Wednesday, May 25, 2022

ヘイトスピーチ研究文献(197)敵意の法理

ヘイトスピーチ研究文献(197)敵意の法理

 

大林啓吾「敵意の法理」『千葉大学法学論集』第33巻第34号(2019

Ⅰ 敵の法理

Ⅱ ケネディ裁判官による敵意の法理の発展

Ⅲ 敵意の法理の機能

Ⅳ 敵意の法理の課題

Ⅴ 日本における敵意の法理

後序

奈須祐治の論文「ヘイトスピーチと『個人の尊厳』」で注記されていたので、読んでみた。憲法学における「敵意の法理」、聞いたことがなかったので興味深い。約50頁にわたる本格的な論文で、敵意の法理の形成過程、判例における展開が分析されている。

国家は時に敵意や悪意を規制することがる。大林によると、特に暴力団に関する暴対法、暴力団排除条例、暴走族追放条例などは特定の集団に狙いを絞り、社会的排除を意図して規制しているという。

アメリカ憲法には敵意に関する規定はないが、判例法において敵意に関する検討がなされ、2017年のウイリアム・アライザの研究によって一気に注目を集め、敵意の法理が議論されるようになった。敵意とは、「政治的多数派が特定の集団が気に入らないという理由で規制する事」を意味する。

「政府は公共善に適う法令しか制定してはならず、それに合致しないものは正当な利益を持つとはいえない。公衆衛生の維持や公共の安全、さらには社会的弱者の救済などは公共善に仕える正当な政府利益の典型例である。だが、少数派を敵とみなして不利益を課したり排除したりすることは公共善に仕えるとはいえないというわけである。」

アメリカの判例では、例えば、ヒッピーをフードスタンプから排除するために受給対象を変更した立法の事案、中絶規制が中絶の選択を認めないという価値判断を押し付けることが人格否定につながるとされた事案、同性愛者やバイセクシュアルに対して法的保護を認めない法制定が差別に当たらないかが問われた事案、同性愛行為を禁止するテキサス州法の合憲性が問われた事案など、いくつもの判例で、立法は敵意に基づいてなされたか否かが検討された。

大林論文はこれらの判例を丁寧に紹介・分析している。なかなかおもしろいが、大林自身が示しているように、今後の帰趨は読みにくい。第1に、敵意の法理と呼んでいるが、法理としての明確性、安定性はないようだ。第2に、他の法理、とりわけ尊厳の法理を適用すれば済む事案に強引に敵意の法理を持ち込んでいる気配もある。第3に、敵意の法理を牽引してきたケネディ判事が2018年に退官した。第4に、大林論文は「Ⅴ 日本における敵意の法理」という章を設けているが、日本でこの法理が用いられたわけではない。大林が、もし日本に持ち込めばこうなるかもしれないと仮説をたてているだけである。

敵意の法理の応用可能性は両義性があるのではないだろうか。

一方で、国家が差別的立法を行った場合に、立法過程を検討してそこに敵意があれば違憲と判断する局面である。暴対法や暴排条例よりも、もっと直接的な差別立法として、高校無償化からの朝鮮学校除外問題を考えることができる。国家が朝鮮学校を露骨に敵視して法的行為が行われている。

他方で、差別禁止法やヘイト・スピーチ刑事規制法を制定した場合、「差別は表現の自由だ」と合唱してきた日本憲法学からすると、「特定の差別的表現に敵意を持って規制する立法は違憲である」という主張につながるかもしれない。

敵意の法理はこのように両義性があるように思われる。日本の裁判所はどちらの使い方をするだろうか。レイシズムを反省してこなかった日本憲法学はどちらの使い方をするだろうか。むしろ、差別であるか否か、人間の尊厳に反するか否かという枠組みの方が自然かもしれない。

シンポジウム 敵基地攻撃・軍事予算大増強・核兵器共有

シンポジウム

敵基地攻撃・軍事予算大増強・核兵器共有

――戦争への道を突き進んで良いのかーー

 

日時  67() 午後2430分   

会場  衆議院第一議員会館・一階・国際会議室

 

戦争の実態を知らない安倍晋三元首相などは敵基地攻撃云々と勇ましいことを言っていますが、東條英機と対立した陸軍中将の石原完爾は憲法9条を歓迎しました。

今こそ、戦争放棄の立場に立って愚かな軍備拡大論を粉砕したい。

敵基地攻撃・軍事予算大増強へと突き進む、政府・自民党の危険な策動を、5名のパネラーが、徹底的に論破します。

平野貞夫・纐纈厚・山田朗・清水雅彦・佐高信という日本を代表する論客のお話は、あまりにも危険な戦争への道の愚かさを考えるうえで大きな意義のある、また大変興味深い講演になると思います。

多くの皆さまのご出席を、お待ちしております。

 

