Thursday, October 31, 2013

反論権の理論を学ぶ

曽我部真裕『反論権と表現の自由』(有斐閣)――ヘイト・クライム、ヘイト・スピーチ関連の議論の中で、対抗言論や反論権が取りざたされることがある。しかし、ごく一般的な意味で言葉を使っていて、不正確な議論が多い。というか、反論権については、憲法教科書のごくありきたりの説明しか知らないので、少し勉強しなくては、と思っていたところ、本書が今春出版されていたので、読んでみた。著者は京都大学大学院准教授の憲法学者。本書は反論権を重んじてきたフランス法の専門研究書であり、難しくて理解が及ばないところもあったが、私なりに勉強になった、と思う。第二章の「プレス反論権法の現代的展開」で、新しい反論権や、ルペンショックの解説の部分は特に面白かった。第三章「視聴覚メディアの自由と反論権法の展開」では、プレスの場合と、視聴覚メディアの場合で、反論権の適用方法が違うことを知った。差異について、納得はできていないが。フランス反論権法から著者が引き出してきた「自己像の同一性に対する権利」はよくわかるが、日本の議論の文脈にうまく乗るのかどうかは良くわからない。むしろフランス的特殊性と言われて終わるのではないだろうか。終章「反論権と表現の自由」で、著者は「本書の検討の結果をもう一度まとめなおせば、フランスにおいては、反論権法は、手続的に理解された『自己像の同一性に関する権利』の保護という、日本と比較すればきわめて広範な人格権ないし人格的利益の保護を図りつつも、メディアの自由との関係では原理的には強度の緊張関係に立っており、この緊張関係を経験的な楽観論によって現実的に解決するという均衡の上に立っているといえる。また、委縮効果との関係についても、反論権法は、その機能による多様かつ『噛み合った』議論の流通の促進効果と反論権法による委縮効果との均衡の上に成立しているといえよう」としている。なるほど。本書は、個人に即した反論権法の議論を検討しており、人種や民族に関わるヘイト・クライム、ヘイト・スピーチとは別論ではあるが、考え方を学ぶという意味ではいい本だ。また、対抗言論とはほとんど重なりがないこともよくわかった。