「ジェンダー平等と非差別の法律専門家欧州ネットワーク」の『欧州各国における女性に対するジェンダーに基づく暴力(ICTにおける暴力を含む)の犯罪化』(2021年)を紹介する。
European
network of legal experts in gender equality and non-discrimination,
Criminalisation of gender-based violence against women in European States,
including ICT-facilitated violence. European Commission, EU, 2021.
著者はSara De VidoとLorena Sosaである。欧州フェミニズムに無知の私には、知らない名前の上、著者紹介がない。
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「ジェンダー平等と非差別の法律専門家欧州ネットワーク」のメンバーの一覧が掲載されている。コーディネーターはJos Koster(人道的欧州顧問)、Linda Senden(ユトレヒト大学)、Alexandra Timmer(ユトレヒト大学)、Isabelle Chopin(移住政策グループ)、Ivette GroenendijkとYvonne van Leeuwen-Lohde(人道的欧州顧問)、Franka van HoofとBirte Book(ユトレヒト大学)、Catharina Germaine(移住政策グループ)。
さらに9人の専門家。
及びアルバニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリアからイギリスまで36か国の非差別の専門家とジェンダーの専門家の名前が出ている。アイルランドのJudy
Walsh、イタリアのChiara Favilli、イギリスのRachel
Hortonの名前は見かけるが、ほとんどは知らない名前だ。
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全11章(215頁)と長いため、飛ばし読みしかしていないが、冒頭に要約があるので便利だ。
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<目次>
要約
序文
1 女性に対するジェンダーに基づく暴力の定義
2 ドメスティック・バイオレンス
3 強姦を含む性暴力
4 セクシュアル・ハラスメントと性に関連するハラスメント
5 女性器切除、及び同意のない性器手術
6 強制結婚
7 ストーキング
8 同意のない性的画像配布
9 ジェンダー/性に基づくヘイト・スピーチ(性差別主義ヘイト・スピーチ)
10 フェミサイド/ジェンダー関連女性殺人
11 強制と制裁の一般アプローチ
結論
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冒頭に本論文の出発点がおおよそ次のように書かれている。
女性に対するジェンダーに基づく暴力(GBVAW)は国際レベルでも欧州レベルでも喫緊の課題である。新型コロナ禍は女性差別のパターンを悪化させ、暴力の諸形態を増加させている。国際レベルでは、VAWは人権侵害であり、女性に対する差別であると認識されている。VAWは女性と男性の力のバランスの不平等の帰結である。ジェンダー不平等の原因であり、結果である。女性差別撤廃条約に基づいて、VAWの予防、保護、対処措置をとる法的義務を有する諸国がある。
欧州レベルでは、欧州評議会の女性に対する暴力に関する条約(イスタンブール条約)が2011年に採択され、包括的全体的なVAW対策の法的拘束力のある手段となっている。イスタンブール条約第4条1項は、締約国は、公的領域でも私的領域でも、女性が暴力から自由に生きる権利を促進・保護するのに必要な法的措置その他の措置をとることとしている。2017年にはEUがイスタンブール条約に署名し、EU全加盟国が署名し、批准は21カ国となった。
EUは加盟国にVAW対策を呼びかけてきた。例えば、2019年11月28日、EU議会決議は、イスタンブール条約の適切な履行と強制、VAWと闘うための財政的人的資源の投入、被害者保護を呼びかけた。2012年10月25日の犯罪被害者の保護に関するEU指令は、犯罪被害者の権利、支援、保護の最低基準を定めた(被害者の権利指令)。
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本論文はEU27カ国、及びアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、イギリスの31カ国の状況を調査し、分析する。そのために31カ国のジェンダー平等と非差別に関する法律専門家に12項目に及ぶ詳細な質問を送り、その回答を得た。12項目の質問は本論文の巻末に収録されているが、質問票だけで18頁もある。現行法、犯罪の定義、訴追と制裁、判例法、制約、議論状況に及ぶ。前例のない本格的調査に基づく分析と言えよう。