Wednesday, March 04, 2020

そうだったのか、バンクシー


毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』(光文社新書)

いまをときめくストリート・アーティストのバンクシーを取り上げた新書だ。サザビーズ・オークションにおける作品裁断事件で世界的に話題となり、東京都港区の日の出駅近くのネズミの絵で、日本にもバンクシーが、と更に話題となった。いまや誰でも知っている匿名作家に、『ストリートの思想』の著者が挑む格好だが、著者はかなり以前からバンクシーをフォローしていたので、新書の入門書とはいえ、よくできている。知らないことばかりだが、読みやすい。

おもしろいエピソードが次々と紹介されている。一番おもしろかったのは、キング・ロボとバンクシーの「戦争」だ。1980年代にイギリスにグラフィティを持ち込んだキング・ロボと、後輩世代のバンクシーだが、あるすれ違いから敵対関係となった。バンクシーが、キング・ロボの絵に、上書きをして「戦争」を仕掛けた。これに激怒したキング・ロボが、さらにその上に絵を書き足して反撃した。すると、バンクシーはKINGの署名の前にFUCを加えてFUCKINGとして侮辱した。今度は、キング・ロボだけではなく、他のグラフィティ・アーティストたちが「参戦」して、バンクシーの作品を消しまくった。ところが、2011年にキング・ロボが事故で意識不明の重体になると、バンクシーはキング・ロボの回復を願う作品を描いて、「戦争」は終結したという。町中に、路上に、壁に、勝手に、時には違法に描いていくグラフィティなので、完成した作品の上に他の作家が書き足して意味を変えることが可能だ。ここが凄い。

西欧ではたしかに鉄道沿線の壁や、トンネルの壁に見事なグラフィティ・アートを見かけることが多い。上に書き加えられている者が多いが、前の作品が古いから、上に描いているかと思っていた。どうやらそれだけではなく、作家同士の対話、共同、時に「戦争」がおきているようだ。今後は注意してみよう。

バンクシーはブリストル出身で、その活動はブリストルからロンドンへ、そしてアメリカへ、パレスチナへ、さらには世界へと広がったという。また、今は一人ではなく、プロジェクト・チームによる活動のようだ。