Saturday, April 20, 2013

ヘイト・クライム禁止法(12)

モロッコ政府が人種差別撤廃委員会に提出した第17・18回報告書によると(CERD/C/MAR/17-18. 9 November 2009.)、2003年11月11日に改正された刑法第431の1bis条は、差別犯罪を次のように定義している。「国民的出身、社会的出身、皮膚の色、人種、家族状況、健康状態、障害、政治的意見又は労働組合委員であることを理由として自然人の間で区別すること、又は人が特定の人種、国民、民族集団又は宗教の構成員であることや、そう考えられたことのために自然人の間で区別すること」。差別犯罪は、1月以上2年以下の刑事施設収容および1200ディラム以上5万ディラム以下の罰金を科される。差別犯罪は自然人に対してだけではなく、法人に対しても成立する。刑法第431の1bis条第2項は、その構成員の出身、人種、家族状況、健康状態、障害、政治的意見又は労働組合活動のために、又は特定の人種、国民、民族集団又は宗教の構成員であることや、そう考えられたことのために、法人に対してなされた区別を規定している。差別犯罪に科される刑罰は、便益やサービスを与えないこと、雇用の否定、人に対する制裁、解雇にいたる差別行為に適用される。犯罪の定義には経済活動も含まれる。   2002年10月3日に改正されたプレス法第39bis条は、マスメディア、公開の議論、公開集会、公開の場所における人種差別を禁止している。1月以上1年以下の刑事施設収容および3000ディラム以上3万ディラム以下の罰金を課される。この禁止は、人種差別撤廃条約第四条が規定するように、人種差別の教唆にも適用される。差別行為の実行者だけでなく、資金提供も含む人種差別の援助などの共犯にも適用される。共犯にも同じ刑罰が適用される。  2002年7月23日の結社法は、差別を推進する結社の設立を禁止している。同様の規定は最近制定された政党法にも含まれている。結社法第3条は、人種主義的基盤に基づいた結社、又は差別の教唆を目的とする結社は違法であるとする。結社法に違反すれば民事制裁として当該結社は無効と宣言され、当該犯罪を犯した個人は1万ディラム以下の罰金を課される。

Thursday, April 18, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(3)

ブルガリアが人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/BGR/19. 14 March 2009.)によると、ブルガリアには、人種主義、反セミティズム、外国人嫌悪その他の差別思想を流布する運動や組織は存在しない。個人や小規模グループによる個別の事件が存在する。2000年12月、ヒトラーの『わが闘争』が首都ソフィアの書店に置かれたため、捜査が行われ百部が押収された。憲法第39条第1項は表現の自由を保障し、同条第2項は、表現の自由といえども他人の権利を損ない、犯罪を行うために利用してはならないとしている。2001年、ソフィア検事局は刑法第162条違反の嫌疑で2人の市民について捜査を開始した。2005年6月、2人は同書を2000部出版したことで起訴された。                                                                          他方、2001年、国際的な支援を得たスキンヘッドのグループによるインターネット・サイトに、ナチスのシンボル、『わが闘争』本文、その他のファシスト文書が掲載された。同サイトは削除され、検事局により被疑者は身柄拘束され、起訴された。                                         2001年9月、サモコフ市で一団の生徒たちがロマの生徒たちを襲撃した。これを知った被害者の親たちが学校へ向かい、その途上で3人の市民に殴打を加えた。警察は、ロマ生徒を襲撃した9人の生徒、及び市民を殴打した2人のロマを特定し、事件の予防のために警備を強化した。

ヘイト・クライム禁止法(11)

