1月4日、「税金私物化を許さない市民の会」メンバーは、東京地検による安倍晋三不起訴を受けて、東京検察審査会に申し立てをしました。下記に申立書を掲載します。
申立書はすでに、ジャーナリストの浅野健一さんのブログ「浅野健一のメディア批評」に、浅野さん自身の陳述書とともに、すでに掲載されています。
審 査 申 立 書
令和3年(2021年) 1月 4日
東 京 検 察 審 査 会 御 中
申立人ら代理人
弁護士
申立人らは、後記「第3 被疑者の表示」に記載された被疑者について、下記検察官の公訴を提起しない処分に不服があるので、検察審査会法第30条に基づき、貴会に対し、その処分の当否の審査を申し立てる。
第1 審査申立人
別紙申立人目録記載のとおり。
なお、審査申立人の資格は告発人である。
第2 罪 名
1 公職選挙法違反(同法第221条第1項第3号)
2 政治資金規制法違反(同法第12条第1項第1号ヌ及び同第2号並びに同法第25条第1項第2号)
第3 被疑者の表示
本 籍 不 明
住 所 山口県下関市上田中町2丁目16-11
氏 名 安 倍 晋 三
生年月日 昭和29年9月21日生
職 業 衆議院議員
性 別 男 性
第4 不起訴処分の年月日
令和2年(2020年)12月24日
事件番号 令和2年検第18325号
第5 不起訴処分をした検察官
東京地方検察庁 検察官検事 田渕大輔
第6 被疑事実の要旨
令和2年(2020年)1月12日付告発状で申立人らが告発した被疑事実の概要は、次のとおりである。
1 被疑者は、平成29年(2017年)10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して山口県第4区から立候補し、当選した衆議院議員であるが、安倍晋三後援会に所属する選挙運動者らと共謀の上、同候補者に投票したことの報酬とする目的をもって、本来であれば「各界において功績、功労のあった」者でなければ出席することができないができない「桜を見る会」に、安部晋三後援会に所属する支援者に対して、安部晋三事務所において参加希望者を募ってとりまとめ、内閣府から招待状を発送させ、東京都新宿区内藤町11番地所在の新宿御苑において、令和元年(2019年)4月13日に開催された内閣総理大臣である被告発人が主催する「桜を見る会」に、安部晋三後援会に所属する支援者約850人を参加させ、もって、酒やオードブルや菓子などを飲食させたり、ヒノキの枡を土産品として提供するなどして財産上の利益を供与し、
2 被疑者は、その政治運動団体である安倍晋三後援会の会計責任者であった阿立豊彦と共謀の上、平成30年5月ころ、山口県下関市大和町1丁目8番16号所在の政治運動団体である安倍晋三後援会事務所において、政治資金規正法12条1項により山口県選挙管理委員会に提出すべき安倍晋三後援会の収支報告書につき、真実は、平成29年4月15日に開催された「桜を見る会」の前日である同月14日に、ホテルニューオータニの宴会場「鳳凰の間」において開催された「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、事前に、ホテルニューオータニに対して、参加者につき1人当たり約5000円の出席見込み数を乗じて得られた金額をその前日までに支払って支出したのに、平成29年分の収支報告書にその旨記載せず、また、同月14日に参加者から1人当たり約5000円を徴収して得られた金額の収入があったにもかかわらず、平成29年分の収支報告書にその旨記載せず、その収支報告書を、平成31年5月24日、山口県選挙管理委員会に提出したものである。
第7 不起訴処分を不当とする理由
1 不起訴処分の理由
申立人らに送付された処分通知書には、被疑者についての処分結果が記載されているが、被疑者について不起訴と記載されているだけで、その処分理由についての記載はされておらず、各被疑事実毎の判断やその結論の根拠は全く不明である。
ただ、不起訴処分の日の報道によると、東京地検特捜部の幹部が「安倍氏が収支報告書の作成に関与し、共謀して不記載をしたと認めるに足りる証拠が得られなかった。」と語ったとして、「嫌疑不十分」により不起訴とされたことが報じられている(資料1・東京新聞)。
2 「桜を見る会前夜祭」の政治資金規制法違反について