●日時  67() 午後2430分   

 午後130分開場 

●会場  衆議院第一議員会館・一階・国際会議室 

1330分から、衆議院第一議員会館ロビーで入館カードを配布

 

●申し込み先  定員(100名)になり次第、申し込みを締め切りますので、大変、恐縮ですが、なるべく早めに下記のメールアドレスまで、メールで出席申し込みを、お願いいたします。なお、その際、1.氏名 2.ふりがな 3.連絡のつく電話番号の登録、が必須ですので、ご注意下さい。

     E-maile43k12y@yahoo.co.jp

 

プログラム

 

開会

ご挨拶  発起人を代表して 佐高信(評論家)

シンポジウム

●パネラー 

平野貞夫(元参議院議員)

纐纈厚(山口大学名誉教授)

山田朗(明治大学教授)

清水雅彦(日本体育大学教授)

佐高信(評論家)

 

閉会挨拶

 

●「共同テーブル」連絡先  

藤田高景 090-88085000 

石河康国 090-60445729

Sunday, May 15, 2022

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力05

「女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力に対処する障壁」では、まず被害女性が暴力被害を届け出ないことが指摘される。2018年の列国議会連盟の調査では、セクシュアルハラスメントを届けたのは女性議員は24%、女性スタッフは6%にすぎない。身体暴力の脅迫では、50%が警察に届け出た。

被害届け出をしないのは、ジェンダーに基づく暴力に結びついたスティグマ、被害を受けやすいとか弱いと思われる心配もある。届け出をすることが利益よりもコストが大きいと考える。制度的支援がないことが障壁となる。その結果、不処罰となる。所属政党内での暴力も外に出しにくい。職場が被害者を支援するサービスや規範を用意していない。

比較可能なデータがないことも一因である。信頼できる情報や指標がないため、事件が孤立した出来事と受け止められがちである。広範に存在する構造的差別であることが見えにくい。

ジェンダー暴力に対処するために司法へのアクセスをすることが女性には障壁がある。再被害者化の恐れ、適切な法律扶助の欠如。

「女性に対する暴力への対処を前進させるために」では、女性の政治参加の権利は国際的に認められた人権であることが確認される。1979年の女性差別撤廃条約は政治的公的生活における女性差別撤廃の措置を要求している。2018年、OSCE大臣委員会は、女性の職業活動に関連する重要な決定をし、女性ジャーナリストが直面するリスクに言及し、最大限の安全と、女性ジャーナリストの経験と感心ン位効果的に対処するように決定した。女性に対する暴力を予防し、これと闘うため、女性の政治生活における権利の保障を確認した。

A 法改正

女性ジャーナリスト・政治家を保護し司法にアクセスできるようにするには立法が鍵となる。女性に対する暴力の法的定義が重要である。国連女性に対する暴力特別報告者は、性差別主義、ハラスメントその他のジェンダー暴力を禁止する法律制定を呼びかけた。

女性に対するフォンライン暴力に対処する法改正も必要である。ヘイト・クライム法において保護される属性にジェンダーを盛り込むことにより、女性嫌悪による行為をヘイト・クライムとして扱うことである。選挙法も女性に対する暴力が民主主義に影響を及ぼすので法改正が必要である。

B 議会の努力

議会は女性に対する暴力に対処する活動を取る必要がある。

   議会の行動効力にジェンダーへの配慮を盛り込むこと。

   議員に対する脅迫や暴力を調査するチームを設置すること。

   女性に対する暴力を申立てする独立事務所を議会内に設置すること。

   ハラスメント申し立て手続きを整備する。

   セクシュアルハラスメントに関する政党横断的な作業部会を設置する。

   ジェンダーとセクアシュあるハラスメントの研修実施。

   暴力被害の調査。

議会は次のような行動もとることができる。

   メディア・デジタル・リテラシー促進により、女性に対する暴力門d内の啓発。

   調査と議論のための財政支援。

   法改正過程において、メディア、公衆、市民社会と協議し、国際機関と協力。

   男性と連帯して、議会が女性に対する暴力を非難する。

C 連帯する男性

この危機に対処するには男性の協力が必要である。意思決定の多数者であり、この問題は「女性問題」ではない。被害女性に支援を提供できるのは男性である。すべての男性ジャーナリストらは自問しなければならない。

   私の言動はハラスメントに当たらないか?

   私の言動は女性に対する暴力を助長していないか?

   私は暴力を目撃しているのに、被害者に支援していないのではないか?