フランス政府が人種差別撤廃委員会に提出した第17~19回政府報告書(CERD/C/FRA/17-19. 22 July 2010.)によると、フランスにはいくつかの人種差別行為処罰規定がある。ヘイト・クライム禁止法は、従来は公開の差別煽動を処罰してきたが、2005年3月25日の法律2005-284号によって刑法が改正され、公開ではない中傷、侮辱、差別的性質の教唆を犯罪とし、地方裁判所と地区裁判所の管轄としたことである。                                                                                 刑法第六二四-三条は「その人の出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でない――現にそうであれ、そう考えられたものであれ――ことに基づいて、人又は集団に公開ではない中傷をすれば、第四カテゴリーの犯罪に設定された罰金を課す。ジェンダー、性的志向、障害に基づく公開ではない中傷も同じ刑罰を課す」と規定する。                                                                         刑法第六二四-四条は「その人の出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でない――現にそうであれ、そう考えられたものであれ――ことに基づいて、人又は集団に公開ではない侮辱をすれば、第四カテゴリーの犯罪に設定された罰金を課す。ジェンダー、性的志向、障害に基づく公開ではない侮辱も同じ刑罰を課す」と規定する。                                                                                 この規定の最大の特徴は、言うまでもなく、「公開でない」中傷、侮辱に刑罰を課していることである。他の国ではあまり類例のない、相当議論になる規定である。実際にどのように適用されているかはわからない。公開でない発言なので、他に人がいない場で、AがBに向かって差別発言をして、録音などの証拠が残っていれば、犯罪が成立することになるのだろうか。あるいは、少数ながらも居合わせて差別発言を聞いた証人が必要なのだろうか。                                                                                 フランスには、「アウシュヴィッツの嘘」罪もある。これは後日、また別に紹介することにする。                                                                                              さらに、1936年1月10日の法律は、その出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でないことに基づいて、人又は集団に対する差別、憎悪、暴力を教唆したことにより訴えられた、又は同じ差別、憎悪、暴力を正当化する考えや理論を広めたと訴えられた結社、又は事実上の団体に解散を命じる権限を大統領に与えている。この規定により、2000年以後、3つの団体が解散命令を受けた。Unite Radicale(2002年8月6日)、Elsass Korps (2005年5月19日)、Tribu Ka (2006年7月28日)である。                                                                           1949年7月16日の法律第14条は、青年向けの出版物に関する1987年法律によって改正され、18歳未満の者に提供、贈与、販売されるための出版物が、人種差別や憎悪を含んでいるために、青年にとって危険な場合、出版を禁止する命令権限を内務大臣に与えている。大臣命令によって公開展示や広告も禁止される。2000年以後、この命令が出されたことはない。

ヘイト・クライム禁止法(10)

エストニア政府が人種差別撤廃委員会に提出した第8・9回政府報告書(CERD/C/465/Add.1. 1.April 2005.)によると、2001年6月、議会が採択した刑法第10章は、政治的市民的権利に対する犯罪としての平等侵害犯罪を3つ定めている。社会的憎悪の煽動、平等侵害、遺伝的リスクに基づく差別である。さらに、2004年7月の刑法改正によって、社会的憎悪の煽動と平等侵害について、その行為が加重事情のもとで行われたか否かによって、3段階の刑罰が用意された。                                                                「刑法第134条 誘拐 (1)彼又は彼女を人種、ジェンダー、その他の理由によって迫害又は屈辱を与えるような状態で、及び彼又は彼女がそのような取り扱いからの法的保護を失うか、その状態から逃れることをできなくさせて、暴力又は詐欺によって、人を連れ去ることは、罰金又は5年以下の刑事施設収容に処する。(2)前項の行為が、複数人に対して、又は18歳未満の者に対して行われた場合は、2年以上10年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                刑法第151条 社会的憎悪の煽動 (1)国籍、人種、皮膚の色、性別、言語、出身、宗教、政治的意見、財産状態又は社会的地位に基づいて、憎悪又は暴力を公に煽動する行為は、300ユニット以下の罰金又は拘留に処する。(2)前項の行為が、複数回行われた場合、又はそれにより法によって保護された他人の権利や利益、又は公共の利害に重大な損害を惹起した場合、3年以下の刑事施設収容に処する。                                                                          刑法第152条 平等侵害 (1)彼又は彼女の国籍、人種、皮膚の色、性別、言語、出身、宗教、政治的意見、財産状態又は社会地位に基づいて、人の権利を不法に制限し、又は人に不法に特恵を与えることは、300ユニット以下の罰金又は拘留に処する。(2)前項の行為が、複数回行われた場合、又はそれにより法によって保護された人の権利や利益、又は公共の利害に重大な損害を惹起した場合、罰金又は1年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                          刑法第153条 遺伝的リスクに基づく差別 (1)彼又は彼女の遺伝的リスクに基づいて、人の権利を不法に制限し、又は人に不法に特恵を与えることは、300ユニット以下の罰金又は拘留に処する。(2)前項の行為が、複数回行われた場合、又はそれにより法によって保護された人の権利や利益、又は公共の利害に重大な損害を惹起した場合、罰金又は1年以下の刑事施設収容に処する。」                                                                      誘拐罪や、遺伝的リスクに基づく差別に関してこの種の規定は珍しい。立法を促すような事件が起きていたのかもしれない。

