動させること、公務員がその人の諸権利を否定することと定義され、これは犯罪とされている。

条約第5条に列挙された権利は憲法第31~50条に述べられているように差別なく法によって保障される。

CERDがカンボジアに出した勧告(CERD/C/KHM/CO/14-17. 30 January 2020)条約第1条に従って直接差別及び間接差別を定義し禁止する包括的法を採択し、人種差別と闘う行動計画を作成すること。ヘイト・スピーチを予防し、ヘイト・クライム/スピーチを禁止する法律を条約第4条に合致させること。次回報告書において、ヘイト・クライム/スピーチに関する法律の採択、履行及び影響について詳細な情報を報告すること。

Tuesday, November 24, 2020

ヘイト・スピーチ法研究(154)

申惠丰「人種差別撤廃のための国内法整備」『法律時報』92巻11号(2020年)

「差別解消法と条例の展開」という雑誌・新連載の第1回目である。国際人権法研究者らしい視野の広さと、堅実な議論の両者を兼ね備えた論文だ。

人種差別撤廃条約における国内実施の考え方を整理し、日本では人種差別を明文で禁止する法律がないことを確認し、在日コリアンに対する民族差別の実態を人権条約に照らした憲法解釈から分析し、ヘイト・スピーチに対する積極的措置を取る義務について論じている。

条約4条(a)(b)についての日本政府の留保は「4条の柱書や(c)には係っておらず、4条の義務を全体として排除したものではない。また、(a)と(b)への留保も、その内容は、『他の者の権利の尊重』のための権利制限がありうることを含めた諸原則を定める世界人権宣言、及び5条の諸権利に十分な考慮を払うとした4条柱書に留意し、憲法上表現の自由等の権利の保障と定食しない限度で義務を履行するとしたものだから、(a)・(b)に基づく義務を免れるわけではなく、それらの諸権利と両立するかたちでのヘイトスピーチ対処の在り方が真剣に模索される必要がある」という。

また、ヘイト・スピーチ解消法や自治体条例について検討したうえで、「地域内で深刻な人種差別の問題を抱える自治体を中心に条例制定の動きが相次いでいるが、中でも川崎市の条例は上述した諸点において高く評価できる。ヘイトスピーチは全国各地で起きていることから、本来は、国レベルでこのような内容の法律が制定されることが望ましい」とする。

さらに、人種差別禁止法の必要性も指摘する。それによってオンライン上のヘイト・スピーチに対する大手IT企業の取り組みが生きてくると見る。

国際人権法の専門家による論文なので安心して読めるし、勉強になる。人種差別撤廃条約の国内履行のため、人種差別撤廃委員会は日本政府に数々の勧告を出してきた。立法、行政、司法、地方自治体、どのレベルでもまともな対応がなされずにきたが、障害者差別解消法、ヘイト・スピーチ解消法、部落差別解消法に見られるように徐々にではあるが動きも見られる。ヘイト・スピーチ問題については自治体条例もできてきた。その運用には大いに限界があるが、市民によるチェックが重要だ。そのために基準となる考え方として、立法論や解釈論が重要だ。申論文はこの意味で有益である。

Monday, November 23, 2020

講演レジュメ「ヘイト・スピーチをなくすために」

11月8日、日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワークの主催でヘイト・スピーチ講演会(於・広島弁護士会館)を開いてもらった。当初予定では4月開催だったのが、新型コロナのために大幅に遅延して、ようやく実現した。

 

例年だと各地からお招きいただいて、月に1度は講演会やメディアからの取材が入っていたが、今年は激減した。10月に同じ広島で開かれた、NHK広島の「ひろしまタイムライン」差別事件に抗議する集会にはオンライン参加して、少し発言させてもらった。

 

ヘイト・スピーチ問題が浮上し、社会的に議論されるようになって10年になる。京都朝鮮学校襲撃事件が2009年、徳島県教組襲撃事件が2010年だ。実際にはヘイト・クライム/スピーチ事件はずっと以前からあったし、私たちはヘイトとの闘いを続けてきたが、一般のメディアや研究者も発言するようになったのは最近のことだ。

 

こうした中、講演会でヘイト・クライム/スピーチについての基礎知識を数十回講義してきたが、最新の講義の概要として、以下に11月8日の広島での講演レジュメを張り付ける。


このレジュメをきちんと話すと4時間はかかる。大学の授業(90分)で半期15週間続けてもヘイト・スピーチ問題全体を話すには到底足りない。


講演会では、実際には90分の講演会で要点のみ取り上げた。会場からの質疑応答も含めて150分くらいか。 


*************************************

 

