Sunday, September 20, 2015

大江健三郎批評を読む(5)クスッと笑える小噺伝記

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎――戦後日本の政治と文学』(筑摩書房)
著者の本をほとんど読んでいない。これといった理由があるわけでもないが、なぜか読まずに来た。『現代文学論争』は便利そうなので買ったが、一部しか読んでいない。『谷崎潤一郎伝』『川端康成伝』『久米正雄伝』などを書いていると言う。
本書は、同じ時期に颯爽とデビューし、ライバルであった文芸評論家と作家のダブル伝記だ。江藤が亡くなった後の大江の伝記部分は簡略だが、一応現在までをカバーしている。記述は単純明快で、ひたすら年代順に出来事を並べると言う方法であり、方法論的な特徴はない。江藤と大江のそれぞれの活動、発言、作品を順に並べて、若干コメントを付している。作家論も作品論も避けて、2人の辿った道のりを追いかけ続ける。

そうした伝記だが、随所で笑える。ショート・コントの連続と言ってもよいような書きっぷりである。江藤にはやや厳しいが、著者は大江を「日本文学史の三大文学者を、紫式部、曲亭馬琴、大江健三郎」とまで言っているくらいだ。とはいえ、大江に笑わされ、大江を笑いながら、楽しく執筆したと言って良いだろう。江藤と大江を中心にした「戦後文学史」であり、かつ、と言うよりも、それにもかかわらず、お笑い集だから、タメになり、楽しい。と言っても、大江が云う異化、トリックスター、パロディ、哄笑とは違う。文壇政治や奇行をネタに、クスッと笑える小噺集である。