Wednesday, April 17, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(2)

オランダ政府が人種差別撤廃委員会に提出した第18回報告書(CERD/C/NLD/18. 3 March 2008)には多数の判決が紹介されている。主要なものをいくつか紹介。                                                    2002年2月22日、レルモンド地裁判決は、民族的マイノリティ集団に向かって、「外国人は出て行け」「ホワイト・パワー」「汚い外国人、汚いトルコ人」などと叫んだ男性を、40日間に80時間の社会奉仕命令と、1ヶ月間の刑事施設収容(執行猶予付)とした。                                                  2002年6月11日、ドルトレヒト地裁判決は、新国民党のウェブサイトが、モロッコ出身者を危険視し、犯罪者扱いし、アパルトヘイトの必要性を唱えたことについて、新国民党議長に刑法137条d(差別の煽動)で有罪とし、高齢で健康状態が悪いことから、罰金660ユーロを言い渡した。                                                                                              2003年4月29日、ゼルトゲンボシュ控訴審判決は、「ストップ難民」というタイトルで、難民を批判したパンフレットをデモの際に配布した3人が、軍靴を履き、ネオナチの標識を付していたこと、「外国人は出て行け」と叫んでいたこと、3人のうち2人は同種前科があることに着目して、2人はそれぞれ6週間と4週間の刑事施設収容、残りの1人は4週間の刑事施設収容(2週間は執行猶予)を言い渡した。                                                                              2003年9月11日、アムステルダム控訴審判決は、公開集会でムスリム、ユダヤ人、スリナム人、アンティル諸島人を侮辱する発言をした極右政党のオランダ民族同盟議長に4ヶ月の刑事施設収容(2ヶ月は執行猶予)を言い渡した。                                                                    2005年12月29日、アムステルダム地裁判決は、モロッコ人やトルコ人を批判したオランダ・シオニスト連盟議長を不起訴とした検察官の決定に対する異議申立について、議長発言が公開討論の過程におけるものであり、その文脈ではただちに侮辱や中傷には当たらないとして、申立を却下した。                                                                                                       2006年11月6日、ブレダ地裁は、皮膚の黒い女性に向かって「ホワイト・パワーは永遠よ、いまこそホワイト・パワーよ」と叫んだ若い女性に、500ユーロ(うち250ユーロは執行猶予付)を言い渡した。                                                                                                 2006年11月17日、アムステルダム控訴審判決は、「風刺ウェブサイト」と称してユダヤ人や同性愛者への侮辱をした男性に1週間の刑事施設収容(執行猶予)と500ユーロの罰金を言い渡した。

Tuesday, April 16, 2013

ヘイト・クライム禁止法(9)

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ政府が人種差別撤廃委員会に提出した第7・8回政府報告書(CERD/C/BIH/7-8. 21 April 2009.)によると、刑法第163条は、憲法秩序に対する犯罪を定めているが、その中に国民的人種的宗教的憎悪の煽動を手段とするものが含まれている。刑法第166条は殺人罪の規定だが、第2項では、人種的国民的宗教的理由による殺人の場合に刑罰加重が定められている。そして刑法177条がある。                                                              「刑法第177条 個人の平等侵害(1)人種、皮膚の色、国民的民族的背景、宗教、政治その他の信念、性別、性的志向、言語、教育、社会的地位又は社会的出身に基づいて、国際条約、憲法、法律、その他の規則又は連邦の一般行為によって提供された人の公民権を否定又は制限した者、又はこれらの差異、背景、その他の地位に基づいて、人に正当化されない特権や有利な地位を与えた者は、6月以上5年以下の刑事施設収容に処する。(2)連邦の公務員又は責任ある者が、前項の犯罪を行った場合、1年以上8年以下の刑事施設収容に処する。(3)連邦組織における公務員または責任ある者が、連邦の構成員又はその他の居住者の言語や文字の平等な使用の原則に違反して、連邦組織、企業又はその他の法人に自己の権利を行使するために提出する文書において、その者の言語又は文字の自由な使用を制限又は否定した場合、罰金又は1年以下の刑事施設収容に処する。(4)連邦組織の公務員又は責任ある者が、連邦内および特定の組織で、自由な雇用の市民権を否定又は制限した場合、6月以上5年以下の刑事施設収容に処する。」                                                                                               独特の差別禁止条項である。特に177条(3)が実際にどのように適用されているのか気になる。日本では、裁判所が、法廷におけるアイヌ語や琉球語の使用を否定してきた。

