Tuesday, October 22, 2013
エピソード金正恩
髙英起『金正恩』(宝島社新書)――著者は、共著『いまだから知りたい不思議の国・北朝鮮』『金正恩の北朝鮮』のある在日コリアン2世のジャーナリスト。朝鮮学校出身だが、朝鮮学校、朝鮮総連、金日成・正日を厳しく批判してきたようだ。本書も、金正恩と朝鮮の政治・経済・社会に徹底した批判の目を向ける。この種の本は、圧倒的多数が、ひたすら朝鮮非難に終始する。一部の本は、「そうはいっても、日本植民地支配や戦後の分断に原因がある」という形で冷静な思考を求める。その程度でも「北を擁護するな」と猛烈な攻撃が集中する。本書は、朝鮮を厳しく非難してはいるが、一面では著者の「愛情」ともいうべき「思い」も伝わってくる。米ロ中日韓に取り囲まれた半島北部の政治と経済が、いかなる制約の下にありつつ、いかなる「主体」によって、今日の状況に至っているのかを問う。また、政治や経済だけではなく、「権力闘争」の経過や、後継者伝説のつくられ方も解説する。第3章「お笑い!金正恩伝説」では、苦境に立つ3代目を権力者として安定させるための必死の努力を、さまざまに分析する。市民生活の激変にも目を向け、消費生活の状況を伝える。近年、ピョンヤンでは携帯電話が急速に普及していることは、他の著作でも伝えられてきたが、本書でも確認できる。新しい音楽集団(アイドル)としてのモランボン楽団の紹介も楽しいが、それ以上に、日本におけるK-POPとNK―POP(North Korea Pop)の対決イベントのエピソードがおもしろい。著者は自身のことを、「北朝鮮当局からすれば変節者の一人に過ぎない」としつつ、最後に次のように述べている。「もし、あなたが祖父や父と違った近代的な指導者として、北朝鮮を近代的な国家に変わらせたいという思いがあるのなら、まずは住民のための政治、すなわち『先民政治』を行い、人民大衆の息子として生まれ変わるべきである。」