Saturday, January 30, 2021

<被害者中心アプローチ>をめぐって(2)

<被害者中心アプローチ>という言葉が日本で、いつ、どのように用いられるようになったか調べていないが、2015年の「日韓合意」に対する批判の中で、国連でも用いられていたし、挺対協(現・正義連)も、私たちも、同じ趣旨で用いていたと記憶する。

 

2015年「日韓合意」の後、2016年3月7日、国連女性差別撤廃委員会が日本政府に「慰安婦」問題の解決を求める勧告を出したが、そこで<被害者中心アプローチ>に言及した。

 

同年310日にはザイド・フサイン国連人権高等弁務官が、「日韓合意は国連メカニズムから、そして被害者から疑問視されている」と述べた。私のブログに書いておいた。

https://maeda-akira.blogspot.com/2016/03/blog-post_11.html

 

同じことを当時、9条連のニュース(20164月号だったと思う)に書かせてもらった。以下、全文を貼り付ける。

 

******************************

9条連ニュース04「平和と人権を考える」

 

国際社会から批判された日韓合意

――「慰安婦」問題解決を遠ざけた愚策

 

前田 朗

 

NGO発言

 

 本連載第1回に指摘したように、一二月二八日の日韓合意は、被害女性に相談もなく政府間の勝手な合意を一方的に公表したものであり、国際人権水準に照らして到底評価に値しない。ところが、日本政府とマスコミは日韓合意が国際社会に受け入れられたという根拠なき主張を垂れ流してきた。

三月一一日、NGOの国際人権活動日本委員会(JWCHR、前田朗)は、ジュネーヴで開催された国連人権理事会において次のように発言した。

<一二月二八日に2国間合意が発表され、慰安婦問題は最終かつ不可逆的に解決したとされた。しかし、韓国の多くの性奴隷制被害者がこの合意を拒否している。2国間合意は被害者との協議を経ていない。合意内容を示す文書が存在せず、被害者が読むこともできない。三月七日、女性差別撤廃委員会は「2国間合意は、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決したと言うが、被害者中心のアプローチを採用していない」と述べた。三月一〇日、ザイド・フサイン国連人権高等弁務官は「2国間合意は国連人権メカニズムから、そして最も重要なことに被害者自身から、疑問視されている。重要なことは、関連当局が、勇気と尊厳のある女性たちと協議することである。彼女たちが本当の救済を受けたか否かを判断できるのは被害女性である」と述べた。日本軍性奴隷制は2国間問題ではない。アジア太平洋地域で行われたので、被害者は、朝鮮民主主義人民共和国、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、インドネシア、東ティモール、パプアニューギニア、オーストラリア、オランダにもいる。>

 

国際人権機関の評価

 

1 三月七日、右で言及した女性差別撤廃委員会は、日韓合意に注目しつつ、①責任逃れをする政治家発言を指摘し、被害者中心アプローチをとるよう求め、②亡くなった「慰安婦」がいることに留意し、③韓国以外の被害者に対する国際人権法上の責務を日本が果たしていないこと、④日本が「慰安婦」問題に関する教科書の記述を削除したことにも言及した。

2 三月一〇日、ザイド・フサイン人権高等弁務官は、右に引用した通り、日韓合意が国際人権メカニズムから疑問視されていると明示した。

3 三月一一日、エレノーラ・チーリンスカ(法と慣行における女性に対する差別作業部会議長)、パブロ・デ・グリーフ(真実・正義・補償・再発防止特別報告者)、フアン・メンデス(拷問問題特別報告者)は連名で、日韓合意は国家責任に関する国際水準に合致していないと指摘した。

4 三月一一日、バン・ギムン国連事務総長は、日韓合意は国際人権原則に従って、履行されるよう望むと述べた。バン事務総長は「国際人権原則に従って」という留保をつけた。

5 三月二一日、国際自由権規約委員会は、日本政府に出した勧告のフォローアップ会議において、日韓合意の事実を確認しつつ、それが補償ではなく、教育その他では後退したとして、日本政府にさらなる情報を求めることにした。

 以上のように、国際社会は日韓合意を厳しく見ている。日韓合意が国際社会に認められたというのは日本政府とマスコミ協力の誤報に過ぎない。

Friday, January 29, 2021

<被害者中心アプローチ>をめぐって(1)

「慰安婦」問題をめぐる議論の中で、最近、<被害者中心アプローチ>という言葉がよく用いられるようになった。この言葉を用いていない場合でも、被害者の立場に立って解決をするべきだというのは、ある意味、当たり前に用いられるようになった。

 

大きな前進だと思うが、同時に奇妙な議論が横行している。<被害者中心アプローチ>とは何かの共通理解がない。それどころか、各論者が自分に都合の良いように勝手な意味で用いているのではないかと思えることが少なくない。

 

一例をあげると、2015年の「日韓合意」こそが<被害者中心アプローチ>であるかのようなトンデモ発言が登場している。「日韓合意」は、被害者に事前の相談もなく、日韓両政府が秘密裏に勝手に「合意」に至ったものにすぎない。「日韓合意」の内容さえ不明確である。何しろ合意文書が存在しない。被害者を置き去りにした「合意」にすぎない。

 

にもかかわらず、一部のメディアや、戦後補償問題に長年関わってきた弁護士までもが、あたかも日韓合意が<被害者中心アプローチ>に立っているかの如く欺く主張をしている。おまけに、正義連(旧挺対協)が<被害者中心アプローチ>に立たずに団体の都合で身勝手な主張をしているかの如く非難している。倒錯以外の何物でもない。正義連こそが<被害者中心アプローチ>の重要性を一貫して主張してきたのだ。

 

被害者を貶め、被害者支援団体を誹謗中傷しながら、「日韓合意」を持ち上げたり、「和解」を被害者に押し付ける異様な主張がマスメディアを席巻しているように見える。

 

論者の政治的意図はともかくとして、こうした偏頗な議論が横行する原因の一つは<被害者中心アプローチ>とは何かが理解されていないことにある。

 

<被害者中心アプローチ>という言葉は、一目見れば、誰にでも意味を了解できそうな、わかりやすい言葉である。それだけに、各自が自分の都合に合わせて意味を勝手に決めてしまう恐れがある。

 

<被害者中心アプローチ>は国際条約や協定に明文化されていない。これを見ればただちに意味がわかるという文書がない。このためか、自分勝手な意味で用いる例が目立つ。

 

