Sunday, December 06, 2020

講演レジュメ「被害者中心アプローチとは何か」

2020年12月4日

日本弁護士連合会

日韓戦後補償問題特別部会

 

被害者中心アプローチとは何か

 

前田 朗(東京造形大学)

 

 

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Ⅰ はじめに

Ⅱ 被害者中心アプローチの形成

Ⅲ 被害者中心アプローチの内容

Ⅳ 被害者補償原則10号

Ⅴ 2次被害の防止と記憶をめぐって

Ⅵ おわりに

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Ⅰ はじめに

 

  ・刑事人権論、死刑廃止論

  ・憲法9条論、平和への権利

  ・戦争犯罪論、植民地犯罪論

  ・ヘイト・スピーチ研究

  ・非国民研究

 

  ・被害者中心アプローチのわかりやすさ

  ・概念のあいまいさ

  ・概念の多様さ

  ・文脈の多様さ

 

 

 

Ⅱ 被害者中心アプローチの形成

 

  1990年代からの国連人権委員会での被害者救済・補償の議論と枠組みの形成過程。

  *『法の科学』51号論文。

 

  ・1965年 人種差別撤廃条約第6

  ・1966年 国際自由権規約第23

  ・1984年 拷問等禁止条約第13

  ・1990年代、国連人権委員会・差別防止少数者保護小委員会、

重大人権侵害の被害者の補償を受ける権利

         テオ・ファン・ボーベン

  ・1998年 国際刑事裁判所規程

  ・2001年 ダーバン人種差別反対世界会議・宣言と行動計画

  ・2005年 シェリフ・バシウニ、基本原則とガイドライン

 

 

Ⅲ 被害者中心アプローチの内容

 

    *2000年代前半の国連の被害者救済ガイドラインと被害者中心アプローチの内容

    *2019年の国連人権高等弁務官事務所文書

     201832728日、国連人権高等弁務官事務所・女性の人権ジェンダー局

ワークショップの成果文書『性暴力被害者の保護――学んだ教訓』

 

被害者中心アプローチ

    被害者の特定

    脅迫、傷害、身体的悪の危険への対応

    精神的社会支援

    スティグマとの闘い

    保護計画の財政確保

    結論

 

    第1に、被害者のアイデンティティ

2に、本人の個人的必要、被害者に耳を傾ける

3に、ジェンダーに敏感なアプローチ

4に、被害者に個人の選択ができることを知らせること

5に、被害者が容易にアクセスできて理解できる措置

6に、適切な支援を体系的に用意する完全な戦略と法・政策枠組み

7に、保護するための全体的アプローチ

8に、実現できない期待を高めることを回避

 

 

Ⅳ 被害者補償原則10号

 

    *2019年に国連人権理事会恣意的拘禁作業部会、被害者補償・評議第10

    *『救援』619

 

    ・2019年、「恣意的な自由剥奪についての補償に関する評議第10号」

    ・第1部「序文」、第2部「被害者が補償を受ける権利」、第3部「補償の諸形態」

    ・被害者――個人又は集団として恣意的な自由剥奪に当たる作為又は不作為によ

って害悪を被った人

・害悪――心身の傷害、感情的苦痛、経済的損失、基本権の実質的侵害が含まれる。家族や当該者に依存している人も含まれる。

 

     第1に賠償。原状回復、釈放、自由剥奪理由の検証

 第2にリハビリテーション。医療、心理学その他のケア、法的社会的サービス

 第3に満足措置。被害者の記念、オマージュ、称賛、公的謝罪、真実の公開、

修復援助、遺体の確認・返還・埋葬、責任者処罰

 第4に補償。喪失収入の補償、収容した動産の返還、罰金や法的費用の償還、

弁護費用の支払い。

 第5に再発防止保障。国際義務に違反する法規定改廃、恣意的自由剥奪防止の法

改正、国際人権法教育、法執行官研修・訓練、社会紛争防止・監視・解決

メカニズム促進

 

 

Ⅴ 2次被害の防止と記憶をめぐって

 

    *法と記憶と救済をめぐる最近の国際的議論の紹介。

    *『救援』597601号、及び『Interjurist201202

    *『部落解放』785号、799

 

(1)ホロコースト否定の罪の制定状況。

 

    ・歴史、体験、証言、記憶

    ・歴史修正主義――否認、改竄、正当化、称揚

    ・「アウシュヴィツの嘘犯罪はドイツに固有」との誤解

    ・欧州等約30カ国に制定法と運用実績

    ・韓国における法案策定の試み

    ・「平和の少女像」、「慰安婦記念日」をめぐる議論

 

(2)真実・正義・被害者補償特別報告者2020年報告書の紹介。

 

    ・ファビアン・サルヴィオリ報告書『人権と国際人道法の重大違反の文脈における

歴史記憶化過程――移行期正義の第五極』

 

    紛争時における記憶化

    紛争後における記憶化

    ソーシャル・ネットワークの政治化と結びついた記憶の「武器化」

 

第1に過去の侵害に光を当てる(事実の認定、刑事法では実行者の処罰)

第2に現在の問題(被害者の記憶の認知・尊重・共有化、補償の提供、体験を語ること、公的謝罪、歴史否定主義との闘い)

第3に未来のための準備(教育を通じての未来の暴力の予防、平和の文化の構築)

 

・旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷

・南アフリカ真実和解委員会

・第二次大戦後のニュルンベルク裁判

・カナダの真実和解委員会

・リベリアの真実和解委員会

・シエラレオネの真実和解委員会

・アルゼンチン真実委員会

 

2018年、ドイツ法改正(SNSにおけるヘイト・スピーチの削除)

 

 

Ⅵ おわりに

 

    ・戦後補償、戦争責任、戦争犯罪

    ・植民地責任、植民地犯罪

    ・日韓問題、日本―アジア被害地域問題、国際人権問題

    ・国際人権法、国際人道法

    ・戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド

    ・文化ジェノサイドの視点

 

 

 

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<参考文献>

前田朗「真実・正義・補償に関する特別報告書(一)(二)」『統一評論』577号、579号(2013年)

前田朗「東アジアにおける歴史否定犯罪法の提唱(一)(二) ――「アウシュヴィツの嘘」と「慰安婦の嘘」『統一評論』583584号(2014年)

前田朗「「慰安婦」問題の現状と課題――被害者中心アプローチとは何か」『法の科学』51号(2020年)

前田朗「「記憶の暗殺者」との闘い(一)~(五)」『救援』597601号(201819年)

前田朗「恣意的な自由剥奪の被害者補償のために」『救援』619号(2020年)

前田朗「日韓ニューライトの「歴史否定」とは」『部落解放』785号(2020年)

前田朗「被害者の権利と歴史記憶化過程」『部落解放』799号(2020年予定)

前田朗「コリアン・ジェノサイド論素描」『東アジア共同体・沖縄(琉球)研究』4号(2020年予定)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(六)文化ジェノサイドを考える」『さようなら!福沢諭吉』10号(2020年予定)