中川慎二・河村克俊・金尚均編『インターネットとヘイトスピーチ――法と言語の視点から』(明石書店、2021年)
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金尚均「ヘイトスピーチの社会問題化とヘイトスピーチ解消法」
序 問題
Ⅰ インターネット上のヘイトスピーチ
Ⅱ ヨーロッパにおける対応
Ⅲ ドイツにおける新立法(SNSにおける法執行を改善するための法律)
Ⅳ 若干のまとめ
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序ではヘイトスピーチ解消法の問題点・限界を確認し、Ⅰでネット上の情報の特殊性やネット被害回復の困難さを確認した上で、金はヨーロッパにおける対応としてプラットフォーム行動規範と欧州委員会の対応を紹介し、本論でドイツの新立法を詳しく紹介・検討する。
ドイツでは刑法に民衆煽動罪の規定がありヘイト対策が成されてきたが、SNSへの対応は不十分であった。プロバイダの自主規制が模索されてきたがやはり不十分なため、SNSにおける法執行を改善するための法律に至った。
ドイツ国内に200万人以上の利用者のいるSNSの迂遠映写に、苦情手続きを設け、利用者の苦情を受理し、刑法上問題になる書き込みを24時間以内に削除又はブロッキングすることを義務づけ、実施しなければ最高500万ユーロ(企業には5000万ユーロ)の罰金を課すことにした。刑法上問題になるものに、犯罪の煽動、テロ団体結成、児童ポルノとともにヘイト・スピーチが掲げられている。苦情処理手続きも具体駅に定められている。
金は新法を「義務を懈怠した場合に過料を科すことで、従来、司法による判断に委ねていた微妙な表現内容もホスティング・プロバイダに対応を迫ることになる。第1に単に表現と交流の場としてのプラットフォームを中立の立場で提供しているにすぎない、そして表現の自由という基本的人権の保護に照らし表現の自由について司法判断に委ねるとのホスティング・プロバイダの態度、第2に問題ある投稿による法益侵害の拡散と継続、そして第3に投稿者の行為の『野放し』状態、というこれら三者三つ巴の狭間でホスティング・プロバイダを対象にしてとられたインターネット上の表現対策と言える」という。
「インターネット技術の発展によって社会において差別に対する障壁が低くなるおそれすらある」ので、ルールづくりが必要となる。
新法で違法な情報とされているのは刑法上の犯罪に該当する表現である。「特定人を攻撃対象にしてない誹謗中傷表現はドイツにおいても民事賠償の対象とはならず刑事規制の対象でしかない。このような刑事規制の対象にしかならない表現行為を中心に削除又はブロッキング措置をとることは、ドイツ通信媒体法との関係で法の間隙が生じることを回避し、これらの拡散の阻止という見地からは一定の意義があると思われる」という。
ドイツ法の仕組みの概要がわかって参考になる。フランス法は、刑罰導入について一部違憲との判決が出たようだが、欧州全体での取り組みがどのようになっていくのか知りたいところだ。