2016年の列国議会連盟調査によると、女性被害者の多数が自党又は反対党の男性から被害を受けた。アメリカのアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員は男性議員たちから公然と攻撃されてきた。

D 情報収集

OSCE領域における女性に対する暴力の統計データを収集する必要がある。共通の定義や指標で、同じ方法で情報収集するべきである。情報は啓発にも重要であるし、問題の広汎性を理解できるようになる。

E 支援サービス

女性ジャーナリストらには暴力のタイするガイダンス、助言、支援が必要である。職場は被害者中心で、トラウマを配慮した支援を提供するべきである。職場には暴力に対処するための女性のネットワークを作るべきである。政府はジェンダー暴力と闘う女性団体に継続的な資金を提供するべきである。

Saturday, May 14, 2022

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力04

「女性政治家に対する暴力」では、女性政治家も男性政治家に比べて独特のリスクにさらされているという。女性ジャーナリストと女性政治家は多くの点で共通の状況である。

政治の舞台における女性の数が増えているが、女性の政治代表が増えるにつれバックラッシュが生じている。世界の政治暴力を調査した「武力紛争地・事件データプロジェクト」2019年報告書によると、女性に対する政治暴力は過去最高となっている。実行し助長しているのは男性政治家の場合が多い。

A 議会選挙、公開集会における暴力

2018年の国連「女性に対する暴力」特別報告者によると、女性政治家に対する暴力は、ジェンダーに基づく暴力や脅迫であり、女性政治家が女性であるがゆえに対象とされ、身体的、性的、精神的害悪を被る。議会選挙は歴史的に男性によって設定されてきたので、議会は今日でも男性支配的である。女性が議員に選出されると、ジェンダー規範に挑戦していると見做され、男性議員からの抵抗に遭遇する。

世界的状況の調査によると、女性は候補になったとたんに攻撃される。家族や親族から反対され、選挙運動は暴力的に邪魔され、暗殺するなどの脅迫を受ける。選挙に当選すると、女性は、立法府における敵対的労働条件、セクシュアルハラスメント、ソーシャル・メディアでの攻撃を受ける。

政治領域における女性に対する暴力の調査データは限られている。列国議員連盟の調査が数少ない世界的調査である。2016年に39か国の55人の女性議員の調査、及び2018年の欧州評議会の議会の協力による123人の女性議員への聞き取りである。

2016年調査では、女性がジェンダーゆえに受ける差別と暴力が浮き彫りになった。82%が精神的暴力を受け、22%が性的暴力、26%が身体的暴力、33%が経済的暴力を受けた。

精神的暴力とは、男性議員やソーシャルメディアでの性差別的発言、殺すとかレイプするといった脅迫である。2019年、アメリカの議員イルハン・オマールは女性嫌悪、イスラム嫌悪、レイシズムにより政治家から攻撃された。

性的暴力はセクシュアルハラスメントや性的関係の強要の試みである。2016年調査ではセクシュアルハラスメントは共通の出来事であり、胸期触るような望まない不適切なジェスチャーが、議場や政治集会やディナーや公用旅行の際に行われる。ベラルーシでは、スヴィトラーナ・チハンスカヤ議員はいつも性暴力の脅迫を受けてきた。

欧州各国の女性議員の47%が殺す、レイプする、殴る等の脅迫を受けた。59%がオンラインの性的攻撃を受けた。68%が外見についてのコメント、あるいはジェンダーステレオタイプによるコメントの対象とされた。

B 政治における女性に対するオンライン暴力

女性も男性もオンラインでの攻撃を受けるが、男性については政治活動に向けられるのに、女性には直接向けられ、女性が恐怖、恥、傷害により政治生活ができなくなるように仕向ける。暴力が頻繁に繰り返され、性的な性質を有することが多い。

オンライン暴力はソーシャルメディア上だけでなく、暴力的な攻撃の目標とされ、身体的害悪の脅迫もある。列国議会連盟の調査では、ヌード写真モンタージュで侮辱するものや、ポルノ映像を配布する例も報告されている。

C 攻撃される政治家

女性議員が攻撃される中、特に攻撃が強まるのは、野党の女性議員であり、女性の権利をテーマとする場合である。一定の住民集団との関係にも着目され、年齢、ジェンダー、人種、セクシュアリティが取りざたされる。2018年調査によると、若い女性議員のほうが被害を受けやすい。若い女性議員の77%が性的言動による攻撃を受けている。76%が品位を貶める攻撃を受ける。36%がセクシュアルハラスメントを経験している。

人種的又は宗教的マイノリティに属する女性議員は特に攻撃される。2016年調査によると、外国出身とされる女性議員が極右から攻撃される。2019年のカナダの調査では、イクラ・カリド議員は、女性嫌悪、レイシズム、イスラム嫌悪による憎悪メッセージの標的とされた。2017年のアムネスティ・インターナショナル・イギリスの調査では、最初の黒人女性議員ダイアナ・アボットが受けたツイッターの45%以上が攻撃的であった。アボット以外の場合でも、黒人やアジア系の女性議員は35%以上、嫌がらせツイートを受けている。

