樋口直人『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014年)
樋口は「第七章 国を滅ぼす参政権? 外国人参政権問題の安全保障化」において、「外国人参政権は排外主義運動にとって重要なイシューである」、「保守から極右まで、怪しげな論拠にもとづき反対一色で盛り上がるのが、外国人参政権をめぐる現況である」とし、「しかし、これは日本に特異な現象である」と言う。統合政策の一環として外国人参政権を導入した欧州と異なり、日本の特殊性に着目する必要がある。そこでは「移民と安全保障をめぐる日本的特質」が問われる。
樋口は、外国人参政権が議論された時期として、1995、2000、2010年をあげる。1995年は、最高裁が、外国人参政権は憲法上禁止されているものではないという見解を出した年であり、これを受けて研究者の議論も深まり、国会議員の中で立法化が議論された。2000年には公明党が外国人参政権の法制化を唱えたため、連立政権の合意事項に取り入れられた。この時期に参政権反対派が目に見える勢力として登場した。2009年の政権交代後、鳩山由紀夫首相と小沢一郎民主党幹事長が外国人参政権法案の成立に意欲を示し、第三のピークとなった。ここから一気に安全保障化した反対論の登場となる。中国脅威論や、領土問題での対立などが盛んに唱えられた。樋口は、「ここに至って外国人参政権をめぐる政治は、外国人の権利をめぐる国内問題を完全に離れ、日本と他の東アジア諸国とをめぐる安全保障の従属変数になった」と指摘する。
外国人参政権の安全保障化は、「嫌韓・嫌中」といった感情的な排外主義につながり、問題を「国民/外国人という二分法」に押し込んでしまう。「安全保障化という概念は、そうした二分法的な思考の方が現実から乖離しており、問題の解決ではなく新たな問題の種でしかないことを暴露する」という。