東京地検特捜部の発表などによると、政治団体「安倍晋三後援会」代表の配川博之氏(公設第1秘書)は、平成28年(2016年)から平成31年(2019年)分の安倍晋三後援会の収支報告書に、会費などとして集めた計約1157万円の収入と、ホテルへの計約1865万円の支出を記載しなかったとされ、支出のうち安倍氏側の補塡分は計約708万円だったとされている。
そして、東京地検特捜部の事情聴取において、安倍晋三後援会の会計処理の中心だった配川氏は「記載すべきだったが、自分の判断で書かなかった」と違法性を認め、安倍氏は、事情聴取において、不記載の指示や了承を否定したとされている(以上につき、資料2・朝日新聞記事)。
そのため、東京地検特捜部は、配川氏を東京簡易裁判所に略式起訴したが、被疑者である安倍晋三氏と阿立豊彦については不起訴処分としたと説明されている。
しかしながら、被疑者にとって極めて重要なイベントである「桜を見る会前夜祭」について、被疑者は、参加者から会費として5000円を徴収していることを認識したし、会場であるニューオータニに対して、その開催費用を支払っていることを認識していたはずであるから、指示したか否かはともかく、少なくとも、収入と支出についての不記載について、被疑者が了承していたことは確実であるというべきであり、これを否定する被疑者の供述は到底信用することができない。
したがって、被疑者について、政治資金規制法違反についての共謀の成立を否定して、被疑者を嫌疑不十分による不起訴処分としたのは重大な事実誤認があり、著しく不当であるから、検察審査会において起訴議決がされるべきである。
3 「桜を見る会」についての公職選挙法違反について
(1) 公職選挙法の定め
公職選挙法は、投票や選挙運動の報酬として財産上の利益などを供与することを禁止しており(同法第221条第1項)、公職の候補者が違反した場合には、その罰則として4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金が規定されている(同法第221条第3項第1号)。
買収罪は、選挙犯罪の中では最も悪質なものであり、典型的な選挙犯罪である。買収行為は、不正な利益の授受によって、本来選挙人の自由な意思の表明により行われるべき選挙の結果を左右しようとするものであるから、選挙の自由・公正を甚だしく侵害するものであり、公職選挙法はこれを厳しく罰するとともに、当選無効や立候補禁止などを定めている。
(2) 「桜を見る会」について
ア 「桜を見る会」は、毎年、新宿御苑において、「各界において功績、功労のあった方々を招き日頃の労苦を慰労するため」を目的として、皇族、元皇族、各国大使等、衆議院議長と参議院議長及び両院副議長、最高裁判所長官、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、国会議員、認証官、事務次官等及び局長等の一部、都道府県の知事及び議会の議長等の一部、その他各界の代表者等が招待され、催されている会であり、同会の出席者には、酒類や菓子、食事が振る舞われる。招待客の参加費や新宿御苑の入園料は無料であり、費用は税金から拠出されている。
イ 令和元年(2019年)4月13日に開催された「桜を見る会」は、招待者数約1万5400人、参加者数約1万8200人、予算額は1766万円、実際の支出額は5518万7000円であることが明らかとなっている。
(3) 被疑者の地元有権者の招待による「桜を見る会」への参加
ア 毎日新聞の報道によると、平成31年(2019年)2月上旬か中旬頃に出された「『桜を見る会』のご案内」には、「ご出席をご希望される方は、2月20日までに別紙申込書にご記入の上、安倍事務所または、担当秘書までご連絡ください」と記されている。「内閣府主催『桜を見る会』参加申し込み」という用紙もあり、「参加される方がご家族、知人、友人の場合は、別途用紙でお申し込みください(コピーしてご利用ください)」、「紹介者欄は必ずご記入ください」などと記されている。
内閣府が参加者に招待状を発送したのは同年3月10日頃であるが、同年2月下旬には安倍事務所から支援者に対し、「『桜を見る会について』(ご連絡)」と題した文書が送られ、そこには「このたびは、総理主催『桜を見る会』へのご参加をたまわり、ありがとうございます」との記述がある。招待状の発送前にもかかわらず「ご参加をたまわった」ことになっている。「招待状は内閣府より、直接、ご連絡いただいた住所に送付されます」との記述もある。
この時に一緒に支援者に送られた文書の中に「安倍事務所ツアー案(別紙)」とのタイトルの文書もあり、これによると、同年4月13日の「桜を見る会」への参加だけでなく、前日の「前夜祭」や観光地巡りまでがセットになったツアーだったことが判明する。
