Wednesday, February 24, 2021

奴隷制ノート01

ジェームス・M・バーダマン『アメリカ黒人史――奴隷制からBLMまで』(ちくま新書)

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073587/

<奴隷制開始からブラック・ライヴズ・マターが再燃する今日に至るまで。アメリカ黒人の歴史をまとめた名著を改題・大改訂した新版。>

<奴隷制が始まって以来、黒人は白人による差別や迫害に常に遭ってきた。奴隷船やプランテーションでの非人間的な扱いを生き延び、解放され自由民になっても、「約束の地」である北部に逃れても、彼らが人種差別から解放されることはなかった。四〇〇年にわたり黒人の生活と命を脅かしつづけてきた差別と、地下鉄道、公民権運動、そしてブラック・ライブズ・マター(BLM)に至る「たたかい」の歴史を、アメリカ南部出身の著者が解説する。>

目次

第1章 アフリカの自由民からアメリカの奴隷へ

第2章 奴隷としての生活

第3章 南北戦争と再建―一八六一〜一八七七

第4章 「ジム・クロウ」とその時代―一八七七〜一九四〇

第5章 第二の「大移動」から公民権運動まで―一九四〇〜一九六八

第6章 公民権運動後からオバマ政権まで―一九六八〜二〇一七

第7章 アメリカ黒人の現在と未来

アメリカ南部出身の早稲田大学名誉教授によるアメリカ黒人通史である。新書1冊でアメリカ奴隷制の歴史を概観できる。読みやすく有益な本である。オバマ政権時代のことや、現在のBLMも取り上げている。バスケットボールの八村塁の「ブラックニーズ」(ブラック+ジャパニーズ)も紹介されている。

現在のアメリカにとって重要なテーマだが、世界じゅうの人種差別にも直接関係する。日本の人種差別にも関連するが、同時に日本軍性奴隷制のような奴隷制への視点としても重要である。著者は「慰安婦」制度等には言及していない。日本関連で著者が言及しているのは、第2次大戦中の在米日系人に対する収容所政策とアメリカの公式謝罪である。在米日系人に謝罪・補償したのなら、黒人奴隷制にも謝罪・補償が必要ではないかという文脈である。もっともだ。アメリカ黒人が受けた被害に対する賠償は最大24兆ドルとの推計があるという。

本書で一番引用したくなった箇所は次の1節である。

「『レイシズム』という言葉に中立性はない。『レイシスト』の反対語は『非レイシスト』ではない。その反対語は、『反レイシスト』であり、それは、権力や政策や個々人の態度のなかに問題の根幹を見出し、解体しようと行動する者のことである。『反レイシズム』は異なる『人種』の人びとを理解しようとする絶え間ない試みであり、レイシズムに向き合わない、ただの『人種にたいする受動的な態度』である『カラー・ブラインド』になることではない。だれかが他者を、生物学的に、あるいは民族性によって、身体の特徴によって、文化的背景、ふるまい、階級、もしくは肌の色によってジャッジする――そのとき『レイシズム』があらわれる。『レイシズム』は一人の人間をステレオタイプに押し込め、その個人を、対等に権利と機会を与えられた、対等な存在として認めない。」

日本ではこのことがなかなか理解されない。

「非レイシストのつもり」程度の論者が幅を利かせている。

そして「非レイシストのつもりの立場から、レイシストと反レイシストの間に立っているかのごとく錯覚して発言する論者」が少なくない。

「レイシズムは良くないと言いながら、レイシズムを容認する論者」があまりに多い。

「ヘイト・スピーチは良くないと言いながら、ヘイト・スピーチ規制には断固反対と唱えることによって、実際にはヘイト・スピーチを容認する論者」である。

多数の憲法学者やジャーナリストがこの立場である。この論者たちは、一転して「反レイシズム」を「過激だ」「極論だ」などと攻撃し始める。

それによって、自分が、「その個人を、対等に権利と機会を与えられた、対等な存在として認めない」立場に加担・協力していることに気づこうとしない。

本書はこうした論調に対する批判としても有意義である。

日本軍性奴隷制をめぐる議論が始まった1990年代から奴隷制について何度も何度も発言してきた。

前田朗「性奴隷とはなにか」荒井信一・西野瑠美子・前田朗編『従軍慰安婦と歴史認識』(新興出版社、1997年)

前田朗『戦争犯罪と人権』(明石書店、1998年)

クマラスワミ『女性に対する暴力』(明石書店、2000年)

マクドウーガル『戦時性暴力をどう裁くか』(凱風社、2000年)

1926年の奴隷条約、ILO強制労働条約、「醜業協定」「醜業条約」等の解釈が中心である。また、国連人権委員会の「奴隷制の現代的諸形態に関する作業部会」の議論を紹介してきた。2001年のダーバン会議の時も奴隷制をめぐる議論が中心だった。さらに、国際人道法における「人道に対する罪としての奴隷制」についても国際的議論を紹介してきた。

何度も発言してきたが、奴隷制について日本では今だに理解されていない。歴史的な奴隷制概念や、国際法における奴隷制概念を無視した議論が横行している。

最近では次の本で「慰安婦」問題との関連で奴隷制概念について論じておいた。

日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会編『性奴隷とは何か』(御茶の水書房、2015年)

奴隷制、性奴隷制、性暴力概念について議論するための基礎知識として、今後時々、奴隷制に関連する勉強をして、ノートを書き留めていくことにする。