国連事務総局報告書『女性、平和、安全保障』の紹介。
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Ⅲ 女性、平和、安全保障にかかわる前進、溝、難関の現状
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D 軍縮と軍備管理
過去30年間で、核兵器使用のリスクが高まっており、核不拡散条約の協定ができずにいる。サイバースペースも暴力拡散に寄与しており、生物化学兵器使用の危機も続く。
武器輸出条約は締約国に武器輸出がジェンダー暴力に用いられることのないよう評価することを義務付けている。しかし、そのための基準は確立されていない。行動計画に関する最新の報告によると、62%の国家が政策形成や履行にジェンダー配慮を入れているが、2021年、新しい行動計画を策定したのは、フランス、ドイツ、メキシコ、カザフスタン、ウガンダのみである。
多国間の軍縮フォーラムにおいて発言した4か国の代表のうち女性は1名であった。軍縮や武器輸出統制の分野での女性の活動は限られている。
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E 政治参加と代表
2022年3月のリビア独立真実調査チームによると、女性政治家・活動家に対する暗殺、誘拐、攻撃がはびこっている。リビア女性問題大臣が脅迫を受け、ヘイト・スピーチが広まっている。
世界の女性議員は26%で、紛争中の国では21%である。国家レベルよりも地方レベルの方が比率が高く、地方レベルは34%である。だが紛争中の国では22%である。2022年7月、女性が政府の元首になっているのは27か国である。
ジェンダー・クオータなどの一時的特別措置は、女性候補の増加・維持に大きな役割を果たす。ジェンダー・クオータ制を法定した国では24%である。地方レベルでは27%である。イラクでは、2021年選挙に際して、選挙運動におけるヘイト・スピーチ、サイバー攻撃の犯罪化など、国連が支援して女性候補に対する暴力に対処した。
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F 経済復興と資源へのアクセス
経済復興への女性の統合は、平和追及の基本要素である。政府、国債的財政機構、私的セクターが、職場におけるジェンダーギャップ、女性に対する差別と暴力が国内経済(GDP)に悪影響を与えることを評定すべきである。2022年、25~35歳について極貧状態なのは男性100に対して女性124である。
アフガニスタンでは、ターリバーン政権獲得後、女性の雇用が減り、GDPが5%減となった。イエメンでは、職場と教育におけるジェンダーギャップの縮減が経済発展に多大の影響を与えている。ハイチでは、新型コロナで仕事を失った女性は24%、男性は15%である。
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G 法の支配と女性の司法へのアクセス
コロンビアのジャーナリストのジネス・ベドーヤの誘拐と性的虐待事件の後、米州人権裁判所がきねんすべき決定で、2000年、コロンビア政府には彼女の誘拐、強姦、拷問について責任があるとした。裁判所はコロンビアに、捜査、訴追、処罰によって、すべての女性ジャーナリストを保護するよう命じた。
国内レベルでは、2021年、紛争中の国の70%がパリ原則に合致した国内人権機関を見直している。その3分の1弱が女性主導である。国際レベルでは、ジェンダー暴力について国連人権理事会による調査が始まった。
ドイツの裁判所は、アリア情報機関高官だったアンワル・Rについて、拷問、強姦、性暴力など人道に対する罪について有罪として終身刑を言い渡した。別のドイツの裁判所は、ダエシュのメンバーにジェノサイドの罪で有罪を言い渡した。ヤジディの5歳の少女の奴隷化事件に関係する。グアテマラでは、先住民族マヤ・アチの女性に対する奴隷化、強姦、性暴力について5人の準軍事部隊メンバーに有罪を言い渡した。南スーダンでは、国連の支援を得て、性暴力事件に関する特別法廷が開かれた。
法執行の局面でも女性が重要な役割を担っている。2021年11月、ヒラリー・チャールズワースが国際司法裁判所判事に選出され、76年間で110人の判事のうち5番目の女性となった。グアテマラでは、セプル・サルコ事件裁判で先住民女性たちがリーダーシップを発揮した。ガンビアでは、真実和解委員会におけるトーファ・ジャロウの証言が、前大統領による性暴力についての証言であったが、女性に対する暴力に対処する運動を強化した。
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H テロリズムと暴力的過激主義の予防と対抗
女性嫌悪とテロリズムには密接な連関があるのに見過ごされてきた。ほとんどのテロリストのイデオロギーや政治的アイデンティティにおいて女性嫌悪が中核にあり、その宣伝、採用する戦術、被害者の選択に影響してきた。モザンビークのカーボ・デルガドでは、2018年以来、600人以上の女性が武装勢力に誘拐された。一部は金銭支払いによって解放されたが、奴隷にされたままの女性が多数である。マリで勢力を拡大している武装勢力は、女性抑圧的なルールを定め、女性を脅迫している。イエメンでは、活動家女性に対する迫害に加えて、逮捕、換金、強姦が行われている。
反テロ政策や立法がなされるようになってきた。2019年以来、反テロにおける人権擁護特別報告者は、20か国で119人の女性にインタヴューした。2001~18年、140か国が反テロ法を制定した。だが、人権活動家が反テロ法によって規制されている。イスラエルは、パレスチナ女性委員会連盟のような人権団体を、2016年の反テロ法に言うテロ団体に指定した。2021年11月、国連の特別報告者たちは、ヴェネズエラに市民団体の登録、管理、財政問題に関して、特に女性団体に悪影響を与えるテロ団体への資金提供について意見を表明した。
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I 気候変動とその平和と安全保障への含意
女性は気候変動、気候危機による悪影響を受けている。国連女性の地位委員会第66会期は、気候変動と環境災害が女性に悪影響を及ぼし、紛争状況や人道危機を招いているとした。
女性団体やネットアークは機構危機の分析を進めている。太平洋地域のフェミニスト団体は、太平洋気候安全保障ネットワークを設立し、政策形成、評価、危機対応の研究をしている。
環境活動家に対する暴力が関心を集めてきた。多くの環境活動家は先住民族やマイノリティ集団のメンバーである。ホンデュラスでは、2021年、ベルタ・カセレス殺害事件で多国籍企業の酢力発電会社社長が有罪となった。国連環境計画と国連女性連盟は、コロンビアのチョコにおける地域コミュニティのライフラインであるアトラト河を保護する女性環境活動家に支援を提供している。