私自身、「<被害者中心アプローチ>とはこういう意味の言葉である」と、100字で説明することができない。

 

私の理解では、<被害者中心アプローチ>は、重大人権侵害の被害者救済のために国際社会で用いられてきた言葉である。この言葉は21世紀になって、主に、国連人権理事会(2006年~)や国連人権高等弁務官事務所などで用いられてきた。拷問禁止委員会や人種差別撤廃委員会の審議の中でも耳にするようになった。

 

その由来は1990年代に国連人権委員会(~2005年まで)において、ルイ・ジョワネ、ファン・ボーベン、シェリフ・バシウニら「重大人権侵害被害者特別報告者」によって重大人権侵害被害者救済ガイドライン作成のために続けられた研究であった。

 

議論の経過を踏まえ、その議論をリードしてきた人々や国連機関が用いている意味で、まずは考えないと、本筋から外れた奇妙な議論に陥る危険性がある。

 

昨年12月4日、私は日本弁護士連合会・日韓戦後補償問題特別部会からの依頼を受けて、「被害者中心アプローチとは何か」というオンライン講演を行った。そのレジュメは下記に公表した。

https://maeda-akira.blogspot.com/2020/12/blog-post_17.html

 

ここでも「<被害者中心アプローチ>はこう理解すべきです」と断定することができていないが、その主要な特徴を明示することはしておいた。もっと上手にまとめることができると良かったが、今のところ、私にできる範囲はこのレベルのことである。

スガ疫病神首相語録12

「失礼じゃないでしょうか」

1月27日の参院予算委員会で、スガはレンホーに「失礼じゃないでしょうか」と語気を強めて抗議した。

レンホーが「この29人の命、どれだけ無念だったでしょうか。その重みが分かりますか」と尋ね、

スガは「そこは大変申し訳ない思いであります」とチョー謙虚に陳謝したにもかかわらず、

レンホーが「そんな答弁だから言葉が伝わらないんですよ。そんなメッセージだから国民に危機感が伝わらないんですよ。あなたには首相としての自覚や責任感、それを言葉で伝えようとする、そういう思いはあるんですか!」と罵倒したため、

温厚なスガもたまりかね、「少々失礼じゃないでしょうか。首相に就任してから、一日も早く安心を取り戻したい、そういう思いで全力で取り組んできました。緊急事態宣言も悩んで悩んで判断した。言葉が通じる、通じないとか私に要因があるかもしれませんが、精いっぱい取り組んでいるところです」と返した。十八番の「お答えを控える」は封印した。

「スガ疫病神首相語録」というより、「一番じゃなきゃダメですか?」以来、時々炸裂する「レンホー出たとこ直球勝負語録」がふさわしいかもしれない。

急いては事を仕損じる

レンホー:首相の責任追及に焦るあまり、言葉の選択を誤ること。

スガ:観光業を守るためにGOTOトラブルに力を入れすぎて新型コロナ対策に失敗し、結局、観光業に大打撃を与えること。

 

待てば海路の日和あり

レンホー: 他人に厳しく発言する前に一呼吸置けば、素晴らしい国会質問になるかもしれないのに。

スガ:「待てば解雇の日和あり」とも言う。スガ政権のために苦境に陥った飲食業と観光業の現状。

 

牛にひかれて善光寺参り

レンホー:いつか、牛ならぬ、「親離れ宣言」をした息子の村田琳にひかれて善光寺?

*「失礼じゃないですか」事件と同じ1月27日、アイドルグループVOYZ BOYの村田琳が「もう今日で母親のことを気にして生きるのは止めたい」と親離れ宣言。

スガ:思いがけず首相になり、思いがけず新型コロナ第3波に衝突し、さて、善光寺参りで願うは五輪開催か。

 

果報は寝て待て

レンホー:議員席で居眠りしている同僚たちを見ながら、「阿呆はいつまでも寝ていてほしい」と呟いたとか。

スガ:加俸は自分だけ、下方の支持率、挽回のために火砲を周囲に撃ち込みたいとか。

*家宝は1987年の横浜市議会議員初当選時、師である小此木彦三郎議員から贈られたセイコー・クレドール・シグノヴィンテージ。

 

禍を転じて福と為す

レンホー:アイドルから政治家への転身を重ねる中、ピンチはチャンスを完璧に実践してきた優等生です。息子の親離れ宣言もまさにチャ~~ンス!

スガ:「福を転じて禍と為す」のは得意だが。

 

火中の栗を拾う

レンホー:家中(党内)にはろくな栗(人材)がないので、さてどうしたものか。人材派遣会社に頼もうかしら。

スガ:華中(中華)の暴走を止めるためにバイデン大統領と三蜜協議予定。

 

過ぎたるは猶及ばざるが如し

レンホー:「スガたるは言葉足らざるが如し。」

スガ:いつまでも、杉田和博・内閣官房副長官や杉田水脈・衆院議員のことは気にかけていません。過ぎたことでくよくよしても始まらない。気分を刷新して、次の政策をどうするか杉田和博さんに相談します。

 

人の振り見て我が振り直せ

レンホー:一緒にベストドレッサー賞を受賞した前田敦子さん、黒木メイサさん、木村佳乃さんに倣って常日頃、身だしなみを整えています。女は敷居を跨げば七人の敵あり。

スガ:アベさん、アッソーさん、ニカイさんに倣ったため、我ながら支離滅裂とは思いますが……と自覚する謙虚なガースーであった。

Thursday, January 28, 2021

刑罰権イデオロギー批判のために(2)

宮本弘典『刑罰権イデオロギーの位相と古層』(社会評論社)

第2章「プレ・モダンの刑法――暴力行為等処罰法第一条「数人共同シテ」の意義」、及び第3章「暴力行為等処罰法の来歴――「血なまぐさい歴史を持った法律」」は、暴力行為等処罰法の歴史に光を当てる。宮本は、法政大学事件刑事裁判で東京地裁に提出した意見書において「血なまぐさい歴史を持った法律」の由来と形成過程を辿り直し、「暴力行為等処罰法は、一般刑法の外装を纏った治安刑法の雛形ともいえようか。この法律が命脈を絶たれるどころかいまなお活用されている現実こそが、ニホンの刑事司法と刑事法制に巣喰う権威主義的性格を物語っている」と診断を下す。