LGBTQの議員も被害を受ける。2019年のカナダでは、レズビアンと公表している政治家が他の女性議員よりもずっと多くの被害を受けている。

D 政治領域への影響

女性に対する暴力は、女性の政治参加を妨げ、投票、立候補、議会での活動に影響がある。政治から離れる女性も多いし、最初から政治に参加しないようになる。少女に政治への関心を失わせる。

女性の心身への影響はジャーナリズムと同様である。2016年の調査で欧州の女性議員は、暴力の結果、傷害を受け、錨、悲しみ、不安、精神的暴力を感じさせられる。仕事を失う恐怖、孤立感、投げやり感に苛まれる。

Friday, May 13, 2022

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力03

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力03

 

「女性ジャーナリストに対する暴力」では、近年、プレスの自由やジャーナリストの活動への攻撃が増えているという。OSCE全体でメディアに対して敵対的な政治的発言が増え、ソーシャル・メディアの台頭、新型コロナ禍の影響もあり、すべてのジャーナリストに独特の圧力がかかっている。ジャーナリストに対する暴力も増加している。

女性ジャーナリストはさらに男性の同僚よりもリスクに直面している。ジェンダー暴力には無数の形態がある。身体的暴力、性的暴力、職場の差別、オンライン脅迫とハラスメントなど。

A 現場、ニュースルーム、その他の暴力

仕事中に殺害された女性ジャーナリストは男性より少ない。UNESCO報告によると、1993年以来、1454人のジャーナリストが殺され、女性は114人である。紛争地や危険なテーマで活動する女性ジャーナリストがそもそも少ない。

最近、メディアに登場する女性が増え、危険な地域でも男性と同様に活動するようになってきた。結果として、女性ジャーナリストが身体暴力を受けることも増えつつある。

女性ジャーナリストが拘禁される可能性もあり、その場合、脅迫や性的暴力の危険がある。「国境なきレポーター」によると、201912月から202012月、拘禁されたジャーナリスト全体の数に変化はないのに、拘禁された女性ジャーナリストは35%増えた。「女性ジャーナリズム連合」によると、20215月だけで19人の女性ジャーナリストが拘禁された。

女性ジャーナリストは多くの形態の暴力被害を受ける。「国際ジャーナリスト連盟」の50カ国の調査によると、48%がジェンダーに基づく暴力――セクシュアルハラスメント、身体暴力、言葉、精神的、経済的虐待を受けた。別の調査によると、女性の63%が少なくとも一度、オンライン脅迫を経験した。2021年の第1四半期に、女性ジャーナリズム連合は世界で348件の暴力と脅迫を記録している。性暴力、ハラスメント、身体暴力、拷問、拘禁、法的ハラスメント、組織的ハラスメント、殺すという脅迫、仕事からの排除。

ジャーナリズムで働く多くの女性が職場における虐待を経験してきたが、#MeToo運動によって勇気づけられたという。デンマークのTVプレゼンターのゾフィー・リンデが20208月にセクシュアルハラスメントについて語った後、1600人の女性労働者がデンマークの新聞記事に署名し、外見や服装について不適切なことを言われた、身体行動について、あるいはクリスマス・パーティ参加について警告を受けたと表明した。

B 女性ジャーナリストへのオンライン暴力

インターネットの普及に伴いオンライン暴力が増えてきた。男性よりも女性ジャーナリストの被害が多く、悪質で性的な攻撃が多い。オンライン攻撃には無数の形態がある。女性嫌悪のハラスメント、虐待、脅迫、プライヴァシー侵害、意図的なデマキャンペーンがある。国際プレス機構によると、欧州における女性ジャーナリストへのオンライン攻撃は、おおむね5つのカテゴリーに分けられる。①過小評価、②性差別的侮辱、③性暴力の脅迫、④家族への脅迫・侮辱、⑤職業上の評判を損なうキャンペーン。

2019年、OSCEメディアの自由代表のハーレム・デシールは、OSCE領域でオンラインハラスメントがエスカレートし、女性ジャーナリストの仕事に重大な影響を与えていると述べた。2020年、国際ジャーナリストセンターICFJUNESCOの調査で、73%の女性回答者がオンライン暴力を経験していた。

オンライン暴力はオフライン暴力をもたらす。ICFJUNESCOの調査によると、女性の20%が以前ンおオンライン攻撃と関連のある人身攻撃を受けた。アラブ女性の回答者の半分以上がオンライン攻撃に由来するオフライン攻撃を受けた。