Monday, April 15, 2013

ヘイト・クライム禁止法(8)

オーストラリアは英米法圏であり、人種差別撤廃条約第4条(a)の適用を留保している。このため憲法学の論文では「オーストラリアにはヘイト・スピーチ規制法はない」と指摘されてきた。その通りだが、もう少し丁寧に見る必要がある。                                                      オーストラリア政府が人種差別撤廃委員会に提出した第15~17回政府報告書によると(CERD/C/AUS/15-17. 2 June 2010.)、2004年法律2号はテレコミュニケーション犯罪に関する改正法で、故意に脅迫、嫌がらせ、攻撃といった方法でインターネット搬送サービスを利用することを犯罪とした。2007七年市民権法改正によって、市民権の得喪に関連する非差別原則を導入した。                                                                       以上はオーストラリア連邦の話だが、州ごとに事情が異なる。                                                               ヴィクトリア州では、2006年に人権章典ができ、2007年1月1日に施行された。国際自由権規約にならった内容で、先住民族の個人的権利と集団的権利を認めている。人種に基づく差別からの自由も盛り込まれている。2004年の多文化ヴィクトリア法によって社会各層に多文化主義が導入され、2001年の人種的宗教的寛容法が人種的宗教的中傷を禁止している。1995年平等機会法の再検討により、ヴィクトリア人権章典を検討中である。                                                                                         西オーストラリア州では、2007年に人権法が提案されている。2004年の刑法改正法により、人種的中傷の犯罪規定が改正された。2段階の犯罪構造の適用(複合犯罪)がなされている。もっとも重大な犯罪に最大14年までの重罰化がなされた。言論の自由の保障を確認する一方、暴行脅迫などの犯罪について「人種」的動機を刑罰加重事由にした。2006年の平等機会改正法は「人種に基づいて攻撃する行動」を違法とした。「人種に基づいて攻撃する行動」とは、人種、又はその人種に関係する特徴やその人種に帰せられる特徴に基づいて、その人の親戚や団体帰属について、プライヴェートな場合以外で、侮蔑、侮辱、屈辱又は脅迫するような行動を行うことである。

Sunday, April 14, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(1)

 アイスランド政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/ISL/20. 27 October 2008)によると、2002年4月24日、最高裁判決は、週末新聞インタヴューで、不特定の集団に対して、あざけり、中傷、屈辱を加えた被告人について、有罪を確定させる判決を言い渡した。判決は、被告人の表現の自由と、国籍、皮膚の色、人種のゆえに攻撃を加えられないことのいずれが優先するかを判断する必要があるとした。判決は、新聞における被告人の表現は根拠のない一般化であり、人種的優越の妥当な根拠が見出せないとした。裁判所は、被告人の発言は、他の皮膚の色の人を貶めて白人の優位を図るものだったと判断した。

ヘイト・クライム禁止法(7)

チュニジア政府が人種差別撤廃委員会に提出した第19回報告書によると(CERD/C/TUN/19. 17 September 2007.)、チュニジアは人種差別撤廃条約第4条の履行に必要な措置を講じているという。1993年8月の改正プレス法第44条は、「人種、宗教又は住民の間に直接憎悪を促進し、人種隔離や宗教的過激主義に基づいた意見を広めた者」は処罰される。1993年11月の刑法第52条bisは、テロリスト攻撃を処罰するとしているが、その中に「憎悪又は人種的宗教的ファナティズムの煽動行為は、その手段の如何に関わらず、同様とする」として、処罰されるものとしている。                                               さらに、刑法第165条は、「宗教礼拝又は儀式を妨げ又は混乱させた者は、6月の刑事施設収容及び罰金に処す」としている。刑法第166条は、「人に対して法的権限がないのに、暴力又は脅迫によって、人に宗教を強制したり、妨げた者は、3月の刑事施設収容に処する」としている。                                                                       1988年5月の政党組織法は政党設立の自由を定めるが、同法第2条は、政党に人権を尊重し、暴力や人種主義を避けるよう求めている。

ヘイト・クライム禁止法(6)

