大久保賢一『迫りくる核戦争の危機と私たち――「絶滅危惧種」からの脱出のために』(あけび書房)
https://akebishobo.com/products/nuclearwarfare
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大久保は弁護士で、日弁連憲法問題対策本部核兵器廃絶部会長、日本反核法律家協会会長、核兵器廃絶日本NGO連絡会共同代表である。
著書に『「核の時代」と戦争を終わらせるために』(学習の友社)
https://www.hankaku-j.org/books/220122.html
『「核兵器も戦争もない世界」を創る提案』(学習の友社)
https://www.hankaku-j.org/books/210806.html
『「核の時代」と憲法9条』(日本評論社)
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8036.html
があり、核廃絶運動の理論的先導者である。
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大久保はこのところ矢継ぎ早に核廃絶を求める著書を送り出しているが、2022年の著書は2冊目になる。ロシア・ウクライナ戦争における核使用の危機を敏感に受け止めて、核使用を阻止し、核廃絶を訴える。日本における「核共有」論への批判も重要な動機である。
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序 核戦争の危険性と私たちの任務
――核兵器廃絶と9条の世界化を
第1部 ロシアのウクライナ侵略を考える
第2部 米国の対中国政策と核政策
第3部 核兵器廃絶のために
第4部 核兵器廃絶と憲法9条
資 料 核兵器禁止条約の基礎知識
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400頁に及ぶ本書で、大久保は従来からの核廃絶の主張を展開するが、同時に2022年の現在の課題として、ロシア・ウクライナ戦争、米中対立、日本における反核の理論と運動について積極的に議論を繰り広げる。現在このテーマでもっとも精力的な議論をしている論者である。
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世界には12,000発の核弾頭があり、プーチンは核使用の威嚇を行い、米中対立も激化している。「核の傘」に依存している日本は核兵器禁止条約に反対し、政治家は「核共有」を唱えている。
「核持って絶滅危惧種仲間入り」という川柳を紹介しながら、大久保は、この状況を打開するために論戦を挑む。
「明日、地球が滅びようとも、私は、今日、リンゴの木を植える」
本書には大久保の論説30本が収録されている。4部構成であるが、どこから読み始めるのも自由だ。後ろから読み始めても構わない。弁護士であり反核の理論家であるが、大久保の論説はフツーの市民にも読みやすい。専門知識をかみくだき、ていねいに論じている。自説を展開することよりも、反対意見を紹介して、一つひとつていねいに応答する。論点が明確で、読者は自分の目で比較検討できる。自分の頭で考えなおすことができる。
本書に限らず、大久保の著作は、いずれもフツーの市民に語りかけるスタイルである。大久保を直接知る者なら、大久保は話し言葉と書き言葉が見事に合致した論者であることを知っている。
もちろん、反核、反戦争の理論書だから、国際法の引用も決して少なくない。核不拡散条約や核兵器禁止条約や、国際司法裁判所の判決も引用される。それでも、小難しい本にならないところが、大久保流である。
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理論論争の中で、大久保は絶妙のネーミングも駆使する。一例をあげると、大久保は「『死神のパシリ』の妄動を許すな」という。「死神のパシリ」とは、9条の非軍事平和主義を投げ捨てて、核兵器に頼れと主張する「核共有」論者のことである。具体的には安倍晋三元首相、高市早苗自民党政調会長(当時)、維新の会などのことである。死神とは「人を死に誘う神」、パシリとは「使い走り」である。核不拡散条約も核兵器禁止条約も無視して、核兵器依存を公言するのは「死神のパシリ」だという。
「主観的にはプーチンと敵対しているつもりのプーチン主義者」と言ってもよいのかもしれない。
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私は「安倍晋三は安倍サタン晋三だ」と命名した。日本はサタンだと主張する統一教会の広告塔をわざわざ買って出たのだから、安倍サタン晋三こそ「本名」というべきだろう。「パシリ」ではなく「ミドフィルダー」かもしれない。
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第3部「核兵器廃絶のために」で、大久保は「核兵器5か国首脳共同声明の虚妄」「岸田首相の核兵器廃絶論の虚妄」「日本政府は、なぜ、核兵器禁止条約を敵視するのか」「浅田正彦氏は『核兵器廃絶』おいわない!?」「『核軍縮コミュニティー』の対立を乗り越えることは可能か」「『核兵器のない世界』を実現するために政府との『対話』と『共同』は可能か」「『市民連合』と野党の政策合意について」など、変転する情勢に合わせて、多彩な議論を繰り広げる。
はっきりしているのは、原則である。平和であり、戦争回避であり、核抑止批判であり、国際人道法であり、憲法の国際協調主義であり、9条である。つねに原則を確認し、その都度の論点に即して議論を展開する。柔軟だが、堅固でもある。どちらとみるかは論者の立ち位置によって異なるかもしれない。
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国際情勢は最悪である。国内情勢も悲惨である。憲法無視の岸田政権が悪法の積み重ねに励もうとしている。
だが、大久保は諦めない。大久保は俯かない。口を閉ざすことも、筆を置くこともない。現実が厳しくなればなるほど、舌鋒鋭く現実に立ち向かう。平和運動の現場に根差し、非核・反核運動の現場からエネルギーを得て、大久保は弛むことなく、核戦争の危機に立ち向かう。
終末時計が「残り100秒」を示しても、1秒でも針を戻すために大久保の闘いは続く。