C 狙われるアイデンティティ

オフラインでもオンラインでも、人種、民族、宗教、国民的出身、障害、性的指向、ジェンダー・アイデンティティが狙われる。ICFJUNESCO調査では、ユダヤ人女性の88%、先住民族女性の86%、黒人女性の81%、白人女性の64%がオンライン暴力を受けた。レズビアン女性の88%、バイセクシュアル女性の85%、ヘテロセクシュアル女性の72%が被害を受けた。ノルウェーでは、移住女性、なかでも黒人ムスリム移住女性がヘイトの目標とされる。

D 狙われるストーリー(物語)

男性ジャーナリストは職業上の言動に焦点を当てて攻撃されるが、女性に対する攻撃は、ニュース・ストーリーではなく、個人の特徴に焦点があてられる。女性ジャーナリストは、女性、ジェンダー、セクシュアリティに関するストーリーを狙われる。ジェンダー、フェミニズム、家庭内暴力、性的攻撃、フェミサイド、リプロダクティブ・ライツ、中絶、トランスジェンダー問題がよく狙われる。国際プレス機構の調査によると、フィンランド、ポーランド、スペイン、イギリスでは、LGBTQ+の権利やフェミニズムを支持するストーリーがバックラッシュの対象となる。201217年、国境なきレポーターによると、女性の権利を報じたことで殺されたジャーナリストは11人、拘禁されたのは12人である。

政治的レポートも差別の標的となることがある。ICFJUNESCOによると、「政治と選挙」はオンライン・ハラスメントを惹き起こす第2のストーリーである。カナダとアメリカの調査で、ハラスメントの対象とされたのは地方政治や国政であった。2015年のOSCE調査では、政府批判、移住者、人権、宗教、フェミニズム、テロリズム、イスラエル・パレスチナ紛争が取りざたされた。20215月、ドイツでは、カテリン・グラベナーとアントニア・ヤーミンはイスラエル・パレスチナ紛争に抗議について襲撃された。

E ジャーナリズムと民主主義への影響

女性ジャーナリストへの攻撃は、女性のメディア産業への参加を妨げる。仕事の妨げになり、評判を損ない、職業から追いやられる。

被害女性の調査では、37%が結果として一定のストーリーを避けるようになった。仕事を止めようかと考えた女性は29%、自分のキャリアに否定的影響を与えたと考えた女性は24%、別の専門領域に転出を考えたのは16%、実際に転出を申し出たのは16%。

こうして女性がジャーナリズム化を離れることで、メディアの多様性が失われる。ニュースルームが多様であればあるほど、諸問題についてより正確な報道ができるという調査がある。そうでないと、女性にとって重要なテーマや公共の討論が重要なテーマが取り上げられなくなる。社会全体の利器が損なわれることになる。社会には多元的な情報、民主主義、持続可能な発展に対する権利がある。

女性ジャーナリストへの攻撃はジャーナリスト全体の信用を害し、メインストリームニュースの信用を失い、インフォーマルなデマ情報拡散が増えることになる。

Thursday, May 12, 2022

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力02

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力02

 

序文

1

危機の概観

女性ジャーナリスト・政治家に対するオンライン暴力

女性ジャーナリストに対する暴力

女性政治家に対する暴力

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力に対処する障壁

結論

「女性ジャーナリスト・政治家に対するオンライン暴力」では、インターネットの利便性を確認した上で、インターネットがジェンダーに基づいたオンライン暴力の場となっているという。

オンライン暴力とは、暴力行為を行う実行犯がインターネットを利用することである。男性も女性もソーシャルメディア等を通じて暴力を経験するが、女性の萌芽より多くサイバー暴力、特にハラスメントや性的虐待を経験している。オンライン暴力は性差別主義や女性嫌悪に結びついている。2019年のEU文書によると、オンライン・ハラスメントが増加している。インターネットによってハラスメントが始まったのではないが、インターネットはジェンダー・ステレオタイプ、性差別主義、性的ヘイト・スピーチを助長している。

2014年の国連総会決議68/181によると、情報テクノロジー関連の侵害、虐待、差別、暴力が女性を貶め、さらなる侵害を煽動し、組織的なジェンダーに基づく差別現象となりうる。女性を統制し、女性に対する男性支配を維持し、家父長制規範を呼び戻す。オンライン暴力は他の形態の女性に対する暴力とは次の点で異なる。

    執拗性――被害者は、どの時間、どの日もオンライン攻撃される。被害者が逃れる安全な場所がない。

    脱抑制――実行犯は共感を持たず、攻撃対象を見ることも見られることもなく、匿名で行動するので、容易に残虐になる。

    聴衆――オンライン領域は潜在的に巨大な聴衆を有する。

    匿名性――実行犯は偽名や匿名で活動することができる。

    アクセスの容易性――テクノロジーの発展により技術知識が少なくても実行でき、高度な技術を廉価で入手できる。

    デジタル・パフォーマンス――コンテンツに投稿された内容が永久的にアイデンティティにされてしまい、削除が難しい。

女性に対するオンライン暴力の主要な形態は次のようなものである。

   ハラスメント又はスパム――実行犯はITを用いて被害者を継続的に威嚇し、畏怖させる。

   サイバーストーキング――実行犯は反復的に、望まれないコンタクトを続ける。

   性的記録・写真・メッセージの同意なき配布(ばらまき)

