Thursday, January 16, 2014

ビクトル・ハラを追いかけて

八木啓代『禁じられた歌――ビクトル・ハラはなぜ死んだか』(晶文社、1991年)                                                                                             昨年11月、ジュネーヴのパレ・デ・ナシオンの喫茶店で、スペインの若い法律家と平和的生存権の話をしていたところ、隣の席の人物が「平和に生きる権利ならビクトル・ハラの歌だ」と話しかけてきた。若い法律家は「アルゼンチンの歌手かな」という程度しか知らなかった。私もアジェンデ政権と9.11のことを少し知っている程度だったので、うまく説明できなかったが、日本語でもたしか本が出ていたはずと思ってネットで調べたところ本書に出会った。著者は歌手だが、中学生の時に聞いたビクトル・ハラの歌に魅かれ、ラテンアメリカをフィールドとして歌い、学びながら、やがてビクトル・ハラの生涯を追跡し始めた。ビクトル・ハラと知り合いだった人間、シルビオ・ロドリゲス、レネ・ビジャヌエバ、エドゥアルド・カラスコなど10人以上の人々に取材して、想い出を語ってもらった。ハバナで、サンティアゴで。あるいはチリから亡命して外交に滞在している人たちに。そうしてビクトル・ハラの演劇人生、歌手としての活躍、1973年の軍事クーデターによる殺害を解明していく。その中で、ビクトル・ハラだけでなく、自由を求めるチリの人々の暮らしと願い、闘いと歌を肌で感じ取っていく。ビクトル・ハラの『ポブラシオン』のもとになったポブラシオン・ラ・ビクトリアでのサラ・ゴンサレスのコンサートに飛び入り出演した時の話はまさに感動的だ。さらに、サンティアゴの刑務所で政治囚を前に歌った話も印象的だ。最初のインタヴューでキューバの歌手シルビオ・ロドリゲスに話を聞いた著者は「もう、あとには引けないと思った」と書き留めた。そこから2年余りの調査とインタヴューを終えて本書を出版したのが1991年だが、その後も著者はあとには引くことがない。ひたむきに真直ぐ進み続け、今、検察の不正義を告発し、闘い続けている。激しく、美しい闘いを、ビクトル・ハラの精神で。                                                                               健全な法治国家のために声をあげる市民の会                                                                           http://shiminnokai.net/