朝日新聞22年2月27日朝刊によると、幸徳秋水がクロポトキンに宛てた英文の手紙9通が発見されたという。1907~08年の手紙だから110年以上も前だ。
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無政府主義への傾斜、にじむ交流 幸徳秋水からクロポトキンへ書簡9通
https://www.asahi.com/articles/DA3S15217303.html
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田中ひかる(明治大学教授)、山泉進(明治大学名誉教授)らのアナーキズム研究、初期社会主義研究の成果で、オランダの国際社会史研究所やロシア連邦国立文書館から発見されたという。なるほど、そうか。
これまでクロポトキンから秋水あての手紙が5通あり、これに秋水からクロポトキン宛の9通りを加えると、そのやりとりがわかるという。
「日本語訳『麺麭の略取』は、政府によって販売禁止の処分をうけました。私の家は警官によって捜索され、すべての部数が押収されました。しかし、彼らが見つけることができたのはわずか20部だけでした。何と、良い政府であり、賢明な警察であることか!」(09年2月4日付、ロシア連邦国立文書館蔵)
2000部の秘密出版に成功した報告だという。
「韓国の動乱をご存じですか? 私たち東京の社会主義者は、昨日次のような決議を宣告しました。すなわち、私たちは日本の帝国主義政策に抗議する。また私たち日本人は韓国の人々の独立、自由、自治の権利を尊重する、という内容です」(07年7月23日付、同館蔵)
秋水は大逆事件で1911年に処刑されてしまうから、その少し前の時期だ。大逆事件がなければ、日ロの社会主義者の思想的交流がもっと深まったのに、と思わずにいられない。
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私の「非国民論」は、男では秋水、啄木、多喜二、鶴彬、槇村浩を中心に、女では管野スガ、金子文子、長谷川テルを中心に考えている。非国民論で秋水を欠くわけにはいかない。
前田朗『非国民がやってきた!――戦争と差別に抗して』(耕文社、2009年)
前田朗『国民を殺す国家――非国民がやってきた!Part.2』(耕文社、2013年)
前田朗『パロディのパロディ 井上ひさし再入門――非国民がやってきた!Part.3』(耕文社、2016年)
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戦後については井上ひさしを取り上げたが、他にも取り上げるべき非国民は多数いる。夏堀正元『非国民の思想』(話の特集)や斎藤貴男『非国民のすすめ』(ちくま書房)もある。
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前田朗編『平和力養成講座――非国民が贈る希望のインタビュー』(現代人文社、2010年)
本書には、鈴木裕子、根津公子、安里英子、金静寅、辛淑玉、木村朗、立野正裕へのインタヴューを収録した。