デンマークがCERDに提出した報告書(CERD/C/DNK/22-24. 7 February 2019)
第1に、ヘイト・クライムの管轄である。2015年春、ヘイト・クライムと闘う責任が、デンマーク安全情報サービス機関から国家警察に移管された。国家警察はヘイト・クライムが全警察管区で的確に扱われるよう、警察官に十分な研修を行っている。ヘイト・クライムの特定、記録、捜査、処理に関する法執行官研修は、デンマーク警察学校の研修に含まれている。ヘイト・クライム監視計画の履行のため、全管区にガイドラインを送付し、捜査と記録を促進している。2018年、デンマーク国家警察は、IT行政システム(POLSAS)にヘイト・クライムを正確に記録するために協議している。刑法266条に違反する犯罪についてはPOLSASに記録している。
2017年、デンマーク国家警察は、ヘイト・クライム監視方法に変更を加えた。POLSASにおけるヘイト・クライム記録では検索が不十分だったので、検索を容易にするように変更した。
デンマーク国家警察はヘイト・クライム監視計画の年次報告書を出版し、2018年9月に第3次報告書をまとめた。報告書は2017年以後の事件を446件記録している。報告書作成時、95件102人に対する訴追が行われた。2017年のヘイト・クライムの半数が被害者の国籍、民族性、人種、皮膚の色に関連する動機で行われた。監視方法に変更があったため、直接の比較はできないが、2016年以前と2017年以後の傾向は同じと思われる。
第2に、司法省とコペンハーゲン大学の協力により、人種的動機による暴力犯罪等の被害者になるリスクに関する年次報告書を作成している。2008~2016年報告の分析では、暴力犯罪被害者の7%が人種主義によるもので、6%が人種主義による可能性があるものであった。女性よりも男性被害者の方が人種動機による被害を受けやすい。
第3に、検察庁のヘイト・クライム・ガイドラインである。警察と検察のヘイト・クライム処理ガイドラインは、検察庁の命令に基づいている。これは刑法266条bと81条6項、及び人種差別禁止法に関するものである。ガイドラインは2016年に改訂された。すべてのヘイト・クライムをPOLSASに記録することにした。
2011年命令に基づくガイドラインでは、人種差別禁止法の適用が地方検察官の任務とされていなかった。2016年ガイドラインは、人種差別禁止法の全事件が地方検察官の管轄とされた。現行ガイドラインはICERDの要請に従って、刑法266条b違反事件の効果的捜査を求めている。
第4に、重点項目としてのヘイト・クライムである。2016~17年、ヘイト・クライムが検察官の重点項目とされた。法解釈、量刑、証拠規則を判例において明確にすることである。警察と検察はこのために継続的に統計に取り組んでいる。
第5に、人種差別禁止法である。検察官は人種差別禁止法を管轄し、年次報告書を作成している。2013~18年の報告書には人種差別禁止法違反が13件記録されている。公訴提起されたのは4件で、2件は無罪となり、1件は有罪が確定し、1件は法的警告がなされた。1件は手続き中である。
第6に、人種主義動機を持った犯罪(刑法81条6項)である。刑法81条6項違反の全事件を警察統計から引き出すことはできないが、検察庁の判例分析によると、2013~17年、一連の判決があり、民族的出身、信仰、性的指向に基づく犯罪について刑罰加重がなされている。
第7に、デンマーク雇用法では、ジェンダー、人種、皮膚の色、宗教、政治的信念、性的指向、年齢、障害、国民的社会的民族的出身に基づく差別は違法である。労働市場差別禁止法があり、直接差別と間接差別を禁止している。
CERDのデンマークへの勧告(CERD/C/DNK/CO/22-24. 1 February 2022)
人種主義ヘイト・クライムとヘイト・スピーチ事件が過少にしか報告されていない。包括的な情報収集メカニズムが存在しない。刑法81条6項について、警察、検察、裁判所が記録した事件数にギャップがある。人種差別を助長する団体、当該団体への参加を刑法上の犯罪としていない。政党の政治論議において偏見と排外主義が見られる。委員会は次のように勧告した。
人種主義ヘイト・クライムとヘイト・スピーチ事件を被害者が報告できないようにしている障壁を除去すること。被害者がヘイト・クライムとヘイト・スピーチは処罰される犯罪であり、救済が得られることを啓発すること。当局が捜査、訴追、処罰する意思を高めること。
複合的な動機の場合も含めて人種主義動機の犯罪が効果的に捜査、訴追されるようにヘイト・クライム法を適用すること。
人種主義ヘイト・クライムとヘイト・スピーチの包括的な情報収集制度を設置すること。犯罪のカテゴリー、ヘイト動機の類型、標的とされる集団、司法的フォローアップを含めること。
警察と、ヘイト・クライムとヘイト・スピーチの影響を受けるコミュニティの対話を継続すること。
条約第4条を完全に履行し、暴力と人種差別を助長・煽動する団体と宣伝活動を禁止し、公的議論におけるプロパガンダとフェイク・ニュースに対抗言論を強化すること。
CERDは人種主義プロファイリングについて、警察が民族的マイノリティを犯罪被疑者として嫌疑をかける結果、デンマーク人と民族的マイノリティとで訴追の比率が異なることを指摘する。デンマークには人種プロファイリングの明確な定義がなく、法執行官のためのガイドラインもないため、人種プロファイリングを防止できないと指摘する。
人種プロファイリングを明確に定義し、法律で禁止し、警察による職務質問等における人種プロファイリングを予防すること。
被逮捕者の民族的出身を系統的に記録し、民族プロファイリングの統計情報を収集すること。
法執行官による民族プロファイリングの申立件数を監視し、申立に対処すること。
デンマーク人以外の民族背景を有する者を警察の第一線に採用し、無意識に行われる人種プロファイリングを可視化し、減少させる努力を強化すること。