第4章「ニホン刑事司法への歴史の警告」、及び第5章「ニホン型自白裁判の桎梏――裁判員裁判と戦時体制下の刑事司法」において、宮本は、ファシズムとの訣別の上に制定された日本国憲法と現行刑訴法にも「プレ・モダン」は生きていると指摘する。無罪推定や「疑わしきは被告人の利益に」原則は単なるスローガンに矮小化され、人権保障の当事者主義は実現を阻まれている。弁護権も自白法則も日本的変質を被り、戦時刑事特別法の「流儀」が継承される。松尾浩也のようなデュープロセス論の唱導者すら現実に拝跪し、理念を投げ捨てた。1990年代以後の「刑事立法のラッシュ」はあらゆる口実をもとに治安管理を強化し、プレ・モダンとポスト・モダンのアマルガムを創り出している。

1に近代国家の刑事司法そのものの暴力性、第2に大日本帝国が作り上げた極度に抑圧的な狂気の刑事司法の暴力性、第3に日本国憲法による民主的司法改革にもかかわらず、大日本帝国から引き継がれたプレ・モダンの特異性、そして第4に戦後刑事司法が織りなしてきた70年余の歴史における治安主義と弾圧の法理――これらすべてが日本刑事司法の骨格を形作っていることを、宮本は突き付ける。

Wednesday, January 27, 2021

スガ疫病神首相語録11

「後手後手」

1月26日の衆院予算委員会で、スガは、新型コロナ対策の遅れに対する批判を前に、「後手後手と言われていることは素直に受け止める」と述べた。

GOTOトラブルは天下の妙策であり、中断はしたものの速やかな再開に向けて予算を確保しつつ、当面は新型コロナの感染防止に努めるという姿勢は変わらない。

どんなに愚かな過ちをして指摘されても認めないシンゾーと違い、スガは、認めるべきは認め、姿勢を匡す、謙虚な大物である。

こてこてのガースーです。ごてごて(後手後手)と言われていることは素直に受け止めますが、非難ごうごう(轟々)の嵐に耐えて、首相の職責を果たして参ります。

秘そかにこそこそ、ごそごそ公安情報を活用して、決してごたごたの起きないように誠心誠意尽くして参ります。

緊急事態宣言下にもかかわらず、時々ごち(御馳走)になっているとのご指摘は当たりません。

こつこつ、ごつごつと無骨ながら難局に際しても動じることなく邁進して参ります。

えっ、ごほごほ言っているって? たしかに少し喉がつかえますが、内臓は健康そのもので、何も問題ございません。ごち、ステーキ食べ放題です。

喉の方は野党のごみどもが、あっ、違いました、会場がごみごみしているせいか、その、あの、ごもごも、ともかく、こもごも……

GOTOトラブル再開後の予算をごり押しして通過させ、新型コロナ対策は官僚に任せて、ごろごろしていたい所存です。

石原伸晃議員や私ども一級国民は無症状でも即座に入院できる体制を万端整えておりますので、ご心配は無用です。

現在の課題は、人類が新型コロナを克服した証としての東京オリンピックを必ずや開催にこぎつけることであります。

総理といたしまして、ごりんごりん(五輪五輪)に精励することにいたします。

二級国民は速やかにごりんじゅ・・・、間違えました、二級国民の皆様にも五輪をお楽しみいただいて、活力あふれる日本を取り戻す所存でございます。

Sunday, January 24, 2021

刑罰権イデオロギー批判のために(1)

宮本弘典『刑罰権イデオロギーの位相と古層』(社会評論社)

https://www.shahyo.com/?p=8374

前著『国家刑罰権正統化戦略の歴史と地平』(編集工房朔)から10年、あらゆる民主的統制を弾き飛ばし、知性と人間性を侮蔑するかの如く暴走するニホン刑事司法を理論的に解体するための続編が出た。

第1章 国営刑罰の論理と心理 -国家テロルの偽装戦略-

第2章 プレ・モダンの刑法 -暴力行為等処罰法第一条「数人共同シテ」の意義-

第3章 暴力行為等処罰法の来歴 -「血なまぐさい歴史を持った法律」-

第4章 ニホン刑事司法への歴史の警告

第5章 ニホン型自白裁判の桎梏 -裁判員裁判と戦時体制下の刑事司法-

第6章 戦後刑事司法改革の蹉跌 -ニホン刑事司法の古層1-

7章 思想司法の系譜 -ニホン刑事司法の古層2-

治安維持法と闘った風早八十二、「昭和」の悪法反対闘争をリードした吉川経夫、中田直人、小田中聰樹、「平成」治安法と闘い続ける足立昌勝と内田博文に学び、自由主義と人権保障の近代民主主義理念としての刑事法原則を断固として擁護し、その回復をめざす理論を希求しつつ、歴史を遡行し現在を撃ち抜く。

「歴史の省察の欠如は『凡庸な悪』の培養器ともなる。それに併走・伴奏するのは常に政治権力の腐敗と劣化である。こうした権力の劣化と腐敗の浸潤・進行とともに統治の正統化は危うさを増し、暴力的な裏打ちによる現存価値秩序の維持に対する渇望や欲求が高まる。対内的セキュリティ強化に向けた刑事法制と刑事司法による重武装化である。高度国防国家における国内重武装化の論理は『聖戦完遂』のための『思想国防』であった。現下の危機管理国家においては、市民的安全を政治的イシューとし、市民的外装による治安強化のための対内的重武装化を権力統治の正統化根拠とする。市民的自由の圧殺・縮減の拡大を権力統治の正統化の源泉に転化するという奇妙な倒錯・転倒であり、恐ろしい逆説というべきであろう。」

共謀罪、特定秘密保護法、刑訴法改悪に始まり、死刑制度と死刑冤罪、暴力行為等処罰法を配備し、法科大学院設置、裁判員制度を点景とするニホン刑事司法の絢爛豪華な舞台装置は、良き市民による良き制度の合理的システムを聳立させる。悪意も悪人もないが、弾圧の法体系が確立している。その批判的分析が課題である。

Friday, January 22, 2021

ヘイト・クライム禁止法(195)オランダ

オランダがCERDに提出した報告書(CERD/C/NLD/22-24. 4 March 2019

憲法1条は宗教、信念、政治的見解、人種又は性別その他の理由による差別を禁止している。人種について刑法第137条cと137条dが言及しているように、条約第1条に掲げられた意味で、つまり皮膚の色、世系、国民的民族的出身等の意味で理解される。