   デマキャンペーン――虚偽情報を拡散して、信用や名誉を失わせる。

   ドキシング(晒し)――悪意を持って個人情報を開示する。

オンライン暴力は予防も訴追も困難を抱え、被害者や家族に重大な困難をもたらす。被害者の心身の健康に有害であるのに、そのことを法執行官、司法官が良く理解しない。法執行官は「オンラインはリアルではない」と考えるため、制度的支援ができず、実行犯の不処罰が続き、悪の連鎖となる。

Wednesday, May 11, 2022

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力01

欧州安全保障機構(OSCE)のジェンダー問題特別代表の年次報告書『女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力――増大する危機』(2021)が出た。

Violence against Women Journalists and Politicians: A Growing Crisis, OSCE,2021.

雑誌『マスコミ市民』6月号の短いコラムで、こういう報告書があると紹介した。日本でも女性ジャーナリストに対する暴力、名誉毀損、オンライン暴力が増えている。裁判事例も多くなってきた。

以下で、報告書の全体の趣旨をごく簡潔に紹介する。報告書は59頁あるが、末尾は資料で、本文は47頁まで。

序文

1

危機の概観

女性ジャーナリスト・政治家に対するオンライン暴力

女性ジャーナリストに対する暴力

女性政治家に対する暴力

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力に対処する障壁

結論

2

OSCEの諸政府の構成におけるジェンダーバランス

ウクライナ特別監視団における女性代表

OSCE常設委員会代表のジェンダーバランス

OSCEにおけるジェンダーバランス

付録

2部は、OSCEの事務局、関連機関のスタッフなどのジェンダーバランスを分析し、さらに各国の内閣、国会議員、国際事務局など、各機関におけるジェンダーバランスを統計データに基づいて詳しく検討している。

1部が女性に対する暴力の本体である。

「危機の概観」によると、ジャーナリストや政治家は男も女も被害を受けるが、女性に対する暴力は異なる性質を有する。ジェンダー化され、性的な意味を有する。女性に対する暴力は女性が公的領域にいられないようにする。ジャーナリストや政治家としての仕事とかかわりのないこと、女性の外見、人間関係、職業の信頼性、好感度に焦点があてられる。実行犯の大多数は男性であり、伝統的なジェンダー役割を維持し、女性の公的な参加を制限する目的を有する。

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力はしだいに問題となり、より広いグローバルな文脈で悪化している。民主主義が退潮し、権威主義が伸びており、個人の自由を犠牲にして当局に従うことが増え、ジャーナリストと政治家の危機が増加し、実行犯のコストは減っている。権威主義に向かう動きが、家父長制の再現を招き、ジェンダー平等にマイナスの効果を持っている。権威主義的な指導者が、不寛容、女性嫌悪、恐怖をもたらしている。例えば20215月、ハンガリーとポーランドは、ポルトガルにおけるEU社会サミットから「ジェンダー平等」の語句を除去させた。20213月、トルコはイスタンブール女性に対する暴力条約から離脱した。ロシアはDV法を縮減した。

女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力は有害な男性主義によって助長される。有害な男性主義は男性に、男性が公的領域を支配するべきであり、女性が社会における男性の役割を低下させてはならないと信じさせる。

ここで報告書は、ホワイト・リボン・キャンペーンの『男の子は泣かない』を紹介している。

White Ribbon CampaignBoys Dont Cry.

これで検索するとYoutubeなど、いろいろと出て来る。日本語でもホワイト・リボン・キャンペーンのページがある。

女性運動はジェンダー平等を李から強く推進してきた。#MeToo運動や女性の抵抗運動は女性の人生全体において暴力が女性に悪影響を与えていることを告発してきた。性的発言やハラスメントは「仕事の一部だ」などという主張はもはや容認されず、メディアや政治の世界にも変化が訪れている。

女性に対するサイバー暴力01

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/12/blog-post_19.html

フェミサイドの現状01

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/12/blog-post_4.html

フェミサイド研究の現状01

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/03/blog-post.html

ヘイト・スピーチ研究文献(196)個人の尊厳

奈須祐治「ヘイトスピーチと『個人の尊厳』」『西南学院大学法学論集』第53巻第4(2021)

