Monday, July 10, 2023

ジェンダー暴力の犯罪化01

「ジェンダー平等と非差別の法律専門家欧州ネットワーク」の『欧州各国における女性に対するジェンダーに基づく暴力(ICTにおける暴力を含む)の犯罪化』(2021年)を紹介する。

European network of legal experts in gender equality and non-discrimination, Criminalisation of gender-based violence against women in European States, including ICT-facilitated violence. European Commission, EU, 2021.

著者はSara De VidoLorena Sosaである。欧州フェミニズムに無知の私には、知らない名前の上、著者紹介がない。

「ジェンダー平等と非差別の法律専門家欧州ネットワーク」のメンバーの一覧が掲載されている。コーディネーターはJos Koster(人道的欧州顧問)、Linda Senden(ユトレヒト大学)Alexandra Timmer(ユトレヒト大学)Isabelle Chopin(移住政策グループ)、Ivette GroenendijkYvonne van Leeuwen-Lohde(人道的欧州顧問)、Franka van HoofBirte Book(ユトレヒト大学)、Catharina Germaine(移住政策グループ)

さらに9人の専門家。

及びアルバニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリアからイギリスまで36か国の非差別の専門家とジェンダーの専門家の名前が出ている。アイルランドのJudy Walsh、イタリアのChiara Favilli、イギリスのRachel Hortonの名前は見かけるが、ほとんどは知らない名前だ。

11章(215頁)と長いため、飛ばし読みしかしていないが、冒頭に要約があるので便利だ。

<目次>

要約

序文

1 女性に対するジェンダーに基づく暴力の定義

2 ドメスティック・バイオレンス

3 強姦を含む性暴力

4 セクシュアル・ハラスメントと性に関連するハラスメント

5 女性器切除、及び同意のない性器手術

6 強制結婚

7 ストーキング

8 同意のない性的画像配布

9 ジェンダー/性に基づくヘイト・スピーチ(性差別主義ヘイト・スピーチ)

10 フェミサイド/ジェンダー関連女性殺人

11 強制と制裁の一般アプローチ

結論

冒頭に本論文の出発点がおおよそ次のように書かれている。

女性に対するジェンダーに基づく暴力(GBVAW)は国際レベルでも欧州レベルでも喫緊の課題である。新型コロナ禍は女性差別のパターンを悪化させ、暴力の諸形態を増加させている。国際レベルでは、VAWは人権侵害であり、女性に対する差別であると認識されている。VAWは女性と男性の力のバランスの不平等の帰結である。ジェンダー不平等の原因であり、結果である。女性差別撤廃条約に基づいて、VAWの予防、保護、対処措置をとる法的義務を有する諸国がある。

欧州レベルでは、欧州評議会の女性に対する暴力に関する条約(イスタンブール条約)が2011年に採択され、包括的全体的なVAW対策の法的拘束力のある手段となっている。イスタンブール条約第41項は、締約国は、公的領域でも私的領域でも、女性が暴力から自由に生きる権利を促進・保護するのに必要な法的措置その他の措置をとることとしている。2017年にはEUがイスタンブール条約に署名し、EU全加盟国が署名し、批准は21カ国となった。

EUは加盟国にVAW対策を呼びかけてきた。例えば、20191128日、EU議会決議は、イスタンブール条約の適切な履行と強制、VAWと闘うための財政的人的資源の投入、被害者保護を呼びかけた。20121025日の犯罪被害者の保護に関するEU指令は、犯罪被害者の権利、支援、保護の最低基準を定めた(被害者の権利指令)。

本論文はEU27カ国、及びアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、イギリスの31カ国の状況を調査し、分析する。そのために31カ国のジェンダー平等と非差別に関する法律専門家に12項目に及ぶ詳細な質問を送り、その回答を得た。12項目の質問は本論文の巻末に収録されているが、質問票だけで18頁もある。現行法、犯罪の定義、訴追と制裁、判例法、制約、議論状況に及ぶ。前例のない本格的調査に基づく分析と言えよう。