Wednesday, July 12, 2023

ジェンダー暴力の犯罪化02

「ジェンダー平等と非差別の法律専門家欧州ネット―ワーク」の『欧州各国における女性に対するジェンダーに基づく暴力(ICTにおける暴力を含む)の犯罪化』(2021年)

1章の「女性に対するジェンダーに基づく暴力の定義」では、調査した諸国の多くで、国内司法管轄権に女性への暴力の特別の定義が導入されていない。法や政策にジェンダーに基づく暴力GBVの定義を取り入れた国もある。多いのはジェンダー中立の用語であり、GBVの特別の類型を明示するのはごくわずかである。イスタンブール条約の締約国にはその定義を導入した例もある。

EU指令やイスタンブール条約にもかかわらず、ジェンダー不平等の定義や、その帰結であることを法認しているのは少ない。暴力と差別の結びつきを明示しているのもわずかである。VAWに関連する差別の交差性を明記した国も少ない。一定の状況での要素の交差性を示したのが5カ国である。

女性に対するジェンダーICT暴力の法概念を、この暴力の多元的性格を把握して理解する。だが、女性に対するオンライン暴力を明確に定義している国は1つしかない。他の諸国はオフライン暴力に関する法を改正して、オンライン局面に対処している。

1章の「女性に対するジェンダーに基づく暴力の定義」

1 各国法におけるGBVAW定義

2 平等/差別問題としてのGBVAW

3 ジェンダーに基づく女性に対するICT暴力

「1 各国法におけるGBVAW定義」では、現在の国際法レベルとEU法レベルにおける定義を確認したうえで、各国の調査結果を示す(図表1)。図表1の内容をさらに説明している。

例えば、国内法において女性に対する暴力の定義をしていないのが、ブルガリア、クリアチア、デンマーク、エストニア、フィンランド、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトヴィア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロヴァキア、スロヴェニアと多数である。

法律でジェンダー中立の暴力概念を用いているのが、デンマーク、フィンランド、リヒテンシュタイン、リトアニア、オランダ、スロヴェニアである。デンマークには法的定義がないが、親密なパートナーによる暴力はジェンダー中立の暴力概念に含まれる。リトアニアにはドメスティック・バイオレンスDVの法的定義があるが、ジェンダー中立である。

ジェンダー暴力が女性と少女に不均衡に悪影響を与えていることを、認知している国がいくつかある。例えば、ノルウェーは、ジェンダー平等政策を戦略として定め、法、政策、行政運営で実施しているが、用語はジェンダー中立である。クロアチアの法には定義がないが、性暴力やDVに対処する諸規定でGBVに言及している。

ジェンダー暴力GBVの法・政策の定義を導入したのは8カ国、ベルギー、キプロス、チェコ、エストニア、アイスランド、マルタ、スペイン、イギリスである。うち6カ国の定義がジェンダー中立なのはEU被害者権利指令の定義のためであろう。キプロスは、2016年の権利の最低基準の法律第512条がEU被害者権利指令の定義を採用した。2000年のDVに関する法律119号の定義もジェンダー中立である。

逆にスペインはジェンダーに特有の定義を採用した。ジェンダーに基づく暴力が特別の法枠組み――2004年のジェンダー暴力からの包括的保護法によって、性的自由に対する攻撃、脅迫、強要、自由の恣意的剥奪など身体的及び精神的暴力のすべての行為を含む。しかし、法律の目的は女性に対して行われる暴力に制限されている。

他方、チェコはGBVの定義を採用したが、法律ではなく政策である。「DV及びジェンダー暴力予防行動計画2019-2022」である。

女性に対するジェンダー暴力GBVAWを法システムに導入したのは4か国、フランス、ドイツ、ギリシア、ルーマニアだけであり、いずれもイスタンブール条約を批准した後である。ルーマニアではジェンダー平等法にGBVAWが定められる。フランスでは2014年の法律3条がイスタンブール条約の定義を採用した。ギリシアはイスタンブール条約の定義をそのまま国内法にした。

以上のように、Sara De VidoLorena Sosaの論文は、調査回答を基に、各国の刑事立法や政策において、暴力、女性に対する暴力、DV、ジェンダー暴力GBVGBVAWなどの概念がどのように扱われているかを詳細に分析している。欧州30数か国のレベルでこれほどの調査は従来存在しないだろ。欧州諸国における性暴力、女性に対する暴力の法政策を研究するには最高の情報源である。