Tuesday, July 29, 2014

「慰安婦」ヘイト・スピーチ処罰法が必要だ(7)

四 「慰安婦の嘘」犯罪法の意義                                     
                                               
 最後に、「慰安婦の嘘」犯罪法の意義について考えてみよう。その政治的意義については先に示した通り、第一に、人道に対する罪のような巨大な犯罪の被害をこうむった東アジア各国において、これらの犯罪を許さないことを明確に意思表示し、これらの犯罪被害者を改めて傷つけるヘイト・スピーチに厳しく対処することを意思表示することである。反ファシズムと民主主義の課題は今もなお失われていない。むしろ、現代世界の現実を見るならば、グローバル・ファシズムが席巻しつつある(木村朗・前田朗編『21世紀のグローバル・ファシズム』耕文社、二〇一三年)。                                
 第二に、具体的には日本で無責任な「慰安婦の嘘」発言を繰り返す人物は東アジア各国を訪問できない状況をつくることである。                                 
 運動論的意義も考えておく必要がある。日本による被害の補償を求める被害者(サバイバー)たち、その要求を支持し、支援してきた戦後補償運動は二〇年以上の歴史を有するが、一部を除いて、要求実現を果たしていない。無念の思いを胸に他界した多くの被害者たち、多くの支援者たちがいる。こうした現状を前に、戦後補償運動は何をするべきなのか。補償と謝罪の要求運動を従来通り粘り強く続けるべきことは当然であるが、それに加えて、さまざまなアイデアを持ち寄り、真相解明、謝罪、補償、再発防止、教育の実現に挑んでいく必要がある。その一環として「慰安婦の嘘」犯罪法の制定運動を加えるべきである。                                  
 憲法的意義も補足しておこう。日本ではヘイト・スピーチ法に反対する勢力が極めて強い。憲法学者の多くが「ヘイト・スピーチといえども表現の自由である」という無責任な主張に固執している。「民主主義国家ではヘイト・スピーチの処罰はできない」などと虚偽を並べたてる。しかし、EU諸国はすべてヘイト・スピーチ法を持っているし、一〇カ国以上に「アウシュヴィツの嘘」法がある。東アジアでは中国にヘイト・スピーチ法があるが、韓国にはヘイト・スピーチ法がないようである。民族紛争や宗教対立を始め世界的にヘイト・スピーチが増加し、その対策が求められている現在、各国において国際人権法に従って個人の尊重や法の下の平等や基本的人権の尊重を考えるならば、ヘイト・スピーチ法の制定が重要となって来るはずだ。その議論を巻き起こすために「慰安婦の嘘」法制定は重要な触媒となるであろう。世界の現実に目をふさいでいる憲法学も、少しは勉強し始めるかもしれない。                                      
 最後に国際人権法的意義である。二〇一二年、国連人権高等弁務官事務所主催の一連のセミナーにより国際法専門家作成の「ラバト行動計画」がまとめられ、国連人権高等弁務官はヘイト・スピーチ処罰法を広く制定することを推奨した(前田朗「差別煽動禁止に関する国連ラバト行動計画(一)~(六)」本誌五七一号~五七六号、二〇一三年)。                                
 二〇一三年、人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃委員会は一般的勧告三五を公表して、ヘイト・スピーチ法の制定を呼びかけた(前田朗「『人種主義的ヘイト・スピーチと闘う』勧告」本誌五八〇号、二〇一四年)。                             
 それゆえ、東アジア各国は、ヘイト・スピーチ法の一種である「慰安婦の嘘」犯罪法を制定するべきである。「慰安婦の嘘」犯罪法を制定した諸国は、それを人種差別撤廃委員会に報告するべきである。また、国連人権理事会で行われている普遍的定期審査(UPR)においても、各国は互いにヘイト・スピーチ法の制定を促すことができるし、現に行われてきた。「慰安婦の嘘」犯罪を立法した諸国はUPRの際に、日本政府に対して「慰安婦の嘘」犯罪法の制定を勧告するべきである。                                  
 また、東アジアにおける人権状況に関心を有するNGO、及び戦後補償運動は協力して、人種差別撤廃委員会におけるロビー活動を展開し、日本政府にヘイト・スピーチ法、「慰安婦の嘘」法の制定を要求するべきである。国連人権理事会におけるロビー活動を通じて、各国政府に、日本政府に対してヘイト・スピーチ法、「慰安婦の嘘」法を制定するよう勧告することを求めていくべきである。                                              

 以上を通じて、東アジア諸国及び諸人民は国際人権法の発展を強力に推進することができる。