民主主義社会では社会問題について開かれた議論が重要であり、憲法および国際人権条約に従って考慮される。表現の自由は幅広く理解される。近年、政治家が訴追された事例があるが、表現の自由の限界を超えたと検察官が判断した場合である。政治家に対する中傷や差別ゆえに有罪となった公務員もいる。

政府は、ヘイト・スピーチと特徴づけられる表現の形式に明確な線を引いている。被害の重大性ゆえにヘイト・スピーチに有罪判決を言い渡すための提案を増加させている。量刑を高めることによって、政府は中傷され差別されている側、その存在に脅威を受けていると感じる側に立つことを強調している。憎悪と暴力の煽動に刑罰を加重することは刑法典に取り入れられることになるだろう。

オンライン・ヘイト・スピーチは警察や反差別当局に通報され、国家機関であるオンライン差別担当官に告発される。差別的内容のコンテンツを通報できる。通報を受け取った場合、当該コンテンツがまだオンラインにあるかどうかをチェックし、当該コンテンツが刑法137条や137条dに当たるか否かを判断する。当たると判断すればウエブサイト運営者に削除を要求する。繰り返し要求しても無視された場合、検察官に通報する。当該通報を受け取った検察官は刑事手続きを開始することができる。ヘイト・スピーチ事案の処理のため、検察官は欧州レベルのソーシャルメディア・プラットフォームの取り決めを考慮する。

前回報告書には判例など詳細な情報が列挙されていたが、今回は省略されている。

オランダ政府報告書の審査は、新型コロナ禍のため延期された。

Tuesday, January 19, 2021

スガ疫病神首相語録10

「グリーンとデジタル」

1月18日の施政方針演説で、スガは、肝煎りの政策である「グリーンとデジタル」を「次の成長の原動力」にしていくと意欲を示した。

ポストコロナ時代において、世界をリードし、再び持続的な経済発展をするために「成長志向の政策運営を追求していく」という。

参院本会議では、新型コロナウイルス感染症対策の緊急事態宣言をめぐり、「徹底的な対策」を「限定的な対策」と言い間違え、35人学級について「小学校」と言うべきところを「小中学校」と間違えた。

緊急事態宣言追加地域の発表で「福岡」を「静岡」と言い間違えたのに続く堂々たる快挙。ケアレスミスなど気にしないのが大物の条件である。

自民党内では「グリーンとデジタル」は何の言い間違えか、というクイズが流行しているという。

「およげ!たいやきくん」のメロディで

 

まいにち まいにち ぼくらは しんがたの

コロナの ニュースで いやになっちゃうよ

あるあさ ぼくは スガのおじさんと

けんかして うみに にげこんだのさ

 

はじめて およいだ うみのそこ

とっても きもちが わるいんだ

めには みえない ほうしゃのう

うみは あぶない こころがしずむ

へのこのサンゴが てをおられ

たすけてくれと さけんでいるよ

 

まいにち まいにち かなしいことばかり

デジタル ばかりで ストレスさ

しばしば スガに いじめられるから

そんなときゃ そうさ にげるのさ

 

いちにち およげば ハラペコさ

ズームも ミートも あきあきだ

たまには リアルで しゃべらなきゃ

たんまつ ばかりじゃ ふぬけてしまう

スマホの かげから くいつけば

とっても まずい プラゴミだった 

 

やっぱり ぼくは にんげんさ

そっと いきする にんげんさ

スガは つばを のみこんで

ぼくを うまそに たべたのさ

 

子門真人 およげ たいやきくん

https://www.youtube.com/watch?v=Cfz3CcmTROY

Monday, January 18, 2021

スガ疫病神首相語録09

「しっかり説明する」

1月18日、通常国会がようやく開かれた。重大な時期に国会を開かず説明責任を放擲してきたが、新型コロナの猛烈な拡大で、これ以上逃げるわけにはいかなくなった。「しっかり説明し、国民の理解をいただきたい」と国会に臨むスガである。

(酸)いも甘いも噛み分ける

しん(臥薪)嘗胆のたたき上げ

こはま(横浜)きっての手練れ者

んし(真摯)な実直政治一筋で

る(怯)まず臆せず官房長官

ばん(出番)を待って総理の座……と思いきや

 

ざいく(小細工)だらけの秘密政治に

くでもないGOTOトラブル

(成)れの果て

そ(嘘)と答弁拒否を積み重ね

つしか悪相にじみ出る

ール無用に情け無用

さ(荒)んだ人心、壊れる社会

 

っかり剥がれた化けの皮

まん(我慢)を強いる強権政治

ろん(世論)はあぶく(泡)と消え去りぬ

しるいるい(死屍累々)たる東京砂漠

さん(悲惨)なスガーリンは

ま(デマ)とフェイクを加速する……あゝ無情

Saturday, January 16, 2021

理解社会学の方法と知性への覚醒

中野敏男『ヴェーバー入門――理解社会学の射程』(ちくま新書)

『マックス・ヴェーバーと現代』『大塚久雄と丸山眞男』『詩歌と戦争』の中野が新書で出したヴェーバー入門である。ヴェーバーの人生や人となりやエピソードではなく、ヴェーバーの学問方法論そのものを理解社会学と位置付けて、その入門を図る。

中野によると、ヴェーバーの生涯を賭けての理解社会学の構想は、当時の出版事情のために、十分くみ取られることがなかった。このためヴェーバーの思想が近代主義の範疇に押し込められ、切り刻まれてきた。正当に理解されなかったというよりも、端的に誤解されてきたと言っても良いくらいのようだ。

私自身、誤解してきた一人、という以前にヴェーバーの著書は学生・院生時代に『プロ倫』『職業としての学問』を読んだだけで、その他の膨大な著作群を読んでいない。大塚久雄や山之内靖を通じてヴェーバーについての断片的な知識を得たにとどまる。折原浩も何冊か読んだが。

中野は『プロ倫』『経済と社会』『世界宗教の経済倫理』において発展させられた理解社会学の基礎概念と基本構造をていねいに解説する。その時代において、いかなる問題意識をもって、何と対決していたのか。そのために何を批判し、何を継承して、概念を構築していったのか。新書には珍しい本格的入門書で、叙述は平易なのに、読み進むのにとても時間がかかるし、「難しい」。

