『いま、山川菊栄が新しい!――山川菊栄生誕130周年記念シンポジウム』(山川菊栄記念会、2021年)
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山川をきちんと読んだことがない。随分前に岩波文庫で手にした1~2冊をざっと読んだ程度で、それ以外は読んでいないため、一般的に言われているイメージしかもっていなかった。本書はそのイメージの誤りをスパッと指摘してくれて、読者は不明を恥じることになる。
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本書は下記のシンポジウムの記録集である。
「今、山川菊栄が新しい!」山川菊栄生誕130周年記念シンポジウム
https://wan.or.jp/article/show/9125
<最近、山川菊栄が注目されている。山川菊栄は、戦前戦後を通じて活躍した社会主義フェミニストであり、女性の労働権を軸に、女性が直面する諸差別が近代社会の構造に起因することを理論的に解明し、変革の指針を示し続けた先輩である。コロナ禍で浮かび上がった諸差別の撤廃に向けて、山川菊栄の思想と活動の軌跡を読み継ぎたい。>
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女性史研究家・山川菊栄記念会の鈴木裕子による基調講演「日本フェミニズム史上における山川菊栄の意義」は、山川菊栄の生涯と発言の大筋を浮き彫りにしつつ、山川が単純な階級一元論の社会主義者ではなく、女性に対する差別と暴力を告発し、今日のリプロダクティブライツにつながる議論を展開し、フェミニストによる戦争加担の時代にも抵抗を貫いたことなど、多面的で、同時に一貫した山川の思想を提示する。「忘れられた思想家」山川に学ぶ現在的意義を明らかにしている。
次の3つの報告も、それぞれのテーマを専門的に、かつわかりやすく説いている。
・伊藤セツ(昭和女子大学名誉教授)
「国際的視野に立つ社会主義女性論の論客としての山川菊栄」
・豊田真穂(早稲田大学文学学術院教授)
「労働省婦人少年局と山川菊栄」
・浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授・山川菊栄記念会)
「性差別撤廃運動の新展開」
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参加者による討論も充実している。
本書は110頁のブックレットだが、第2部「山川菊栄をもっと知りたいあなたへ」では、写真や年譜、年譜など各種資料が収められている上に、和光大学名誉教授・山川菊栄記念会代表の井上輝子による解説「山川菊栄の生涯と思想」が光る。コンパクトで、わかりやすく、とても良い入門解説だ。
(*井上輝子は本年他界したという。10年以上前に何かの講演会会場で出会ったことがあるが、直接お話を伺ったことはないのが悔やまれる。)
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シンポジウムにおける発言を見ると、各地で「山川菊栄を読む会」、学習会が開かれてきたようだ。だが、それは女性たちの学習会だ。日本フェミニズム史に燦然と輝く山川を女性たちが読んで学ぶのは当然だ。
しかし、男性こそ山川にきちんと学ぶべきであることが本書を通じて良くわかる。本書は人文社会系の男性研究者必読の書である。本書を手掛かりに、山川の思想の一端なりとも自分で読む必要がある。私自身の課題である。
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本書はまだAmazon等では購入できないようだ。出版元は山川菊栄記念会。
山川菊栄記念会
http://roudousyaundou.que.jp/kikue_002.htm
山川菊栄略年譜(1890-1980)