中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)
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ヘイト・スピーチ刑事規制については、ヘイト・スピーチの本質論を抜きに、「表現の自由」が語られてきた。「ヘイト・スピーチ刑事規制は表現の自由を委縮させるから憲法に抵触するので許されない」という非常識で奇怪な主張が横行してきた。このため私は「インターネットとヘイト・スピーチ」という問題設定をできるだけ回避してきた。「インターネットとヘイト・スピーチ」という問題設定をすれば「表現の自由」の議論に陥ることが目に見えているからだ。国連人権理事会の女性に対する暴力当別報告者は「オンライン暴力」という表現を用いているし、EUでは「サイバー暴力」という言葉も用いられる。私もこれらの表現を使う。とはいえ、「インターネットとヘイト・スピーチ」という問題設定は重要であり、喫緊の解題である。
本書の編者のうち2人はヘイト・クライム研究会で一緒に研究してきた。信頼できる研究仲間の編集による著書なので、じっくり勉強したい。
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冒頭にジャーナリストの中村一成のエッセイが収められている。新聞記者時代とフリーになってから、いずれもヘイト・スピーチや歴史修正主義との闘いを続けてきた経過が紹介されている。中村については
https://maeda-akira.blogspot.com/2017/02/blog-post_3.html
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次に中川慎二、木戸衛一、辛淑玉による鼎談「インターネットとヘイトスピーチ」だ。3人とも昨春まで留学でドイツに滞在していた。コロナが流行した時期に、木戸と辛は帰国したが、中川はオーストリアに滞在を続けたようだ。新型コロナとヘイトスピーチの関連、ドイツと日本の対比、植民地主義の変容、そしてフライデーズ・フォー・フューチャー、そして選民思想と天皇制。
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木戸「フライデーズ・フォー・フューチャーが問題提起しているのは、今までの生き方、過剰生産・過剰浪費・過剰廃棄の生活様式でいいのかということですよね。先ほども新自由主義の話題が出ましたが、強欲資本主義というか、自然環境も人間社会もボロボロにする暴力経済を何とかしなければいけない。」
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辛「もう、殺されないですむにはどうすればいいのかっていうレベルなんだと思うんですよ。」
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中川「やっぱり敗戦の時に本当に天皇制を廃止していたらよかったんですよね。」
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木戸「コロナ危機に乗じて差別とニヒリズムを使嗾し体制転覆も謀る『反コロナ運動』は、民主主義は民主主義の敵にどれだけ寛容であるべきなのかという問いを改めて投げかけている。」