大著『ヘイト・スピーチ法の比較研究』(信山社)の著者である。

https://maeda-akira.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

桧垣伸次・奈須祐治編著『ヘイトスピーチ規制の最前線と法理の考察』(法律文化社)も出している。

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/11/blog-post_6.html

https://maeda-akira.blogspot.com/2020/11/blog-post_29.html

英語圏で出版されたShinji Higaki & Yuji Nasu eds., Hate Speech in Japan: The Possibility of a Non-Regulatory Approach (Cambridge University Press, 2021)の編者である。

本論文は、川崎市ヘイト・スピーチ事件民事訴訟において、奈須が東京高裁に提出した意見書を基にしている。

<目次>

はじめに

1.      事件の概要と地裁判決

2.      憲法13条の「個人の尊厳」の侵害

3.      憲法14条の法の下の平等原則の合意

4.      「尊厳」概念の曖昧性をめぐる問題

5.      ヘイトスピーチに関する法規範

6.      表現の自由への配慮

若干の感想。

1に、ヘイト・スピーチについて、憲法第13条及び14条の意味と射程を丁寧に論じている。オーソドックスで、説得的な論述である。

これまでこういう論文があまりなかったことに驚かされるのは、不思議な話でもある。刑法学者や弁護士は、ずっと以前から憲法13条と14条を基にヘイト・スピーチについて論じてきた。当たり前のことである。

ところが、憲法学では、21条の表現の自由だけを論じてきた。このblogで私が批判してきた憲法学者が典型だが、13条や14条を参照することを許さない、ひたすら21条の表現の自由だけを強調する。あたかも「そこのけ、そこのけ、日本人マジョリティ様のお通りである。マイノリティは黙っておとなしくしていろ」といわんばかりの憲法学が主流であった。

これに対して、奈須は13条と14条の意味内容を検討し、ヘイト・スピーチが憲法上いかなる意味で理解されるべきかを論じている。有益な論文である。

2に、尊厳概念の検討も参考になる。まず「人間の尊厳」と「個人の尊厳」の関連である。国際人権法では人間の尊厳が基本概念であるが、日本国憲法には人間の尊厳という言葉がないため、憲法学の中には人間の尊厳を拒否する論者もいる。人間の尊厳を客観的、個人の尊厳を主観的(主体的)に理解する見解など、いくつかの理解が示されてきたが、人間の尊厳を基礎として、その上に個人の尊厳が成立するという理解が普通であろう。私自身は人間の尊厳を論じてきたが、「個人の尊厳」という議論をあまりしてこなかった。不特定多数に対するヘイト・スピーチに焦点を当ててきたためだ。

奈須は、個人の尊厳概念を分析した上で、ヘイト・スピーチは人格権を侵害するという理解について、人格権だけでなく、根底的に個人の尊厳を侵害するという解釈を打ち出す。なるほど、と思う。個人の尊厳の核芯部分を侵害するのだ。

3に、尊厳概念は歴史的に古くから使われ、分野横断的に用いられるので、多義的であいまいであることは否めない。アメリカでは、尊厳概念への批判も登場しているので、奈須はそれらを紹介・検討する。あいまいさを理由に尊厳概念に否定的な議論もあれば、あいまいさを前提としつつ解釈の明確性を探る議論もあるようだ。奈須は、尊厳概念があいまいであることを認めつつ、川崎市ヘイト・スピーチ事件で攻撃された個人の尊厳はもっとも中核的な部分なので、概念の曖昧さは解釈に困難をもたらさないと見る。

この点では、成嶋隆(獨協大学教授)の議論を思い出す。成嶋は、前田のヘイト・スピーチ概念は外縁が不明確だと批判した。なるほど、この批判は当たっている。だが、外縁が不明確であっても、それぞれの論者がどのように定義をしようとも、どの定義であれ、当てはまるヘイト・スピーチがある。そうした中核的なヘイト・スピーチを私は問題にしているつもりだ、と応答しておいた(前田『序説』)。

4に、奈須は日本国憲法だけでなく、人種差別撤廃条約及びヘイト・スピーチ解消法もていねいに参照して、結論を引き出す。この点も当たり前の思考プロセスだと思うが、憲法学者には必ずしも一般的ではない。国際人権法を引き合いに出すこと自体を激しく批判する論者もいるくらいだ。

5に、奈須は表現の自由についても適切に配慮している。

「憲法21条の表現の自由の根底にある価値についても触れておきたい。同条が保障する表現の自由の基礎にある自己実現や自己統治の価値は、他者をもっぱら自己の欲求や願望の実現の手段として扱う言動や、他者に沈黙を強いる言動を保障することを想定していない。」

「何人も特定人を攻撃することなしに政治的見解や政策に関する議論を表明することは可能であり、代替的な表現の回路は広く開かれているからである。」

短いが、力強く、明晰な表現だ。こういう論文が増えれば、ヘイト・スピーチの法的議論が大幅に進展するだろう。

なお、表現の自由の価値については下記参照。

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/02/blog-post_20.html

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/02/blog-post_85.html

 

