国連事務総局報告書『女性、平和、安全保障』の紹介。
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Ⅲ 女性、平和、安全保障にかかわる前進、溝、難関の現状
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A 和平過程と政治的移行におけるジェンダー平等と女性の有意義な参加の前進
「スーダン現代史は平和協定をごみ屑同然にしてきたが、それは女性を排除したからである」と、2021年9月13日、国連安保理事会で、ハラ・アルカリブ「アフリカの角の女性戦略的イニシアティブ地域ディレクター」が述べた。「過去の過ちから学ばなければならない」。200人以上の女性たちが安保理事会に、ほとんど同じような通報をしている。
国連事務総長が述べたように、和平過程において女性の直接参加を妨げる障壁を克服する具体的な措置が求められる。国連事務総局、現地調整官、顧問、代表者とそのチームの誠実な努力が必要である。女性団体、女性がリードする市民社会団体、紛争分析へのジェンダーの統合、女性平等を確保する特別措置が必要である。
政治的平和構築問題局が組織したハイレベル戦略会議が継続している。それぞれの文脈に影響を与え、ジェンダーの主流化を強化する措置を確認する機会となっている。例えば、国連スーダン統合移行支援団は2022年のハイレベル戦略会議を利用して、女性の参加と代表の選出をするようになった。
2021年、ブーゲンヴィル、キプロス、ジュネーヴ会議、リビア、シリアについて、国連が関与した和平過程に女性が代表として参加した。ただ、比率は19%にとどまり、2020年の23%より低下した。
2021年、国連調停支援職員の43%が女性となった。しかし、ジェンダー平等の促進は、全職員の責任につながり、質的なジェンダー分析を行う能力を要求する。女性団体やフェミニズム運動の透明かつ日常的な関与は、女性の参加を優先する平和のための圧力を強化する。2021年、国連が主導した5つの和平過程は市民社会団体の協力を得て行われ、ジェンダー専門家が協力した。パプアニューギニアでは、ブーゲンヴィル女性連盟会長が国連主導の和平協議に招かれた。
2021年の平和協定25のうち8(32%)が女性と少女に言及している。この20年間の平均を超えている。協定の類型、国連の関与、女性の参加、市民社会の参加、及び紛争期間、すべてがジェンダーへの言及をするか否かにかかわる。2021年、南スーダンのジョングレイにおける平和協定のような地域的協定に詳細なジェンダー規定が盛り込まれた。ジョングレイ協定には3人の女性代表が署名者として関与した。マリでは、2022年9月2日、15人の女性が協定監視委員会に選出された。
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B ジェンダーに応答したPKO(平和維持と平和作戦)
国連事務総局がPKOに関して女性、平和、安全保障問題を優先課題としていることは、ジェンダー専門性や、責任メカニズムの前進に影響を及ぼしている。
中央アフリカ国連多元的統合安定団は、和平委員会委員を2020年の21%から21年の34%に増加させた。マリでは2021年12月の国民対話において女性が主要な役割を担った結果、2022年6月、選挙法に関するジェンダー平等法が採択された。南スーダンではコミュニティレベルの和平交渉の参加者の48%が女性であった。
国連は軍縮過程やコミュニティ暴力縮減計画においてジェンダー対応の支援を続けている。PKOの中にはジェンダー・クオータ制を定めた例もある。マリでは、コミュニティ暴力縮減計画の50%が女性である。コンゴ民主共和国では23%、カンボジアでは74%である。
女性の完全な、平等な、意味のある参加は義務的であることを要する。占領下パレスチナのガザ地区では、緊急シェルター、学校、医療センターなど30カ所に女性だけの編成チームが設置されている。コンゴ民主共和国のキヴ地区では、地域住民と国連PKOをつなぐコミュニケーションを女性チームが担っている。
(*報告書の立場は、PKO等の軍事部門に女性が採用されることが良いことであり、前進であるとしている。「女性兵士問題」への特段の言及はない)
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C 紛争解決と人道危機における女性と少女の人権とリーダーシップの保護と促進
紛争に影響を受けている国では、安全保障の劣悪化により女性と少女が被害を被っている。アフガニスタンでは、多くの家族が冬の夜に暖をとるために家財道具を燃やしている。食料を得るために娘を売りに出している。ミャンマでは、軍事クーデタの後、人道支援の必要な人々が100万から1400万になった。衣料品業や病院勤務のように女性が多い業種は特に影響を受ける。多くの少女が学校に行けなくなった。
コンゴ民主共和国では、2021年、食糧危機に追いやられたのは1560万から2700万に増加した。シリア人の80%が人道支援を必要としている。飲料水不足の危機にあり、農業労働人口が70%のため被害が大きい。妊娠した女性が貧血や栄養失調である。子ども結婚、親密なパートナーによる暴力、自殺が増加している。
イエメンでは、妊娠した女性は安全に出産施設にアクセスできないため、2時間に1人の割合で死亡している。ハイチでは、ギャングによる暴力事案が増加しており、女性の3分の1が誘拐の危険に会う。レバノンは人口の82%が貧困に陥り、出産コントロール、避妊等のコストが高いため望まざる妊娠や危険な中絶という結果を招く。
2021年、3300件の紛争関連の性暴力を確認した。紛争関連の性暴力に関する事務総局報告書は49件を取り上げている。公的生活における女性が標的とされるのは、女性を沈黙させ、信用を失わせる戦略である。イラクにおけるイスラム国のシンジャー攻撃の後、8年間、20万人のヤジディ人が収容所に移送され、2800人の女性が抑留されたままである。リビアでは紛争関連の性暴力によりトリポリのシャラ・アルザウィヤ拘禁センターにおける5人のソマリア人少女の例のように、女性が拘禁されている。南スーダンでは、2021年、イェイのヌエル難民収容所が襲撃され、少なくとも19人の女性が性暴力を加えられ殺された。
2022年、国連事務総局報告書によると、紛争関連の性暴力による妊娠や、そのために出生した子どもが苦難に陥っている。差別的法や有害な社会規範のため、紛争によって加速された人身売買の被害にあっている。ウクライナでは、2022年2月24日より前には20カ所の医療サービス・産婦人科がジェンダー暴力被害者に支援をしていたが、2か月後に運営していたのは9カ所に過ぎない。