私の能力ではようやく紹介することもできない。重要な個所はいくつもあるが、次の1節を引用するにとどめよう。

「このように知性主義という視点を一つ加えてみると、ヴェーバーの言う『西洋文化における特別な形の「合理主義」』が覇権を握る時代とは、<知性>そのものが矛盾を深める危機の時代だということがこの上なく明瞭なものになってきます。西洋近代ということでもっとも『合理的』と見えたこの時代の社会の基調は、もっとも深い非合理(知性の分裂と反知性主義)によって支えられているということです。知性主義の視点をもってこのことが確認できるなら、そこから知性の分裂を超えるべく『近代的』と名指された時代状況と社会事象への根本的な問い直しが始まります。そして、そのような根本的な問い直しの始まるところにこそ、新しい批判的な知性が主導する新しい生活態度と社会構想の可能性も開かれると希望することができるでしょう。この知性への覚醒、ここに私たちがヴェーバーから学ぶ思想の核心のひとつがある、とわたしは考えます。」

Friday, January 15, 2021

スガ疫病神首相語録08

「仮定の質問には答えられない」

1月8日の「報道ステーション」に出演した際、スガは、年末年始の新型コロナ感染急拡大について「想像はしていませんでした」と述べ、緊急事態宣言の延長について「仮定のことは考えないですね」と応答して、出演者や視聴者に衝撃を与えた。

新型コロナ感染急拡大は、誰もが予想し、警鐘を鳴らしていたのに、スガ一人だけは想像していなかったという。

「仮定の質問には答えられない」という言葉は、スガが安倍政権の官房長官時代から頻繁に用いてきたフレーズだ。

――1ヶ月で必ず抑制するとのことですが、抑止できなかったら緊急事態宣言を延長するのですか。

スガ――仮定の質問には答えられません。

――コロナ禍が続いたら、東京五輪は開催できますか。

スガ――感染対策をしっかり行います。大会開催に向けて取り組んでいます。

――それって仮定の話ですよね。

スガ――いえ、過程の話です。準備中ですから。

――西村康稔経済再生担当大臣は「緊急事態宣言解除の基準は感染者500人だ」と言ってます。クリアできなければ、宣言延長になりますよね。

スガ――仮定の話には答えられません。

――閣内不一致じゃないんですか。

スガ――いえ、家庭の話です。内閣は家庭のようなものですから。

――イギリスだけでなく世界各地で変異種が発見されています。海外からの入国禁止を徹底するべきではないですか。

スガ――仮定の話には答えられません。

――医療崩壊の瀬戸際なのに「仮定の話」とか言ってる場合ですか。

スガ――仮定の質問には答えられません。

――と言いつつ、批判が出たので入国禁止にしましたよね。

スガ――窩底に見据えていた政策を適時に実施しています。

――昨年の所信表明演説では「2050年までに二酸化炭素排出をゼロにする」と目標を掲げましたが、これは仮定の話ですよね。

スガ――いえ、下底の話です。排出の下限です。

あっという間にマンネリ化した「スガ疫病神首相語録」だが、今後も09以下に続く予定。

Tuesday, January 12, 2021

スガ疫病神首相語録07

「粛」

スガーリンの特質を一字で示すと「粛」である。

静粛にの「粛」だが、「粛清」のスガである。言いなりにならない官僚は首にする。公安警察情報を駆使して追い落とす。学術会議会員は任命拒否する。理由は示す必要がない。黙って私の言う通りにしろ――スガの信条にブレはない。裏工作こそ正義であり、秘密警察こそ民主主義である。

辺野古の基地建設は「粛々」と進める。地方自治体の分際で文句を言うな――スガは有言実行の男である。

リアル故事成語(又は、故事つけ成語)

 

点知る痴知る割れ知る人知る――相手には点、断片しか教えず、真実を知らせない。フェイク情報を与える。だが必ずぬかりがあって、正体が割れてしまうということ。

(天知る地知る我知る人知る――悪事や不正は必ず露見するということ)

 

一相成りて億骨枯る――首相が新型コロナ対策を疎かにして見事に感染を拡大し、1億の民を感染の恐怖に長期間さらすこと。

(一将成りて万骨枯る――上に立つ者が功績を独り占めし、下で苦労した者の努力が報われないこと)

 

長者の法人税より貧者の消費税――格差社会批判など意に介することなく、大企業に公的資金をじゃぶじゃぶつぎ込み、庶民から消費税を取り立てることが恐怖支配の前提であり、要諦である。

(長者の万灯より貧者の一灯――富者が見栄をはって寄進するよりも、貧しい者が真心を込めて寄進するほうが尊いということ)

 

菅によりて真を求む――説明不要。

(木によりて魚を求む――見当違いで実現できない望み)

 

井の中の義偉大海を知らず――これも説明不要。

(井の中の蛙大海を知らず――知識や体験が少ないのに、乏しい見分にこだわり、自分の無知を認識できない様)

 

刎頸の義偉――自分のためなら友人や部下の首をどんどん斬っても悔いはないというくらいの疎遠な仲)

(刎頸の交わり――友人のためなら首をはねられても悔いはないというくらいの親密な仲)

 

羹に懲りずなまくらを吹く――何度失敗しても反省せず、愚策を積み重ねること。

(羹に懲りて膾を吹く――一度の失敗に懲りて、必要以上に用心深くなること)

 

Sunday, January 10, 2021

ヘイト・クライム禁止法(194)レバノン

レバノンがCERDに提出した報告書(CERD/C/LBN/23-24.29January 2019

前回報告書に記したように、憲法は公共の秩序の枠内での信仰及び宗教の自由(第9条)、口頭及び文書の意見の自由(第13条)、集会結社の自由を保障している。レバノンは世界人権宣言及び関連する国際条約を支持し、コミットしている。刑法に明記された法的枠組みは、テレビ及びラジオ放送法、その他の法律は、人種的優越性に基づく思想の流布を処罰する。本報告書パラグラフ119及び120に、この点での積極的雰囲気を助長するための国家の措置を記している。

