モンテネグロ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/MNE/4-6. 26 September 2017)によると、憲法第55条1項は、憲法秩序の破壊、領土の統合の破壊、自由と権利の侵害、国民、人種、宗教その他の憎悪と不寛容の煽動のための政治団体を禁止している。刑法第42条aは、犯罪が人種、宗教、国民又は民族、性別、性的志向、ジェンダー・アイデンティティに基づく憎悪によって行われた場合は刑罰加重事由とする。2013~14年、憎悪に基づく犯罪は4件記録された。2015年、人種、皮膚の色、国籍、民族的出身等に基づく差別犯罪は2件であった。
差別禁止法第23条について、2013年には128件が告発され、135人が起訴された。性的志向によるものが123件、宗教が5件、国民が3件であった。2014年には、21件が告発された。性的志向が15件、宗教が2件、国民が4件である。28人が起訴された。2015年には19件の差別事件が告発されたが、性的志向が16件、国民が3件であり、22人が起訴された。2016年には45件が告発された。人種が1件、国民が3件、その他は性的志向であった。
公共平穏秩序法第19条は、国民、人種、宗教、民族的出身その他の特徴に基づいて公共の場所で人を攻撃した場合、150以上1500以下のユーロの罰金又は60日以下の刑事施設収容とする。
スポーツイベントにおける暴力犯予防法第4条は、憎悪や不寛容を煽動・助長するバナー、旗その他の物の掲示、及び叫び声や歌を禁止する。
ビジェロポリエ高等裁判所は、刑法第370条の国民、人種、宗教憎悪ゆえに生じた犯罪を1件扱ったが、本件は破棄された。
ポドゴリツァ高等裁判所は、刑法第370条の事案を4件扱った。2014年10月24日、1人が有罪となり3月の刑事施設収容となった。2015年6月5日、1人が保健施設への強制収容となった。2014年12月25日、1人が6月の刑事施設収容・執行猶予付きとなった。
ニキシッチ初審裁判所は、2015年9月30日に受理した差別禁止法の人種差別禁止に関する事案を審理中である。
ポドゴリツァ軽罪裁判所は、2014~17年5月に、9件の人種差別事案を扱った。5件は合法との結論が出たが、4件は審理中である。2件は宗教信仰の事案、7件は国民の事案である。ブドヴァ軽罪裁判所は、2014~17年5月に、公共平穏秩序法に関する2件の人種差別事案を扱った。ビジェロポリエ軽罪裁判所は、国民ゆえの侮辱事案を6件扱い、4件は終結、2件は審理中である。人権擁護者が告発した差別事案は、2012年に64件で、そのうち21件が国民、1件が宗教である。2013年は59件で、13件は前年からの事案で、新規は46件である。10件は国民、2件は宗教である。2014年は54件で、8件が国民である。2015年は83件で、10件は前年からの事案である。全件終結した。15件が国民、4件が宗教である。2016年は151件で、146件が終結、5件が翌年に繰り越した。9件が国民、3件が宗教、2件が国民である。
(*固有名詞の表記は現地語の発音に従っていない。)
人種差別撤廃委員会はモンテネグロに次のように勧告した(CERD/C/MNE/CO/4-6. 19 September 2018)。2014年改正の差別禁止法がヘイト・スピーチを禁止しているが、人種主義ヘイト・スピーチや人種主義暴力に関する統計データが十分でない。政治家が選挙運動の際にいくつかの民族集団に対してヘイト・スピーチをしたとの情報がある。インターネットなどメディアにおけるセルビア人やモンテネグロ人に対する侮辱などのヘイト・スピーチがある。ロマに対する人種主義暴力も報告されている。一般的勧告第35号を想起して、政治家による人種主義ヘイト・スピーチを非難すること。政治家による選挙運動中のヘイト・スピーチを捜査し、適当な場合には訴追し、処罰すること。ロマなどの民族的集団に対するヘイト・スピーチと闘い、犯行者が処罰されるようにすること。メディア規制機関が人種主義憎悪現象を予防・抑止すること。コンピュータ即応チームと警察庁サイバー犯罪部局に、オンラインのヘイト・スピーチに対処するため、適切な財政と技術職員を配置すること。