アメリカ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/USA/7-9. 3
October 2013)によると、アメリカは奴隷廃止及び公民権運動を通じて、歴史的に人種差別撤廃の努力を積み重ねてきた。平等の正義への道に終わりはないが、過去に比較してはるかに善き公正な国になっている。2009年6月にカイロでオバマ大統領が演説したように、攻撃的スピーチやヘイト・スピーチに対する最善の解毒剤は、そうしたスピーチに反対する建設的対話である。政府は攻撃的スピーチやヘイト・スピーチに反対表明し、寛容を促すべきである。アメリカは寛容と尊重を促進するために、表現、集会、結社の自由の制限を行わないことが重要である。条約4条の制限もこれに含まれる。暴力の煽動や、暴力の現実の脅威はこれには当たらないが、そうでないものは制限すべきでない。それゆえ、アメリカは条約当事国になる際に条約4条と7条に留保を付した。
憲法に規定されているだけでなく、民主主義は思想の自由な交換の上に成り立つので、表現の自由を守るべきである。
憲法修正1条の下で、アメリカは差し迫った暴力の煽動を許していない。これは表現の自由の例外であり、差し迫った不法行為の煽動に向けられた言論だけが規制できる。ブランデンバーグ。マシュー・シェパード・ヘイト・クライム予防法の説明。
残念ながら、アメリカでヘイト・クライムと不寛容が際立っている。FBIの統計によると、2011年に、人種、宗教、性的志向、民族的・国民的出身、心身の障害に向けられ偏見の結果として6,222の刑事事件及び7,254件の軽罪が報告された。46.9%が人種的偏見、11.6%が民族的・国民的出身による偏見である。4件の殺人、7件の強姦も報告された。軽罪のうち72%は黒人に対する偏見、16.7%は白人に対する偏見、4.8%はアジア太平洋地域出身者への偏見であった。
被害者の人種故に行われた十字架燃やし、放火、銃撃、暴行は厳しく訴追している。2009~12年に140の被告人が有罪になった。その前の4年よりも73%増。2009~12年、マシュー・シェパード・ヘイト・クライム予防法で起訴されたのは15事件、39の被告人でありアーカンサス、ケンタッキー、ミシガン、ミネソタ、ミイシシッピ、ニューメキシコ、ニューヨーク、オハイオ、サウスカロライナ、テキサス、ワシントンである。
人種、国民的出身、民族に基づいてなされた犯罪は、連邦レベルでも州レベルでも刑罰加重事由である。1994年のヘイト・クライム量刑法。
アメリカの前回報告については、前田『ヘイト・スピーチ法研究序説』574頁。