(パラグラフ119)憲法は市民の平等(第7条)、信仰及び宗教の自由を含む。前回報告書で明記した通り、人種差別と闘う法的枠組みが用意されている。

(パラグラフ120)人種差別の定義規定はないが、裁判所は人種差別撤廃条約第1条の定義を採用している。

人種主義ヘイト・スピーチについて、まず憲法前文は国際人権規約や世界人権宣言を尊重するとしている。憲法はすべての形態の憎悪と差別を拒否する。この点で法律はすべての人に適用される。法執行官は、市民、避難民、難民に人種、宗教又は国籍に基づく差別、又はその他の形態の人種差別なしに応接する。

レバノンは1948年以来パレスチナ難民を受け入れ、シリア危機以後はシリア避難民を受け入れている。すべての人を人間的に友愛をもって処遇し、住居、食料、支援というニーズに対応する努力をしている。非難民や難民に人種、皮膚の色、国籍又は人種に基づく差別やヘイト・スピーチを容認しない。

司法当局・安全当局は国際条約に沿って、居住者が強制移送されないように配慮して法律を適用する。検察官及び裁判所は、人種憎悪やヘイト・クライムの申し立てや報告を受け取れば、対処する。

司法大臣は、条約第4条に記載されたその他の行為についての法案を準備している。

刑法第317条:「国民の中の異なるコミュニティや諸要素の間に、信仰上又は人種偏見を教唆し又は教唆しようとし、紛争を誘発する行為若しくは文書又は口頭のコミュニケーションは、1年以上3年未満の拘禁とし、付加刑として、10万以上80万以下のレバノンポンドの罰金及び刑法第65条2項及び4項の権利行使の禁止とする。裁判所は判決の公開を命じることができる。」

刑法第317条が犯罪としているのは人種主義の助長である。このことは明文上は十分に明らかでないが、裁判所は人種主義行為や発言を処罰する際に、条文の全体を解釈している。

新型コロナのためレバノン報告書の審査は延期された。

Saturday, January 09, 2021

スガ疫病神首相語録06

「思います、思っています。」

・改めてコロナ対策の強化を図っていきたい、と思います。

・不要不急の外出などは控えていただきたい、と思います。

・国民の皆様と共に、この危機を乗り越えていきたい、と思います。

岡本純子(コミュニケーション・ストラテジスト)によると、1月4日のスガの緊急事態宣言や約30分の会見の中で、なんと、39回も同じ言葉を繰り返したという。

https://president.jp/articles/-/42244?page=1

岡本は次のように述べる。

<「やりぬきます!」ではなく、「やりぬきたいと思います」では、真剣度が全く違う。前者は覚悟で、後者は「一応、やってみるけど、できなかったら勘弁してね」というニュアンスだ。>

スガ――先手を打って、スピーディに対策を進めていきたい、と思います。

――どこが先手ですか。宣言は遅きに失したのではないか。

スガ――ご指摘は当たらない、と考えられる、と思っています。

――GOTOトラブルの失態を隠そうとしたため、宣言が遅れたのではないか。

スガ――GOTOによって感染が拡大したというエビデンスがあるとは言えない、と言って良い、と思っています。

――飲食店の協力が必要ですが、補償が伴わないと店舗も協力できません。

スガ――2月にはワクチンが認可される可能性があるかもしれない、と思います、と専門家からいたような気がしないでもないので、抑止できるのではないか、と思っています。

――話をすり替えないで下さい。先手のコロナ対策はどこへ行ったのですか。

スガ――何らかの補償ができるのではないか、と考えられなくもないので、検討していきたい、と思っています。

という訳で、BGMは、敏いとうとハッピー&ブルーの「わたし祈ってます」。

https://www.youtube.com/watch?v=DNu3wGia2ZE

ただちに、敏いとうとハッピー&ブルーの「よせばいいのに」が続きます。

https://www.youtube.com/watch?v=yKymLwcNuKk

どうやら、結論が出たようです。

いつまでたっても、ダメなわたしね~~~

ヘイト・クライム禁止法(193)デンマーク

デンマークがCERDに提出した報告書(CERD.C/DNK/22-24. 7 February 2019

ヘイト・クライムと闘うため、実効的な捜査と訴追を確保する措置を講じている。ヘイト・クライムと闘うことは人種主義を予防し闘うための重要手段である。警察庁には、刑法第266条b及び第816項にあるように人種主義や差別を抑止し、捜査する義務がある。

2015年春、ヘイト・クライムの管轄は安全保障隊から警察庁に移管した。警察庁は、ヘイト・クライムを確認し、記録し、捜査するための法執行官教育を警察大学校で行っている。監視計画を実施するため、警察庁は個別事案に即してヘイト・クライムをいかに抑止するかのガイドラインを出した。2018年、警察庁は各警察管区とヘイト・クライム対策につき協議を行った。

2017年、ヘイト・クライムは476件報告された。102人に対して95件の告発がなされた。約半数が被害者の国籍、民族、人種、皮膚の色に基づいた人種主義動機である。

訴追については検察庁がヘイト・クライム事件に関するガイドラインを作成した。刑法第266条b、第816項、及び人種差別禁止法に関するガイドラインである。検察官は人種差別禁止法事件に関する年次報告を作成しており、2013~18年には13件が報告された。4件について訴追がなされ、2件は無罪となり、1件は刑罰が宣告され、1件は法的警告がなされた。審理中の事件が1件ある。

人種主義動機を持った犯罪については刑法第816項が定める。適用に関する正確な統計情報はないが、検察によると2013~17年に複数の判決において、民族的出身、信仰、性的志向に基づく犯罪について刑罰加重がなされている。

CERDの審議が新型コロナのため遅延し、デンマーク報告書の審査は延期された。なお、『ヘイト・スピーチ法研究序説』603頁及び672頁参照。

Monday, January 04, 2021

「税金私物化を許さない市民の会」安倍晋三不起訴処分に抗して検察審査会申立

1月4日、「税金私物化を許さない市民の会」メンバーは、東京地検による安倍晋三不起訴を受けて、東京検察審査会に申し立てをしました。下記に申立書を掲載します。

申立書はすでに、ジャーナリストの浅野健一さんのブログ「浅野健一のメディア批評」に、浅野さん自身の陳述書とともに、すでに掲載されています。

 

 

 

審  査  申  立  書

 

令和3年(2021年) 1月 4日

東 京 検 察 審 査 会 御 中

 

                       申立人ら代理人

弁護士  

 

