池上英洋『「失われた名画」の展覧会』(大和書房)
ラファエッロ・サンツィオの<祭壇画>やチマブーエの<礫刑図>のように天災で失われた作品、カルパッチョの<悪魔にとり憑かれた男の治癒>やドラクロワの<ライオン狩り>のように焼失した作品、クリムトの<医学><哲学><法学>やルーベンスの<ラザロの蘇生>のように戦争やテロによって失われた作品、ドガの<マネとマネ夫人>やモネの<草上の昼食>、あるいはヒエロニムス・ボスの<エッケ・ホモ>のように人為的に破壊された作品、そしてフェルメールの<合奏>やゴッホの<ケシの花>のように盗難で失われた作品など、様々な理由から失われ、もはや見ることのできない名画の数々。
――本書は、こうした名画を探訪する。ギリシャ、ローマから現代までの西洋美術史を中心に、驚くべき数の名画・名作が失われてきた。現存して、見ることのできること自体が驚きかもしれない。東洋の書画なども失われた作品の方が多いだろう。秀れた美術作品とは、それ自体が高い美的価値を持つだけではなく、運よく時代の荒波を乗り越えて、現在も見ることのできる作品と言うことになる。
著者はイタリアを中心とする西洋美術史の研究者であり、専門研究のみならず、一般向けの新書・入門書も手掛け、読者に素敵な読書体験を提供してきた、博識かつ手練れの執筆者である。
失われた名画・名作と言えば、戦乱ゆえに、アフガニスタンの美術館から消え去った名作のことを思い出す。中国や朝鮮半島から消え去った(日本のどこかに隠匿されたままの)大量の文化財も。