Monday, May 02, 2022

超越者に従う自由(第10章 ユーヌス)

超越者に従う自由(第10章 ユーヌス)

 

中田考監修『日亜対訳クルアーン』(作品社、2014年)

10章は預言者ユーヌス(ヨナ)の名前が冠されているが、万物の創造者で、人間を真理に導くアッラーの偉業が説かれる。

善を尽くした者には至善があり、悪事をした者には悪事の報いがある(102627)

「そして彼らの大半は憶測に従っているだけである。まことに憶測は真理の代用には全く役立たない。まことにアッラーは彼らのなすことをよく知り給う御方。」(1036)

「人々よ、おまえたちにはすでにおまえたちの主からの訓告がもたらされた。胸中にあるものの癒し、そして信仰者への導きと慈悲が。」(1057

「また復活(審判)の日、アッラーについて虚偽を捏造した者たちの思いは何か、まことにアッラーは人々に対する御恵みの持ち主。だが、彼らの大半は感謝しない。」(1060)

「まことに、アッラーについて虚偽を捏造する者たちが成功することはない。」(1069

真理の生成も基準もアッラーにあり、憶測に従い、嘘を唱えることを戒める。超越者の権威に従うことが求められる。超越者の権威に従うことによって、人々は自由を獲得する。

Sunday, May 01, 2022

リベラリズムはどこへ行ったか

纐纈厚『リベラリズムはどこへ行ったか─米中対立から安保・歴史問題まで』(緑風出版)

http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-2204-1n.html

まえがき――「絶対非戦」と「絶対平等」を求めて

【課題と提言:外交防衛問題】

第一講 米中対立と台湾有事をめぐって~中国脅威論が結果するもの~

【課題と提言:安保問題】

第二講 あらためて新安保法制の違憲性を問う~戦争への敷居を低くする危うさ~

【課題と提言:歴史問題】

第三講 東アジア諸国民とどう向き合っていくのか~アジア平和共同体構築と歴史和解への途~

【課題と提言:総括】

最終講 危機の時代をどう生きるのか~リベラリズムの多様性と限界性~

半世紀前の学生時代に、片手に安酒、片手にギターを持ち、Where have all the flowers gone?を歌った著者は、いまWhere have all the Liberalists gone?と問いかける。

日本政治を見ると、保守の変質と同時並行でリベラルの劣化が進む。政治の腐敗を横目で軍事主義が強まり、対米従属が過激化する。アメリカにコバンザメのようにしがみつくミニ帝国主義の日本がアジアの不安定要因と化している。

この惨状を嘆き、唾を吐いても、自分に帰ってくるだけである。纐纈は惨状に向き合い、冷静に分析し、その原因と構造を解明し、突き崩す理論的営為に集中する。

第一講では、米中対立と台湾有事をめぐって検討する。「中国脅威論」とは何であり、何処から登場しているのか。誰のための何のための作為なのか。鬩せめぎあう米中の軍事戦略を追うことで、立ち位置を変えるアメリカの姿勢を見据えながら、台湾有事問題を問う。

第二講では、「山口新安保法制違憲訴訟」の原告として新安保法制法の危険性を訴える。特に新安保法制法で形骸化する文民統制の実態を分析する。

第三講では、歴史和解が平和実現の前提であるとし、歴史認識を深めていくことの意味を探る。日本軍「慰安婦」問題をはじめとする過去の歴史を引き受けることができず、目を閉ざす日本の実情を批判的に分析する。戦争責任論の欠落とともに、植民地近代化論の弊害も指弾する纐纈は「過去の取り戻しとしての平和思想」を唱える。

最終講では、危機の時代をどう生きるのかをリベラリズムの多様性と限界性の視点から考察する。そこでリベラリズムの原点とは何かを問い、未来を見据える鏡として非武装平和への途を探り、数々の提言を試みる。

日本近現代政治軍事史・ 安全保障論を専門とする纐纈は、歴史論と政治論を編みこんだ、幅広い知見と深い分析で知られる。原則論にこだわりながらも、多様な光を当てて柔軟に思考する。

纐纈の著作は実に数多く、『日本降伏』、『侵略戦争』、『日本海軍の終戦工作』『田中義一 総力戦国家の先導者』といった歴史研究もあれば、『日本政治思想史研究の諸相』のような本格的な思想史研究もある。緑風出版からは、『崩れゆく文民統制』『重い扉の向こうに』を出している。私も纐纈の著作は10数冊読んで学んできた。はじめて読んだのは『総力戦体制研究』だったが、周辺事態法や有事法制への批判も何冊か読んだと記憶する。

We shall overcome, somedayを信じて研究に実践に発言を続ける纐纈の作法に私も学びたいものだ。