 申立人らは、後記「第3 被疑者の表示」に記載された被疑者について、下記検察官の公訴を提起しない処分に不服があるので、検察審査会法第30条に基づき、貴会に対し、その処分の当否の審査を申し立てる。

 

第1 審査申立人

   別紙申立人目録記載のとおり。

なお、審査申立人の資格は告発人である。

 

第2 罪 名

1 公職選挙法違反(同法第221条第1項第3号)

2 政治資金規制法違反(同法第12条第1項第1号ヌ及び同第2号並びに同法第25条第1項第2号)

 

第3 被疑者の表示

   本  籍  不 明

   住  所  山口県下関市上田中町2丁目16-11

   氏  名  安 倍 晋 三

   生年月日    昭和29年9月21日生

   職  業  衆議院議員

   性  別  男 性

 

第4 不起訴処分の年月日

   令和2年(2020年)12月24日

   事件番号 令和2年検第18325号

 

第5 不起訴処分をした検察官

   東京地方検察庁 検察官検事 田渕大輔

 

第6 被疑事実の要旨

  令和2年(2020年)1月12日付告発状で申立人らが告発した被疑事実の概要は、次のとおりである。

1 被疑者は、平成29年(2017年)10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して山口県第4区から立候補し、当選した衆議院議員であるが、安倍晋三後援会に所属する選挙運動者らと共謀の上、同候補者に投票したことの報酬とする目的をもって、本来であれば「各界において功績、功労のあった」者でなければ出席することができないができない「桜を見る会」に、安部晋三後援会に所属する支援者に対して、安部晋三事務所において参加希望者を募ってとりまとめ、内閣府から招待状を発送させ、東京都新宿区内藤町11番地所在の新宿御苑において、令和元年(2019年)4月13日に開催された内閣総理大臣である被告発人が主催する「桜を見る会」に、安部晋三後援会に所属する支援者約850人を参加させ、もって、酒やオードブルや菓子などを飲食させたり、ヒノキの枡を土産品として提供するなどして財産上の利益を供与し、

2 被疑者は、その政治運動団体である安倍晋三後援会の会計責任者であった阿立豊彦と共謀の上、平成30年5月ころ、山口県下関市大和町1丁目8番16号所在の政治運動団体である安倍晋三後援会事務所において、政治資金規正法12条1項により山口県選挙管理委員会に提出すべき安倍晋三後援会の収支報告書につき、真実は、平成29年4月15日に開催された「桜を見る会」の前日である同月14日に、ホテルニューオータニの宴会場「鳳凰の間」において開催された「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、事前に、ホテルニューオータニに対して、参加者につき1人当たり約5000円の出席見込み数を乗じて得られた金額をその前日までに支払って支出したのに、平成29年分の収支報告書にその旨記載せず、また、同月14日に参加者から1人当たり約5000円を徴収して得られた金額の収入があったにもかかわらず、平成29年分の収支報告書にその旨記載せず、その収支報告書を、平成31年5月24日、山口県選挙管理委員会に提出したものである。

 

第7  不起訴処分を不当とする理由

  不起訴処分の理由

  申立人らに送付された処分通知書には、被疑者についての処分結果が記載されているが、被疑者について不起訴と記載されているだけで、その処分理由についての記載はされておらず、各被疑事実毎の判断やその結論の根拠は全く不明である。

  ただ、不起訴処分の日の報道によると、東京地検特捜部の幹部が「安倍氏が収支報告書の作成に関与し、共謀して不記載をしたと認めるに足りる証拠が得られなかった。」と語ったとして、「嫌疑不十分」により不起訴とされたことが報じられている(資料1・東京新聞)

  「桜を見る会前夜祭」の政治資金規制法違反について

  東京地検特捜部の発表などによると、政治団体「安倍晋三後援会」代表の配川博之氏(公設第1秘書)は、平成28年(2016年)から平成31年(2019年)分の安倍晋三後援会の収支報告書に、会費などとして集めた計約1157万円の収入と、ホテルへの計約1865万円の支出を記載しなかったとされ、支出のうち安倍氏側の補塡分は計約708万円だったとされている。

  そして、東京地検特捜部の事情聴取において、安倍晋三後援会の会計処理の中心だった配川氏は「記載すべきだったが、自分の判断で書かなかった」と違法性を認め、安倍氏は、事情聴取において、不記載の指示や了承を否定したとされている(以上につき、資料2・朝日新聞記事)

  そのため、東京地検特捜部は、配川氏を東京簡易裁判所に略式起訴したが、被疑者である安倍晋三氏と阿立豊彦については不起訴処分としたと説明されている。

  しかしながら、被疑者にとって極めて重要なイベントである「桜を見る会前夜祭」について、被疑者は、参加者から会費として5000円を徴収していることを認識したし、会場であるニューオータニに対して、その開催費用を支払っていることを認識していたはずであるから、指示したか否かはともかく、少なくとも、収入と支出についての不記載について、被疑者が了承していたことは確実であるというべきであり、これを否定する被疑者の供述は到底信用することができない。

  したがって、被疑者について、政治資金規制法違反についての共謀の成立を否定して、被疑者を嫌疑不十分による不起訴処分としたのは重大な事実誤認があり、著しく不当であるから、検察審査会において起訴議決がされるべきである。

  「桜を見る会」についての公職選挙法違反について

(1)  公職選挙法の定め

  公職選挙法は、投票や選挙運動の報酬として財産上の利益などを供与することを禁止しており(同法第221条第1項)、公職の候補者が違反した場合には、その罰則として4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金が規定されている(同法第221条第3項第1号)

  買収罪は、選挙犯罪の中では最も悪質なものであり、典型的な選挙犯罪である。買収行為は、不正な利益の授受によって、本来選挙人の自由な意思の表明により行われるべき選挙の結果を左右しようとするものであるから、選挙の自由・公正を甚だしく侵害するものであり、公職選挙法はこれを厳しく罰するとともに、当選無効や立候補禁止などを定めている。

(2)  「桜を見る会」について

ア 「桜を見る会」は、毎年、新宿御苑において、「各界において功績、功労のあった方々を招き日頃の労苦を慰労するため」を目的として、皇族、元皇族、各国大使等、衆議院議長と参議院議長及び両院副議長、最高裁判所長官、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、国会議員、認証官、事務次官等及び局長等の一部、都道府県の知事及び議会の議長等の一部、その他各界の代表者等が招待され、催されている会であり、同会の出席者には、酒類や菓子、食事が振る舞われる。招待客の参加費や新宿御苑の入園料は無料であり、費用は税金から拠出されている。

