EUのジェンダー平等に関する専門機関の「欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)」がパンフレット『女性と少女に対するサイバー暴力』を作成した。2017年の作成だが、オンラインに再アップされた。
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女性に対するサイバー暴力については、国連人権機関でもEUでも多様な研究が進んでいる。
国連人権理事会の「女性に対する暴力・特別報告者」の報告書でも取り上げられている。そのうち2つの報告書を下記で紹介した。
前田朗「女性に対するオンライン暴力」『Let’s』90号(2018年)
前田朗「女性ジャーナリストへの暴力」『部落解放』794号(2020年)
この2つは『ヘイト・スピーチ法研究要綱』(三一書房)に収録した。
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ジェンダー平等研究所(EIGE)のパンフレット『女性と少女に対するサイバー暴力』を簡潔に紹介する。
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目次
序文
ジェンダーに基づく暴力の一形態としてのサイバー暴力
・女性と少女に対するサイバー暴力の諸形態を定義する
データの利用可能性と調査
法執行の対応
結論と勧告
註
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序文
インターネットの普及、モバイル情報の急速な拡散、ソーシャル・メディアの利用が、女性と少女に対する暴力のパンデミックと結びついて、サイバー暴力をもたらしている。調査によると、女性の3人に1人が人生において暴力を経験している。インターネットと結びついた現象は新しいが、すでに15歳以上の女性の10人に1人がサイバー暴力を経験している。デジタル公共空間が安全で、女性と少女をエンパワーメントするものにすることが必要である。
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ジェンダーに基づく暴力の一形態としてのサイバー暴力
・女性と少女に対するサイバー暴力とは何か?
これまでサイバー暴力はEUレベルでは概念的に定式化されていない。サイバー暴力の調査も十分ではなく、EU各国レベルの調査も制約がある。それでもサイバー暴力が男性よりも女性を標的としていることは判明している。10~50歳の9000人以上のドイツ人のユーザーの調査(2012年)で、女性の方が男性よりもオンライン被害を受けている。2014年のアメリカの調査でも同様の結果が出ている。男性のハラスメント被害よりも女性のハラスメント被害の方が深刻である。専門家は、サイバー暴力をリアル世界の暴力を切り離して理解することに警告を発している。オンライン暴力はオフライン暴力の継続である。
・女性と少女に対するサイバー暴力の諸形態を定義する
サイバー暴力には例えば、サイバー・ストーキング、同意のないポルノグラフィ(リベンジ・ポルノ)、ジェンダーに基づく脅迫・ハラスメント、「売女呼ばわりslut-shaming」、迷惑ポルノ、性的脅迫sextortion、強姦、殺すという脅迫、晒し、電子的人身売買などがあるが、これに限られない。
EIGEは、主に親密なパートナーによる暴力に焦点を当てる。オフラインと同様に、サイバー暴力には様々な形態があるが、被害者の心身に悪影響を及ぼすので、更なる調査が必要である。EUレベルで共有された定義はないので、これまでの研究を基に叙述する。
・サイバー・ストーキング
サイバー・ストーキングとはEメールやインターネット上の文章メッセージを手段とするストーキングである。これらは無害な行為ではなく、安全の感覚を失わせ、被害者に痛みや恐怖を惹き起こす。
攻撃的又は脅迫的なEメール、メッセージを送ること
インターネット上に攻撃的な投稿をすること
インターネット上で個人的な写真や映像を広めること
これらの行為が同一人に対して反復して行われる。
・サイバー・ハラスメント
サイバー・ハラスメントには多くの形態がある。
望まない性的意味合いのEメール、メッセージ
ソーシャル・ネットワークやネット・チャット室での均衡を欠いた、攻撃的接近
心理的又は性的な暴力の脅迫
ヘイト・スピーチ、貶める言葉、中傷、脅迫
・同意のないポルノグラフィ
サイバー搾取やリベンジ・ポルノとして知られるが、個人の同意なしに、性的な写真や動画をオンラインで配信することで、ある。実行犯は元パートナーであることが多い。被害者を公然と辱め貶める目的である。ただし、常に元パートナーとは限らないし、動機がつねに復讐であるわけではない。被害者のPCにハッキングして映像を入手する場合もある。
EU各国でもアメリカでも、同意のないポルノグラフィ事件が起きて、被害者が自殺している例もある。調査によると被害者の90%以上が女性であり、増加している。性暴力や強姦の映像をオンラインにアップする例もあり、2017年にはスウェーデンとアメリカで起きた事例が知られる。