2020年11月8日

広島弁護士会館

 

ヘイト・スピーチをなくすために

公共施設の利用ガイドラインはどうあるべきか

前田 朗(東京造形大学)

 

1 はじめに――最近の動向

 

1)ヘイト・スピーチ解消法の制定

2)大阪市ヘイト・スピーチ条例

3)川崎市人権条例

4)ヘイト関連訴訟訟

      李信恵名誉毀損訴訟(一審判決)

      フジ住宅ヘイトハラスメント訴訟

地名総鑑出版差止仮処分訴訟

4)相模原津久井ヘイト・クライム事件

5)杉田水脈衆議院議員差別発言

6)関東大震災朝鮮人虐殺追悼式典妨害事件

7)NHK広島タイムライン事件

8)足立区議LGBT差別発言事件

9)差別に抗議する大坂なおみ

 

2 ヘイト・スピーチをめぐる誤解

 

1)ヘイト・スピーチは「言論」であるか

       純粋な言論イメージ

       ヘイト・クライムとしての京都朝鮮学校襲撃事件

       被害論の欠落――人間の尊厳

2)ヘイト・スピーチ現象は2007年に始まったのか

       在特会のインパクトにとらわれた認識

       歴史的なヘイト・クライム/ヘイト・スピーチの無視

       90年代の「チマ・チョゴリ事件」

       関東大震災朝鮮人虐殺

3)民主主義国家はヘイト・スピーチを刑事規制しないのか

       「民主主義とレイシズムは背反する」

4)ヘイト・スピーチ規制よりも教育を?

       不毛な二者択一論

       教育方法論の欠落――人種差別撤廃条約7条の無視

 

3 概念の整理確認――ヘイト・クライムとヘイト・スピーチ

 

1)ヘイト・クライム――欧米のヘイト・クライム法

    アメリカでは「暴力を伴うヘイト・クライム」を処罰(重罰化)

    欧州では「暴力を伴わないヘイト・スピーチ」も処罰

    日本ではヘイト・クライム重罰化もヘイト・スピーチ処罰もなし

2)ヘイト・スピーチ――条約や法律にこの言葉はない

     「人種的憎悪の唱道」(国際自由権規約20条2項)

「人種的憎悪の流布、人種差別の煽動」(条約4条)

      国連人権高等弁務官事務所「ラバト行動計画」(2012年)

       人種差別撤廃委員会・一般的勧告35「人種主義ヘイト・スピーチと闘う」

3)ヘイト・スピーチの本質を考える(定義問題)

    人種差別――個別の差別現象、構造的差別(人種差別撤廃条約1条)

      差別の煽動、暴力の煽動(人種差別撤廃条約4条)

4)ヘイト・クライム/ヘイト・スピーチの行為類型 

   差別表明型

   歴史否定型

   名誉毀損型

   脅迫型

   迫害型

   ジェノサイド煽動型

   暴力付随型

   暴力+差別型

5)暴力とは何か――ヘイト・スピーチの暴力性

最広義の暴行

広義の暴行

狭義の暴行

最狭義の暴行

威力

暴行によらない傷害

6)ヘイト・スピーチの被害実態――歴史的事例と現在の事例

     人道に対する罪としての迫害、ジェノサイド

     ➜身体的被害、心理的被害、経済的被害――総合的被害論の必要性

 

4 日本国憲法に従ってヘイト・スピーチを処罰する

 

1)解釈の基本原理(日本国憲法とは何であり、何のためにつくられたのか)

   ➔憲法前文の平和主義、国際協調主義

2)人間の尊厳を守るためにヘイト・スピーチを処罰する(現実の被害)

   憲法13条の個人の尊重、人格権、幸福追求権

3)不当な差別を許さない(差別されない権利、ヘイト・スピーチ被害を受けない権利)

   憲法14条の法の下の平等

4)表現の自由の歴史的教訓(戦争宣伝と差別煽動)

   憲法21条の表現の自由

      *治安維持法と特高警察による人権侵害の反省と、

       アジアに対する侵略戦争・占領・植民地支配の反省と

5)表現の自由の理論的根拠

民主主義論から見たヘイト・スピーチ

人格権から見たヘイト・スピーチ

6)表現の自由を守るために(マジョリティの表現の自由と責任)

   憲法12条の濫用防止と責任

*誰の自由が侵害されているのか

*マイノリティの表現の自由の優越的地位

 

5 国際人権法に従ってヘイト・スピーチを処罰する

 

1)国際人権法におけるヘイト・スピーチ規定

2)国際人権機関による法解釈

ラバト行動計画(2012年)