  令和元年(2019年)4月13日に開催された「桜を見る会」は、招待者数約1万5400人、参加者数約1万8200人、予算額は1766万円、実際の支出額は5518万7000円であることが明らかとなっている。

(3)  被疑者の地元有権者の招待による「桜を見る会」への参加

  毎日新聞の報道によると、平成31年(2019年)2月上旬か中旬頃に出された「『桜を見る会』のご案内」には、「ご出席をご希望される方は、2月20日までに別紙申込書にご記入の上、安倍事務所または、担当秘書までご連絡ください」と記されている。「内閣府主催『桜を見る会』参加申し込み」という用紙もあり、「参加される方がご家族、知人、友人の場合は、別途用紙でお申し込みください(コピーしてご利用ください)」、「紹介者欄は必ずご記入ください」などと記されている。

  内閣府が参加者に招待状を発送したのは同年3月10日頃であるが、同年2月下旬には安倍事務所から支援者に対し、「『桜を見る会について』(ご連絡)」と題した文書が送られ、そこには「このたびは、総理主催『桜を見る会』へのご参加をたまわり、ありがとうございます」との記述がある。招待状の発送前にもかかわらず「ご参加をたまわった」ことになっている。「招待状は内閣府より、直接、ご連絡いただいた住所に送付されます」との記述もある。

  この時に一緒に支援者に送られた文書の中に「安倍事務所ツアー案(別紙)」とのタイトルの文書もあり、これによると、同年4月13日の「桜を見る会」への参加だけでなく、前日の「前夜祭」や観光地巡りまでがセットになったツアーだったことが判明する。

  また、「桜を見る会アンケート」という文書も同時に送られており、そこでは、観光ツアーについて3コースから一つか不参加を選ぶほか、▽夕食会(前夜祭)参加・不参加▽桜を見る会会場までの貸し切りバス利用の有無▽飛行機やホテルの手配を安倍事務所に頼むか、などを選び、事務所に3月8日までに申し込むよう求めている。飛行機代や宿泊費、移動バスなどを含むおおよその値段は6万~7万9000円であり、後日旅行会社から請求書が発行されるとも記されている。内閣府が参加者に招待状を発送したのは3月10日頃であるから、招待状が発送される前に、被告発人の支援者たちはツアーの段取りまで済ませていたことになる(以上、資料3・毎日新聞記事)

  田村智子参議院が、参議院予算委員会で、令和元年(2019年)11月8日の質疑において、令和元年(2019年)の「桜を見る会」の前日、安倍晋三後援会による「前夜祭」が開かれ、そこには約850人が出席し、被告発人夫妻も姿を見せ、前夜祭の参加者は、翌日、貸し切りバスで「桜を見る会」会場の新宿御苑に移動し、新聞に掲載された首相動静を根拠に、会が始まる前に首相が会場で地元後援会関係者らと記念撮影していることを指摘し「まさに後援会活動そのもの」と追及したことが報道されている。

  田村参議院議員は、「桜を見る会は参加費無料。酒やオードブル、菓子などがふるまわれる。政治家が自分のお金でやったら明らかに公職選挙法違反なのに、総理は税金を使った公的行事でそれをやっているわけですよ。」と指摘し、日本大学の岩井奉信教授(政治学)の「もし首相や与党議員らが後援会などの支持者を招待しているのが事実なら、利益誘導的な行為で『税金を使った選挙対策だ』と批判されても仕方ないでしょうね」とのコメントが掲載されている(資料4・毎日新聞記事)

(4)  被疑者の行為が公職選挙法違反に当たること

  被疑者は、自らに与えられた推薦枠を利用して、自分の選挙区の後援会関係者約850人を、無料で酒やオードブルや菓子が振る舞われ、ヒノキの枡の土産品が提供された「桜を見る会」に参加させたことにより、投票をしたことに対する報酬とする目的で、不正な財産上の利益を供与したものであるから、事後買収罪として、公職選挙法221条1項3号に違反する。

  なお、この規定の趣旨からすれば、被告発人自らが財産上の利益を供与した場合に限らず、税金によって支出されて運営され、参加者には無料で酒や食事が振る舞われる「桜を見る会」に、通常であれば参加できない選挙人を参加させることによっても、被告発人により財産上の利益を供与したことになると解すべきである。

(5)  東京地検特捜部による捜査がなされたとは認められないこと

  報道によると、「告発には選挙区内での寄付を禁じた公職選挙法違反容疑も含まれていたが、参加者らが会費を上回る利益を受けたという認識を否定したため、特捜部は配川氏も安倍氏も不起訴(嫌疑不十分)とした。」と報じられているが(資料2・朝日新聞記事)、これは、「桜を見る会前夜祭」のことを指していると考えられ(「桜を見る会」は参加費が無料である。)、「桜を見る会」についての公職選挙法違反については何の発表等もされていない。

  これからすると、「桜を見る会」についての公職選挙法違反容疑での捜査は全くなされていないと考えられる。

  しかしながら、当時、総理大臣であった被疑者による税金の私物化とされる公職選挙法違反による買収罪について捜査がされていないことは問題であり、検察審査会としては、さらに東京地検特捜部に対して、この点に関する捜査を尽くさせるために、不起訴不当の議決をすべきであり、その再捜査の結果、不起訴とされた場合には、検察審査会において起訴議決がされるべきである。

  結 語

  以上から、東京地方検察庁検察官検事田渕大輔による本件の不起訴処分には、「桜を見る会前夜祭」についての政治資金規制法違反については事実誤認があるとともに、「桜を見る会」の公職選挙法違反については捜査が全くなされていないと考えられるから、検察審査会による適切かつ相当な判断を求める次第である。

 

第8 添付資料

  東京新聞記事(令和2年12月24日)

  朝日新聞記事(令和2年12月24日)

3 毎日新聞記事(令和元年11月9日)

  毎日新聞記事(令和元年12月19日)

5 申立人浅野健一の陳述書

 

第9 附属書類

1 処分通知書(写し)       24通

2 疎明資料写し      各1通

  委 任 状               24通

以上