中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)
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申恵丰「インターネットとヘイトスピーチ――国際人権法の観点から」
はじめに
Ⅰ 人種差別撤廃条約とその国内実施
1.4条の規定とこれに対する留保・解釈宣言
2.4条の国内実施状況
3.日本の状況
(1)
ヘイトスピーチと不法行為法の解釈・適用
(2)
ヘイトスピーチ解消法
(3)
地方公共団体及び国の行政機関によるネット上のヘイトスピーチ対策
Ⅱ ヨーロッパにおけるヘイトスピーチ禁止規範とそれに
2.刑事法の手段による人種主義及び外国人嫌悪との闘いに関するEU理事会枠組み決定
(1)
EU枠組み決定とそれに基づく国内法整備
(2)
EU枠組み決定を受けた行動綱領――IT業者によるヘイトスピーチ削除の取り組み
おわりに
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国連レベルの人種差別撤廃条約の国内実施と、欧州レベルの欧州評議会やEUの取り組みの紹介・分析を通じて、ヘイト・スピーチの刑事規制とオンラインからの削除の取り組みの現状を明らかにする手堅い論文である。取り上げられた情報の大半は私も紹介してきたが、これだけ手際よく整理することはできていない。
4条の国内実施についてはフランスとオーストラリアの状況を取り上げているが、この2カ国は日本と同様に4条に留保を付しているが、フランスは刑事規制を行いオーストラリアは国内人権委員会を活用している。また4条は刑事規制だけを要請しているわけではないので、民事法や行政法のレベルの規制も必要であるという。
欧州評議会レイシズムと不寛容と戦う欧州委員会の政策勧告の紹介もなされている。「ホロコースト否定犯罪」への言及も紹介している。欧州諸国における「ホロコースト否定犯罪」について私はこのところ調査中だが、東欧と西欧とでは状況がかなり異なるので、整理の仕方を考える必要がある。
EU理事会枠組み決定を受けた行動綱領(2016年)について私は紹介していない。その実施状況も少し紹介されている。今後まとまった研究が期待される。
「ヘイトスピーチを明文で禁ずるのでなく不法行為の規定で対処することの一つの限界は、不法行為法は金銭賠償による救済をもたらしうるにとどまり、人種差別を防止し及び再発を防止する規範としての役割を十分果たしうるとはいい難いことである。2016年にはヘイトスピーチ解消法が成立したが、同法にも、人権条約に沿った形でのヘイトスピーチの定義、及びそれを明確に『違法』とする規定はなく、人の行為規範また当局の法的措置の根拠として用いられるにはおのずと限界がある。」
同感である。
最後に申は2019年のオンライン・テロ防止の「クライストチャーチ・コール」に言及している。これも重要であり、さらに詳細な研究が望まれる。