 スリナム政府が人種差別撤廃委員会に提出した第12回報告書CERD/C/SUR/12.31 January 2008.によると、刑法第175条は、人種、宗教、人生観に基づいた人への差別に関する規定を置いている(条文は引用されていない)。                                                                      改正草案では、職業又は習慣として、あるいは2人以上が共同して行った場合、2年以下の刑事施設収容及び/又は第二カテゴリーの罰金に処するとしている。更に次の改正案が用意されている。                                                                                              「改正刑法草案第176条b 人種、宗教、人生観、ジェンダー、性的志向又は 身体的精神的欠損に基づいて、人に差別をするための活動に参加し、財政的又はその他の方法で支援した者は、3月以下の刑事施設収容及び/又は第一カテゴリーの罰金に処する。                                                                 改正刑法草案第176条c人種、宗教、人生観、ジェンダー、性的志向又は身体的精神的欠損に基づいて、職務執行、職業、業務において故意に差別をした者は、6月以下の刑事施設収容及び/又は第一カテゴリーの罰金に処する。」                                                       改正草案がその後どうなったかは今のところ不明。第13回報告書に記載されるだろう。

ヘイト・クライム禁止法(5)

モンテネグロ政府が人種差別撤廃委員会に提出した第1回政府報告書(CERD/C/MNE/1. 7 November 2008.)によると、差別と暴力からの刑法的保護は、すべての市民に、法に基づいて平等に与えられる。2003年11月の刑法第15章「人及び市民の自由と権利に対する犯罪」には、次のような規定がある。                                                     言語・文書を自由に用いる権利の侵害(刑法第158条)――罰金又は1年未満の刑事施設収容。                                                        市民の平等の侵害(刑法第159条)――3年未満の刑事施設収容。職務中に公的権限で行った場合、3月以上5年以下の刑事施設収容。                                                      国民又は民族的関係又は文化の表現の権利の侵害(刑法第160条)――罰金又は1年未満の刑事施設収容。職務中に公的権限で行われた場合、3年未満の刑事施設収容。                                                                    宗教信仰及び宗教儀式の執行の自由の侵害(刑法第161条)――罰金又は2年未満の刑事施設収容。公務員が行った場合、3年未満の刑事施設収容。                                          刑法第17章「名誉及び評判に対する犯罪」では、モンテネグロに居住する 国民、国民集団、又は民族集団を公然と侮辱した者に、3000以上10000ユーロ以下の罰金を科している。

Wednesday, April 10, 2013

ヘイト・クライム禁止法(4)

ブルガリア                                                                  ブルガリア政府が人種差別撤廃委員会に提出した第19回報告書(CERD/C/BGR/19. 14 March 2009.)によると、次のような刑法がある。                                                      「刑法第162条第1項 人種的国民的敵意、憎悪又は人種差別を煽動又は教唆した者は、3年以下の刑事施設収容及び公的非難(公民権停止)に処する。                                              第2項 国籍、人種、宗教又は政治信念のゆえに、彼又は彼女に対して暴力を加え、又は財産に損害を与えた者は、3年以下の刑事施設収容及び公的非難に処する。                                                                第3項 前項までに規定された行為を行うための組織又は集団を組織し、その長となり、それを目標とした者は、6年以下の刑事施設収容及び公的非難に処する。                                                                     第4項 前項の組織又は集団の構成員は、3年以下の刑事施設収容及び公的非難に処する。                                                                                          第5項 裁判所は、前項までに規定された犯罪について、必要的和解を命じることもできる。」                                                                                                      「刑法第163条第1項 国民的人種的所属を理由に、住民集団、個々の市民又はその財産を攻撃する目的をもって群衆に加わった者は、次の刑に処する。                                                                                             (a) 教唆者及び指導者  5年以下の刑事施設収容                                                                                                (b) その他の参加者  1年以下の刑事施設収容又は集団労働                                                                                         第2項 群衆や参加者の1部が武装していた場合、次の刑に処する。                                                                                     (a) 教唆者及び指導者  6年以下の刑事施設収容                                                                                              (b) その他の参加者  3年以下の刑事施設収容                                                                                                            第3項 攻撃により重大な身体傷害又は死を惹起した場合、教唆者および指導者は3年以上15年以下の刑事施設収容、その他の参加者は、より重い刑に服していない限り、5年以下の刑事施設収容に処する。」  

Tuesday, April 09, 2013

ヘイト・クライム禁止法(3)