また、「桜を見る会アンケート」という文書も同時に送られており、そこでは、観光ツアーについて3コースから一つか不参加を選ぶほか、▽夕食会(前夜祭)参加・不参加▽桜を見る会会場までの貸し切りバス利用の有無▽飛行機やホテルの手配を安倍事務所に頼むか、などを選び、事務所に3月8日までに申し込むよう求めている。飛行機代や宿泊費、移動バスなどを含むおおよその値段は6万~7万9000円であり、後日旅行会社から請求書が発行されるとも記されている。内閣府が参加者に招待状を発送したのは3月10日頃であるから、招待状が発送される前に、被告発人の支援者たちはツアーの段取りまで済ませていたことになる(以上、資料3・毎日新聞記事)。
イ 田村智子参議院が、参議院予算委員会で、令和元年(2019年)11月8日の質疑において、令和元年(2019年)の「桜を見る会」の前日、安倍晋三後援会による「前夜祭」が開かれ、そこには約850人が出席し、被告発人夫妻も姿を見せ、前夜祭の参加者は、翌日、貸し切りバスで「桜を見る会」会場の新宿御苑に移動し、新聞に掲載された首相動静を根拠に、会が始まる前に首相が会場で地元後援会関係者らと記念撮影していることを指摘し「まさに後援会活動そのもの」と追及したことが報道されている。
田村参議院議員は、「桜を見る会は参加費無料。酒やオードブル、菓子などがふるまわれる。政治家が自分のお金でやったら明らかに公職選挙法違反なのに、総理は税金を使った公的行事でそれをやっているわけですよ。」と指摘し、日本大学の岩井奉信教授(政治学)の「もし首相や与党議員らが後援会などの支持者を招待しているのが事実なら、利益誘導的な行為で『税金を使った選挙対策だ』と批判されても仕方ないでしょうね」とのコメントが掲載されている(資料4・毎日新聞記事)。
(4) 被疑者の行為が公職選挙法違反に当たること
被疑者は、自らに与えられた推薦枠を利用して、自分の選挙区の後援会関係者約850人を、無料で酒やオードブルや菓子が振る舞われ、ヒノキの枡の土産品が提供された「桜を見る会」に参加させたことにより、投票をしたことに対する報酬とする目的で、不正な財産上の利益を供与したものであるから、事後買収罪として、公職選挙法221条1項3号に違反する。
なお、この規定の趣旨からすれば、被告発人自らが財産上の利益を供与した場合に限らず、税金によって支出されて運営され、参加者には無料で酒や食事が振る舞われる「桜を見る会」に、通常であれば参加できない選挙人を参加させることによっても、被告発人により財産上の利益を供与したことになると解すべきである。
(5) 東京地検特捜部による捜査がなされたとは認められないこと
報道によると、「告発には選挙区内での寄付を禁じた公職選挙法違反容疑も含まれていたが、参加者らが会費を上回る利益を受けたという認識を否定したため、特捜部は配川氏も安倍氏も不起訴(嫌疑不十分)とした。」と報じられているが(資料2・朝日新聞記事)、これは、「桜を見る会前夜祭」のことを指していると考えられ(「桜を見る会」は参加費が無料である。)、「桜を見る会」についての公職選挙法違反については何の発表等もされていない。
これからすると、「桜を見る会」についての公職選挙法違反容疑での捜査は全くなされていないと考えられる。
しかしながら、当時、総理大臣であった被疑者による税金の私物化とされる公職選挙法違反による買収罪について捜査がされていないことは問題であり、検察審査会としては、さらに東京地検特捜部に対して、この点に関する捜査を尽くさせるために、不起訴不当の議決をすべきであり、その再捜査の結果、不起訴とされた場合には、検察審査会において起訴議決がされるべきである。
4 結 語
以上から、東京地方検察庁検察官検事田渕大輔による本件の不起訴処分には、「桜を見る会前夜祭」についての政治資金規制法違反については事実誤認があるとともに、「桜を見る会」の公職選挙法違反については捜査が全くなされていないと考えられるから、検察審査会による適切かつ相当な判断を求める次第である。
第8 添付資料
1 東京新聞記事(令和2年12月24日)
2 朝日新聞記事(令和2年12月24日)
3 毎日新聞記事(令和元年11月9日)
4 毎日新聞記事(令和元年12月19日)
5 申立人浅野健一の陳述書
第9 附属書類
1 処分通知書(写し) 24通
2 疎明資料写し 各1通
3 委 任 状 24通
以上