2018年の国連総会73会期に提出された奴隷制の現代的諸形態に関する特別報告者Urmila Bhoola報告書のテーマは「ジェンダーに基づく不平等、女性の人権の侵害、奴隷制の現代的諸形態」であった。2019年の国連人権理事会42会期に提出されたBhoola報告書のテーマは奴隷制克服のための戦略を練る分析であった。
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かつて国連人権委員会の時期には、人権小委員会に奴隷制の現代的諸形態に関する作業部会が設置されていた。1990年代に日本軍性奴隷制についての議論を行った作業部会である。2006年に国連改革が行われ、国連人権理事会が設置され、2007年の決議によって奴隷制の現代的諸形態に関する特別報告者が設置された。2008~14年はGulnara Shahinian、14~20年はUrmila Bhoola(南アフリカ、元裁判官)が特別報告者であった。2020年にTomoya Obokata(キール大学教授)が任命され、初の男性になった。
奴隷制の現代的諸形態に関する特別報告者の報告書を、時々眺めてきたが、以前と違って日本軍性奴隷制問題を取り上げていないため、きちんと読んでこなかった。
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国連総会73会期に提出された奴隷制の現代的諸形態に関する特別報告者の報告書(A/73/139. 10 July 2018)(全21頁)をごくごく簡潔に紹介しておこう。
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ブーラは「奴隷制の現代的諸形態の火に油を注ぐのは抑圧と不平等の交差する諸形態である。人種、民族、カースト、社会的経済的地位、年齢、障害、国籍、性的志向、ジェンダー・アイデンティティ、移住者の地位のような諸要因の帰結である。」と始める。ILOが2017年に発表した「現代奴隷制の世界分析――強制労働と強制結婚」に基づいて、およそ4000万人が奴隷制、2500万人が強制労働下に置かれていると推測しているが、この数値は過小評価の可能性があるという。被害者の57.6%が女性と少女である。2016年に奴隷制の現代的諸形態の人権侵害を受けているのは71.1%が女性と少女である。ブーラは国連諸機関、ILO,NGOによる多くの報告書に基づいて奴隷制の現代的諸形態の現状を確認する。
法政策的枠組みについて、ブーラは、国連社会権委員会の一般的勧告20号、国際自由権規約委員会と女性差別撤廃委員会の見解を基に検討する。古くは1926年の奴隷条約、1956年の奴隷廃止条約、最近では2000年の越境組織犯罪条約を補足する人身売買予防選択議定書があり、1999年の子ども労働の最悪の諸形態に関するILO条約に至る数々のILO文書がある。1995年の北京の世界女性会議の宣言・行動計画や、2015年のSDGsも含め、多様な文書がすでにある。
ブーラはジェンダー要因として、経済政策、グローバリゼーション、差別的法と慣行、ジェンダー・ステレオタイプに言及した上で、分野別に検討を行う。すなわち、農業、服飾産業、電子工場、宿泊・飲食業、家事労働・介護労働のそれぞれについて国際的な情報を紹介する。
次にブーラはジェンダー帰結として司法的救済にアクセスできないことを強調する。
グローバリゼーションについては、商品と資本の運動にとって前例のない機会を創り出し、生産品を最も廉価にし、企業利益を最大化するために国境を越えるようになった。2002年の女性の経済的社会的文化的権利に関するモントリオール原則が経済のグローバリゼーションに対するジェンダーの影響を示している。グローバリゼーションは女性が人権を平等に享受することを妨げ、ジェンダーに基づく暴力からの自由を妨げる。ネオリベラルのグローバリゼーションと女性に対する暴力の間の因果関係は、奴隷制の現代的諸形態における搾取を通じて、労働市場におけるジェンダー差別の帰結として、インフォーマルな雇用への女性の集中とともに、多くの文献で指摘されてきたという。
服飾労働について、世界の服飾産業で6000~7500万人が働き、そのうち75%が女性と推測される。ILOによると、服飾産業は異なる諸国にまたがる産業であり、女性化された産業であり、女性が低技能にとどめおかれるという。インドのテキスタイル産業における強制労働のジェンダー形態の調査によると、80%が女性である。バンガロールの服飾産業に関して、服飾産業労働組合の調査によると、被害を受けやすい状態での虐待、賃金に関する欺罔、労働条件の欺罔、宿舎の移動の禁止、暴行脅迫、劣悪な就労条件、劣悪な生活条件が報告されている。
タミルナドゥ州の調査によると、貧困地域の周縁化されたダリット共同体から14歳の少女が徴募されている。契約書もなしに非健康的な条件で長時間労働を強いられ、賃金支払いが滞り、ボーナスの約束をして労働者を職場につなぎとめる方法がとられている。移動の自由は厳しく制約され、労働組合は無視されている。
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ブーラは結論として、奴隷制の現代的諸形態根絶のためのジェンダー枠組みの創設に向けて多くの勧告をまとめている。国連に対して、各国に対して、企業に対しての勧告である。奴隷制禁止のための国際文書、特に1930年の強制労働条約の2014年の議定書、2011年のILO家事労働条約、女性差別撤廃条約及び選択議定書の批准。労働における暴力やハラスメントに関連するILO条約の批准。2015年のSDGsの目標8.7のための政策。ビジネスと人権に関する指導原則の適用等々。
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奴隷制ノート01