モナコ                                                                           人種差別撤廃委員会に提出された第6回モナコ政府報告書(CERD/C/MCO/6. 13 June 2008)によると、モナコ政府は、人種差別撤廃条約第4条(a)に従って、人種差別と闘うために、2005年7月15日に「公開表現の自由に関する法律」を制定した。                                                *************************************                                             第15条 公共の場所または公開集会において発せられた言葉、叫び、威嚇によって、または公共の場所または公開集会において販売され、配布され、販売のために提供され、または展示された文書、印刷物、図画、彫刻、絵画、紋章、イメージその他の書かれ、話され、見えるようにされた補助媒体によって、または公開の景観に展示されたポスターまたは掲示によって、または音響映像メディアによって、一人または複数の実行者に犯罪の実行を教唆した者は、その犯罪が実際に実行された場合、計画された重罪または主要な軽罪の共犯と見なされる。この規定は、刑法第2条に定義されているように、教唆の結果、未遂にとどまった場合にも、適用される。                                                      第16条 第15条に掲げられた手段のいずれかによって、その出身、特定の民族集団、国民、人種または宗教に帰属しているか否かによって、または、その実際の性的志向または想定された性的志向によって、個人または集団に対して、憎悪または暴力を教唆(煽動)した者は、同じ刑罰の責を負う。前項に掲げられた行為のいずれかについて有罪が言い渡された場合、その決定の全部または一部を、文書形式で、有罪とされた者の費用で、告示または広告するとの決定をすることができる。告示または広告された決定には、本人の同意があれば被害者の氏名、または被害者の法的代理人または受益者の氏名を掲載することができる。                                                                    第18条 第15条に掲げられた手段のいずれかによって、公国の居住者または一時的滞在者に対して憎悪を教唆(煽動)することによって平穏を害そうとした者は、前条に規定された刑罰の責を負う。                                                                        第24条 同じ手段による私人に対する中傷は、一月以上一年以下の刑事施設収容および/または刑法第26条第3項に規定された罰金に処する。ある民族集団、国民、人種または特定宗教、あるいは性的志向の一員であることや一員でないことに基づいて、同じ手段による中傷が個人または集団に行われた場合、一月以上一年以下の刑事施設収容および/または刑法第26条第3項に規定された罰金に処する。本条記載の行為のいずれかに有罪が言い渡される場合、第16条に規定された条件の下で、その決定の全部または一部を、文書形式で、有罪とされた者の費用で、告示または広告するとの決定をすることができる。                                                                                第25条 ある民族集団、国民、人種または特定宗教、あるいは性的志向の一員であることや一員でないことに基づいて、個人または集団に同じ手段による軽罪が行われた場合、六日以上六月以下の刑事施設収容および/または刑法第26条第3項に規定された罰金に処する。本条記載の行為のいずれかに有罪が言い渡される場合、第16条に規定された条件の下で、その決定の全部または一部を、文書形式で、有罪とされた者の費用で、告示または広告するとの決定をすることができる。

Monday, April 08, 2013

ヘイト・クライム禁止法(2)

アイスランド                                                          アイスランド政府が人種差別撤廃員会に提出した報告書(CERD/C/ISL/20. 27 October 2008)は、人種差別撤廃条約第4条に関して、まず一般刑法第180条第1項が、人種差別的理由に基づく商品やサービスの拒否が、罰金又は6ヶ月以下の刑事施設収容とし、同条第2項が、人種差別的理由に基づいて、公共に開かれた場所へのアクセスを拒否することにも適用されるとしている。刑法第233条(a)は、人種差別的理由に基づく、嘲笑、中傷、侮辱、威嚇などの攻撃をした者には罰金又は2年以下の刑事施設収容としていることを紹介している。                                                                      放送法第5条は、外国からのテレビ放送が人種や国籍に基づく憎悪を助長する場合には、一時的に放送を遮断するとしている。情報保護法は、出身、皮膚の色、人種、政治的意見、その他の信念に関する保護を定めている。

Sunday, April 07, 2013

ヘイト・クライム禁止法(1)