人種差別撤廃委員会・一般的勧告35(2013年)

3)国際人権機関からの日本政府への勧告  

      国連人権委員会・人種差別特別報告書の勧告2006

      人種差別撤廃委員会の勧告2001201020142018

      国連人権理事会普遍的定期審査の勧告200920132017

      社会権規約委員会の勧告2013

      自由権規約委員会の勧告2014    

 

6 民主主義国家はヘイト・スピーチを処罰する

 

1)世界120カ国にヘイト・スピーチ法がある

2)EU諸国はすべて処罰法を持っている

3)その多くは刑法典に規定(基本犯罪である)、一部は特別法

4)「アウシュヴィツの嘘」犯罪――重大人権侵害の歴史否定発言

 

7 総合的な人種差別撤廃政策を

 

1)国家レベル――包括的な人種差別禁止法の必要性   

      法の下の平等と差別禁止

教育、労働、各種行政における差別禁止

人種差別撤廃条約第2条、5条、7条

被害者救済

人種差別撤廃条約6条

2)市民レベル――市民的対抗と抑止

    対抗言論

カウンター行動

寛容、対話、共生の地域づくり

 

8 地方自治体は何ができるか、何をなすべきか

 

1) 条例制定権の範囲での刑事規制――川崎市条例

2) 条例制定権の範囲での行政規制

・ヘイト団体に公共施設を利用させてはならない

       ➔人種差別撤廃条約第2条(b)(d

    ・自治体はヘイト団体を非難すべきである

       ➔人種差別撤廃条約第4条柱書

・ヘイト団体に資金援助してはならない

       人種差別撤廃条約第4条(a

3) 公の施設利用ガイドライン

  ・門真型

  ・大阪型

  ・川崎型

  ・京都型

4) 反差別の教育

 ・住民に反差別と反ヘイトの教育をするべきである

 ・公務員に反ヘイト教育を

 ・人権審議会委員に反ヘイト教育を

    ➔人種差別撤廃条約第7

 ・欧州諸国の反差別教育・文化政策

5) 被害者救済のために

    人種差別撤廃条約第6

   ・欧州諸国の被害者救済

 

[資料]**********************************

 

   日本国憲法

 

前文 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

11条  国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第12条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする

第14条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない

  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 

市民的政治的権利に関する国際規約(ICCPR)

第19条 1 すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。

2 すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。

3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。

(a) 他の者の権利又は信用の尊重

(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護

第20条 1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。

2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。

人種差別撤廃条約(ICERD)

第1条1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

2 この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない。

3 この条約のいかなる規定も、国籍、市民権又は帰化に関する締約国の法規に何ら影響を及ぼすものと解してはならない。ただし、これらに関する法規は、いかなる特定の民族に対しても差別を設けていないことを条件とする。

4 人権及び基本的自由の平等な享有又は行使を確保するため、保護を必要としている特定の人種若しくは種族の集団又は個人の適切な進歩を確保することのみを目的として、必要に応じてとられる特別措置は、人種差別とみなさない。ただし、この特別措置は、その結果として、異なる人種の集団に対して別個の権利を維持することとなってはならず、また、その目的が達成された後は継続してはならない。

第2条 1 締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、

a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。

b各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。

c)各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするために効果的な措置をとる。

d各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる

e)各締約国は、適当なときは、人種間の融和を目的とし、かつ、複数の人種で構成される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他の方法を奨励すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する。

2 締約国は、状況により正当とされる場合には、特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため、社会的、経済的、文化的その他の分野において、当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。この措置は、いかなる場合においても、その目的が達成された後、その結果として、異なる人種の集団に対して不平等な又は別個の権利を維持することとなってはならない。

第3条  締約国は、特に、人種隔離及びアパルトヘイトを非難し、また、自国の管轄の下にある領域におけるこの種のすべての慣行を防止し、禁止し及び根絶することを約束する。

第4条  締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う

a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。

第5条 (略)

第6条  締約国は、自国の管轄の下にあるすべての者に対し、権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて、この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し、並びにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所に求める権利を確保する。

第7条  締約国は、人種差別につながる偏見と戦い、諸国民の間及び人種又は種族の集団の間の理解、寛容及び友好を促進し並びに国際連合憲章、世界人権宣言、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言及びこの条約の目的及び原則を普及させるため、特に教授、教育、文化及び情報の分野において、迅速かつ効果的な措置をとることを約束する。

④ラバト行動計画

 

反差別国際運動IMADRのサイト

ヒューライツ大阪のサイト

 

⑤人種差別撤廃委員会・一般的勧告35