Saturday, October 26, 2013
女たちのサバイバル作戦を読む
上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)――「総合職も、一般職も、派遣社員も、なぜつらい?」/「追いつめられても手をとりあえない女たちへ」/「ネオリベ時代を生き抜くために」。女性学、ジェンダー研究者で、東大名誉教授、NPO法人WAN理事長の著者の最新刊だ。初期の『家父長制と資本制』『近代家族の成立と終焉』、中期の『ナショナリズムとジェンダー』、そして近年の『おひとりさま』『男おひとりさま道』など、著者の本を随分と読んで学んできた。「慰安婦」問題については全く立場が異なり、著者の見解を批判したこともあるが、他の問題では一方的に学ばされてばかりだ。本書は雑誌『文學界』に12回連載したという。文學雑誌に、この内容を連載というのもユニークだが、文学もあらゆる人間生活や意識に関わるのだから、当然なのかもしれない。フェミニズムの旗手として驀進邁進突撃してきた著者も、ついに「高齢者」の仲間入りだと言うが、本書でも「上野節」はますます健在だ。均等法から現在までの30年間の日本社会の変化、とりわけ労働市場の変化と、女性たちの労働、暮らし、意識を追いかけている。それを「ネオリベ改革」の30年と特徴づけ、同時に著者が「働いてきた30年間」だという。「そのときどきに、わたしが怒ったり、笑ったり、してやられたと悔しがったりした同時代の記録でもあります」。なるほど、第1章「ネオリベ/ナショナリズム/ジェンダー」、第2章「雇用機会均等法とは何だったか?」から、第11章「ネオリベの罠」、第12章「女たちのサバイバルのために」に至る歩みは、この30年の労働市場の変貌を総合的に扱っている。欧米諸国の労働市場/女性の社会進出の変容と、日本の逆行現象が見事に対照的なのも、欧米と日本のネオリベへの対応の仕方の差異による。そこで日本企業は成功をおさめ、女性を抑え込んだ。しかし、それが日本企業のアキレス腱にもなっている。そのことを著者は徹底解剖し、そこに女たちのサバイバルのための突破口を見出そうとしている。それにしても、読めば読むほど、男社会の狡猾さ、卑劣さ、駄目さがよくわかり、暗澹たる気分になるのは私が男だからだが、たぶん、女が読んでも、本書の読後感は暗く、暗く、ただ暗澹としているのではないだろうか。最後のサバイバル作戦も、せいぜい「ひとりダイバーシティ」と「持ち寄り家計」だ。これは著者のせいではなく、日本国家と社会のせいだが。340頁の充実した新書で、定価800円は格安、お得だ。ざっと読み飛ばすのではなく、1章ごとにゆっくり読むと本当に勉強になる。もっとも、いつも勉強させられ、なるほど、なるほど、と呟いてばかりなのも癪に障るので、一つだけささやかな抵抗をしておこう。第7章「オス負け犬はどこへ行ったのか?」は、女ではなく、男の話だ。ここが一番面白いともいえる。著者は「男おひとりさま」の「社会的孤立」を取り上げて、「あなたは正月三が日誰にも会いませんでしたか?」にイエスと答えたのが前期高齢者男性61.7%、後期高齢者男性46.8%という調査記録を紹介し、「正月は家族の時間。ひとりものがもてあます地獄の時間」だと決めつける。果たしてそうだろうか。仕事も雑用もなく、全く自由な年末年始の1週間に、ふだんは忙しくて読めない本をひたすらまとめ読みするのは「至福の時間」ではないだろうか。