学術会議会員任命拒否に抗議する全ての皆様に緊急に呼びかけます
学術会議を根幹から変質させる政府「方針」「法案」との闘いを!
2022年12月25日
学術会議会員の任命拒否理由の情報公開を求める弁護団
福田 護 三宅 弘 米倉洋子 南 典男 大江京子 関守麻紀子 大山勇一 神谷延治 辻田航 三宅千晶 安齋由紀(いずれも弁護士)
はじめに
2022年12月6日、内閣府は「日本学術会議の在り方についての方針」を唐突に公表しました (https://www.cao.go.jp/scjarikata/20221206houshin/20221206houshin.pdf)。「方針」は、学術会議の独 立性・自律性を根幹から変質させる内容であるうえ、政府はこの方針を盛り込む法案を拙速にも1月からの 通常国会に提出し成立させようとしています。しかし、学術会議と学問を政治に従属させる法律の成立を許 してはなりません。
以下、「方針」の内容をご紹介し、市民の皆さまと各団体における緊急の闘いを心から呼 びかけます。
1 6名の会員任命拒否と1162名の法律家による情報公開請求
2020年10月1日、菅義偉内閣総理大臣(当時)は、日本学術会議(以下、「学術会議」といいます) が法に従った適正な手続で会員として推薦した105名のうち6名の任命を、理由も一切明らかにしないまま拒否するという、日本学術会議法違反の前例のない暴挙を行いました(以下、「本件任命拒否」といいます)。
本件任命拒否に強く抗議する1162名の法律家(法学者・弁護士)は、2021年4月26日、情報公 開法に基づき、政府に対し、任命拒否の理由がわかる行政文書等の開示請求を行いましたが、政府は文書の 「不存在」を理由に不開示決定をしました。そこで、同年8月、情報公開請求人は行政不服審査法に基づく 審査請求を行いました。
私たちはこの審査請求人の弁護団です。現在、「情報公開・個人情報保護審査会」の答申を待っているとこ ろです。
2 学術会議会員人事の自律性は憲法23条で保障されている
学術会議は、科学者集団としての学問共同体であり、その政治権力からの独立性・自律性は、憲法23条 の学問の自由によって保障されています。学術会議が「独立して」職務を行うとされるのは(日本学術会議 法3条)、憲法23条の要請に基づくものです。そして、政府から独立した組織であるからこそ、学問に裏付 けられた公正な立場で政府に意見を述べることができ、学問を人類の福祉に役立てるという学術会議の目的を達することができるのです。
そして、会員人事の自律性は、学術会議の独立性の根幹をなすものです。だからこそ、「内閣総理大臣の任命権は形式的なもの」との政府答弁が重ねられ、そのとおりに運用されてきたのです。
従って、本件任命拒否は、憲法23条違反です。
私たちは、情報公開請求を通じて、本件任命拒否には正当な理由などないことを明らかにするだけでなく、 本件任命拒否が違憲・違法な過ちであったことを政府に認めさせ、6名の任命を実現し、将来にわたって二 度と再び違憲・違法な任命拒否を行わせないことをめざしてきました。
3 内閣府「日本学術会議の在り方についての方針」(2022 年12 月6 日)の驚くべき内容 ―学術会議の独立性・自律性を根幹から揺るがすもの
ところが、内閣府は、冒頭に述べたとおり、「日本学術会議の在り方についての方針」(以下、「方針」とい います)を公表しました。以下、特に、会員の選考・任命に関連する内容を紹介します(「方針」に文章化さ れていない内閣府の説明も含みます)。
① 学術会議には「政府等と問題意識や時間軸を共有」することが求められているとの表現が、再三繰り返 されています。学術会議の独立性・自律性という視点がなく、政府に協調し、追随する組織になることを 求めています。
② 学術会議は「新たな組織に生まれかわる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要」との言葉で総論を 締めくくっており、根本的な変質を迫っています。
③ 会員選考のルールや選考過程への「第三者委員会」の関与が提起されており、会員人事の独立性・自律 性が損なわれるおそれがあります。
④ 「内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」との文言があり、内閣 総理大臣の実質的任命権や任命拒否を、正面から肯定するように読み取れます。
⑤ 「できるだけ早期に関連法案の国会提出を目指す」とされ、具体的には、年度末(2023年3月末) までに通常国会に法案を提出した上成立させるという意図が表明されています。
⑥ 法案成立後、改正法に基づいて会員選考・任命を行うため、2023年10月の会員改選は行わず、「次 期改選は1年半程度延期する」とされています。
4 学術会議の独立性を守ることは、国民・市民の自由を守り、戦争への道を阻むこと ―市民の力で学術会議を守ろう!
通常国会での法案提出・成立の阻止を! このたび唐突に出された政府の「方針」は、政府の意向に沿う人を会員にし、政府が気に入らない人を排 除することを可能とする法律を作り、学術会議の独立性・自律性を完全に失わせようとするものです。これ は、憲法23条に違反して、政府の下に科学・学術を従属させようとするものであり、学術会議の変質・解 体に他なりません。
学術会議は、科学者が戦争に協力したことの反省から1949年に設立され、軍事研究に反対する声明を 繰り返し出してきた経緯もあります。12月16日閣議決定されたいわゆる安保3文書は、敵基地攻撃能力 (反撃能力)の保有、防衛予算GDP2%・5年で43兆円などを打ち出し、いま日本は、本格的な軍事国家へと舵を切ろうとしています。その中で、安保3文書は官民の技術力を安全保障分野に積極的に活用する とし、また、学術を軍事に動員する経済安保法などの法律も成立しています。このような情勢の下で、政府は、政治権力から独立した存在の学術会議が、政府の安全保障政策の妨げになると考えているのではないで しょうか。
学術会議の独立性・自律性を侵すことは、広く国民・市民の、学問、思想、良心、表現の自由の侵害につ ながり、戦争への道を開くことにつながります。
2022年12月21日、日本学術会議は、内閣府の「方針」を厳しく批判し、「強く再考を求める」声明を出しています
(https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-s186.pdf)。
この声明を支持しま しょう。
通常国会の開会は、もう間もなくです。この問題の重大性・緊急性を、抗議声明など様々な方法で多くの人々に知らせ、世論の力で「方針」を撤回させ、「法案」提出を断念させましょう。国民・市民の力で、学術会議の独立と学問の自由を守りましょう。
私たち弁護団も、力を尽くす決意です。
以上