Tuesday, March 01, 2022

フェミサイド研究の現状01

昨年、国連人権理事会のシモノヴィチ「女性に対する暴力」特別報告書がフェミサイド・ウオッチを取り上げたので、下記に紹介した。

前田朗「フェミサイド・ウオッチとは何か」『人権と生活』53号(在日本朝鮮人人権協会、2021年)

EUの欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)の報告書『フェミサイドを定義し確認(同定・認定)する――文献レヴュー』

https://maeda-akira.blogspot.com/2022/01/blog-post_6.html

女性に対するサイバー暴力

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/12/blog-post_19.html

国連麻薬犯罪事務所の調査報告書『親密なパートナー又は家族メンバーによる女性・少女の殺害――グローバル評価2020』

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/12/blog-post_4.html

今回は、EU欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)の報告書『EUと国際的なフェミサイド測定――ある評価』(2021)を簡潔に紹介する。

EIGE, Measuring femicide in the EU and internationally: an assessment. 2021.

1.        序文

2.        調査計画

3.        文脈と背景

4.        欧州と世界の情報収集システム(概観)

5.        フェミサイドについての指標と分類システムを定義するために(概観)

6.        各国レベルのフェミサイド(定義と情報収集)

7.        NGOによるフェミサイドの情報収集

8.        勧告

1.序文」では、フェミサイド研究のためには情報収集が重要だが、各国の統計では殺人の統計がある者の、フェミサイドの統計が不十分であり、それはフェミサイドの定義や指標が十分に共有されていないためであると指摘する。国により定義が異なる。メディアによりNGOにより指標が異なる。このため統計が不十分となる。フェミサイド予防と被害者保護のためには情報が収集され、公開されていなくてはならない。本報告書はEU及び国際的な情報収集の現状を概観し、不十分さを確認する。

2017年、EIGEEU加盟国における包括的な情報収集を活性化させることにした。報告書はその成果である。EIGEはフェミサイドを「親密なパートナーによる女性殺人、及び女性に有害な慣行の結果としての女性の死亡」である、「親密なパートナーとは前又は現在の配偶者やパートナーであって、被害者と同居しているか否かは問わない」と定義する。2017年のEIGEの擁護報告では、次の要素を掲げた。

・女性と少女の故意の殺人(ジェンダーに基づく行為)

・パートナー又は配偶者の殺人、親密なパートナーの武力による女性の死亡

FGMに関連する死亡

・安全でない堕胎に関連する死亡

・名誉殺人、及びダウリー関連の死亡

この定義の鍵となる要素は、ジェンダー不平等とジェンダーに基づく動機である。

報告書では27EU加盟国及びイギリスの情報を扱う。

「2.調査計画」では、報告書の構成を説明している。

「3.文脈と背景」では、まずフェミサイドという言葉を、1976年にディアナ・ラッセルが「女性に対する犯罪国際法廷」で用いたこと、その定義はジェンダー憎悪に焦点を当てていたため、その後、採用されず、むしろ実行者の動機に関わらず女性殺人を意味する言葉として用いられてきたこと、ジェノサイドに比較して(その水準で)フェミサイドを使用する例もあること、1990年代から欧州レベルで研究が始まり、その後、ラテンアメリカやカリブ諸国にも広がったこと、2004年にべレム・ド・パラ条約システムができたこと、最近、多様な研究によりフェミサイドの指標が探求されていること、国際刑事警察機構、国連麻薬犯罪事務所、世界保健機関などの国際機関が取り組みを始めたことが確認されている。

2008年、欧州評議会はDV情報収集についての報告を公表した。そこではDVの調査と、フィンランド殺人監視の情報収集が紹介されている。

2011年、欧州評議会は女性に対する暴力予防イスタンブール条約を採択し欧州全域でフェミサイド調査が始まった。条約はフェミサイドの定義をしていないが、第11条は女性に対する暴力の情報収集を要請している。

国連機関もフェミサイド研究を始めた。2010年代、国連統計局、国連人権理事会、国連総会などがそれぞれ調査、統計、研究に力を入れてきた。

フェミサイド・ウオッチはこの点で重要な取り組みである。2017年、ウィーンの国連犯罪防止刑事司法委員会がフェミサイド・ウオッチの原型を提示し、フェミサイド・ウオッチ・プラットフォームができた。2015年、シモノヴィチ「女性に対する暴力」特別報告書の呼びかけに続き、201711月、ジョージアが最初のフェミサイド・ウオッチを設置した。

2017年、女性差別撤廃委員会CEDAWは一般的勧告35号を出した。

2019年国連女性連盟UN-Womenの専門家会合はフェミサイドの統計情報に関する未出版の報告を作成した。2020年に背景文書を公表した。

フェミサイドに関する国際議論は2つの流れがある。第1に、ラテンアメリカとカリブ諸国は、フェミサイドの定義を限定的に理解して、刑事規制を行う方向である。第2に、統計目的の情報収集のためにフェミサイドを定義する方向である。両者の間でフェミサイドの定義は異なる。