スロヴァキア                                                               スロヴァキア新刑法は、人種的動機に基づく行為を犯罪化し、人種差別を宣伝・煽動する組織、またはその組織への参加を不法としている。国家が、人種差別を宣伝・煽動することや関与することも許されない。刑法は、インターネットによって、人種、国民、民族集団への憎悪を煽動したり、中傷する情報を流布することを犯罪化している。刑法第122条第2項によると、その犯罪は、書面による場合も、印刷物、フィルム、ラジオ、テレビ、コンピュータ・ネットワークその他同様の効果を有する手段を用いた流布によっても、または同時に二人以上の人の前で行われた場合に既遂となる。刑法は、被害を受けた人が異なる人種であることを要件としていない。同じ人種に対して行われた場合も、人種を理由としてなされたのであれば、訴追対象となりうる。刑法は、権利や自由を制限する活動の支持や宣伝を犯罪と定義している。ネオナチその他の運動への共感を公然と表明することだけではなく、ホロコーストを疑問視、否定、容認または正当化することも犯罪化している。                                                                          刑法の運用については、いわゆる保護された人に行われた加重犯罪(刑法139条)、国民、民族または人種憎悪、または皮膚の色その他の理由に基づく憎悪に基づく犯罪(刑法140条)、特に重大な方法による犯罪(刑法138条)の有罪率が増加している。人種的動機による犯罪について、人種差別と闘う目的で、訴追と刑罰に関する新しい原則が採用され、より重い刑罰が導入された。                                                           「人種的動機による犯罪と過激主義の廃止のための協調行動委員会」が設置され、警察やNGOと協力している。すべての形態の不寛容、外国人排斥、過激主義や人種主義の表現の事例に関する情報を収集し、これらと闘うための協調行動を策定している。                                                         2006年5月3日のスロヴァキア政府決定は「過激主義と闘う政策概念」を定め、過激主義の定義を行った。過激主義と闘うための効果的で包括的な努力をしている。さらに、人種的動機による犯罪については警察庁長官の指令の下にモニターが行われている。2007年10月1日、ブラチスラヴァ地方警察に青年・過激主義局が設置され、人種的動機による犯罪を監視している。                                                                                 加えて、「人種主義・外国人排斥監視センター」が設置され、人種主義と外国人排斥に関する情報収集、記録、分析を行い、内務省に提供している。                                                                    *                                                                                                          (人種差別撤廃委員会に提出された第6~8回スロヴァキア政府報告書(CERD/C/SVK/6-8. 18 September 2009)より紹介)

Saturday, April 06, 2013

こまつ座『木の上の軍隊』を観劇

こまつ座『木の上の軍隊』を観た。                                           http://www.komatsuza.co.jp/contents/performance/                                                                                                                                          こまつ座&ホリプロ公演『木の上の軍隊』                                                            原案:井上ひさし 作:蓬莱竜太 演出:栗山民也                                                                                                                                                                                                                                                                                  出演は3人だけの三人芝居だ。しかも、山西惇と藤原竜也はずっと向き合い、掛け合いだが、片平なぎさは語りの役で、ごく一部しか掛け合いにならない。つまり、二人芝居と一人芝居が交錯しているので、実に演じにくい芝居だ。                                                                                                                                                              井上ひさしは沖縄を描くテーマをずっと抱えながら果たせずに去った。その原案をもとに、若手の蓬莱竜太が原作を下記、井上芝居を多く手掛けてきた栗山民也が演出。                                                                                                                                                     史実に基づいて、伊江島で、戦争が終わった後もそれを知らずにガジュマルの木の上で生き延びた2人の日本兵の物語だ。舞台中央にガジュマルの木がド~ンと設置され、二人の兵士は木の上で暮らす。時々上ったり下りたりするが、身体の動きはその上下が基本だ。身振り動作で演じるのではなく、大半が対話劇であり、膨大なセリフを発しなければならない。これまた実に演じにくい。役者は大変だ。                                                                                                                                                                                         蓬莱竜太もやりにくかっただろうと思う。井上ひさしの原案を引き継ぐ大役だ。言葉遊びの天才井上ひさしの真似をしても、却ってしらける。どんでん返し、物語の多重構造も井上ひさしのお約束だが、その真似もやりにくい。結局、蓬莱竜太は言葉遊びもせず、どんでん返しもなしに、舞台中央のガジュマルが見つめる世界を描き出す真っ向勝負の芝居を書いた。爆笑、曝書の連続というわけにはいかず、クスクス笑いとほっと笑いで時間を繋ぐ。だから、こんなに演じにくい芝居になったが、蓬莱竜太、よく健闘したと思う。栗山民也、藤原竜也、山西惇、片平なぎさも、さすがである。