Monday, October 07, 2013
「それからのブンとフン」を見る
昨日は天王洲銀河劇場で、井上ひさし「それからのブンとフン」(こまつ座、ホリプロ)だった。1970年の井上ひさし小説出版デビュー作『ブンとフン』を、1975年に演劇用に脚本を作ったものだ。売れない作家・大友憤の小説「ブン」の主人公である4次元世界の泥棒ブンが小説から現実世界に飛び出て来て暴れる。次から次と盗みを働き、できないことはない大泥棒だが、やがて、形あるものではなく、人間の記憶を盗み、いやなやつからいやなところを盗み、重病人からその病を盗む。そして、人間が大切にしている「権威」を盗む。国家権力、社会的権威に対する公然たる挑戦である。『ブンとフン』を読んだのは大学2年か3年の時だ。その後も井上作品を読むと、かつて上智大学学生だった井上ひさしが東京四谷近くに住んでいたことがあるため、四谷、しんみち通り当たりがよく出てきた。当時、私は新宿区若葉町、四谷駅から徒歩5分のアパートに住んでいたので、まさに小説の現場だった。そんなこともあって、ますます井上ひさしを読んだ。その後、『吉里吉里人』の大ブレイクで、トップランナーになった井上ひさしは小説だけでなく、戯曲でも大活躍するようになった。その最初期の作品「それからのブンとフン」だ。紛争世代の学生運動、アポロ月着陸など、70年の時代背景が出てくるが、痛快軽快なドタバタ演劇では、ブンとフンの闘いにもかかわらず、結局、権威と権力が勝利を収め、「元に戻ってしまった」と呟くしかない状況になる。まさに「元に戻ってしまった」。時代状況の悪化に落胆した井上ひさしは、暗く冷たい地下牢に閉じ込められた作家・フンを絶望させることなく、懸命に立ち上がらせようとする。そこで幕が下りるのだが、次の闘いは井上ひさし自身がそれから40年近くかけて続けて行ったことになる。井上ひさしの分身であるフンを市村正親、泥棒ブンを小池栄子、フンと敵対する悪魔を新妻聖子、クサキ・サンスケ警察長官を橋本じゅんが演じる。いずれも好演、熱演だ。演出は栗山民也、ピアノは朴勝哲。
こまつ座 http://www.komatsuza.co.jp/