鯨岡仁『安部晋三と社会主義』(朝日新書)
元日経、後に朝日新聞の安部首相番記者による安倍晋三論。
<満州国を主導した岸信介を継ぐ「統制経済」の思想水脈と、恐るべき結末>との惹句にあるように、1940年の統制経済、岸信介、その後の「日本は社会主義」論、そしてアベノミクスまで、「社会主義」という特質が貫かれていると見る。
日銀の株爆買い、出口なき金融緩和、経産省の市場への介入、安倍首相による財界への賃上げ要請など、いずれも社会主義的であるという。
話の接ぎ穂は、岸信介と社会主義者・三輪壮寿の友人関係であり、近衛新体制であり、岸による国民皆保険・皆年金であり、「公益資本主義」論であり、アベノミクスの「変節」である。
「左派の政策? いいじゃないか」という安倍発言も証左となる。「瑞穂の国の資本主義」とは実は社会主義であった。
なかなかおもしろい本だ。
もっとも、社会主義の定義がなされていない。統制経済、計画経済を言うのか。何らかの国家介入があれば社会主義なのか。おまけに国家社会主義には言及がない。この論法なら「全ての資本主義は社会主義である」と言える。
1940年の統制経済、岸信介、そして「護送船団」方式も含めて戦後日本型経済を社会主義と見なしているかと思えば、戦後は資本主義だったが、アベノミクスは社会主義、と言っているようにも読める。叙述がやや混乱しているのも定義がないためだ。
1940年体制にしても戦後高度経済成長にしても、日本型システムのメリットだけが語られる。植民地支配や占領には特段の言及がない。戦後の朝鮮特需やベトナム特需にも言及がない。日本型システムの優秀性だけが取り上げられる。つまり、周辺諸民族を踏みつけにして、略奪し、荒稼ぎして、日本経済を成長させた歴史に疑問を感じてはならない。「一国資本主義=社会主義」論が徹底している。
末尾に文献が多数列挙されているが、青木理『安倍三代』がない。朝日文庫なのに。