樋口直人『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014年)
「第二章 不満・不安で排外主義を説明できるのか」で、樋口は、不満があるから運動に参加するという素朴な説明を検討して、「社会運動研究の立場からすれば、不満は運動に不可欠な要素ではあるが、それは数ある要素の一つにすぎない」という。不満が運動を生み出すことはあるが、運動の組織化や、そのためのリーダーの存在を説明する必要がある。ナチスという全体主義を説明するために提唱された大衆社会論だが、そこで想定される「流動化」や「疎外」の内実は必ずしも明らかでない。競合論についても、文化的競合や経済的競合では、在日コリアンが排外主義運動の標的となる理由を適切に説明できな。政治的競合も的確な説明にならないと言う。
樋口によれば、保守運動は「外国人問題」を事後的に構築するのであって、必ずしも「外国人問題」から運動に入るわけではない。むしろ、歴史修正主義をはじめとする東アジアにかかわることがきっかけとなっている。活動家に共通する要素は、「社会階層よりも政治的イデオロギーである」という。他方、人々を動員する集合的手段が必要であり、インターネットを活用した活動の特徴がある。
本章最後に、樋口は次のように整理する。「それゆえ、第三章では活動家たちがどのような政治的イデオロギーを身に着けてきたのか、ライフヒストリーにかんする語りをみていきたい。しかし、保守的なイデオロギーを持つからといって、即座に『在日特権』を受容するわけではない。排外主義運動の提示する『在日特権』フレームが、なぜ説得力があるものと捉えられたのか、第四章で詳述する。それに加えて、『保守的な者』と『在日特権』なるものの遭遇を演出する仕掛け――インターネットによる資源動員についても、第五章で分析したい。こうした手順を踏むことにより、『疎外された者の不満・不安の爆発』という単純な議論では理解できない、排外主義運動のさまざまな側面を明らかにできるだろう。」
「第三章 活動家の政治的社会科とイデオロギー形成」「第四章 排外主義運動への誘引」「第五章 インターネットと資源動員」で、樋口は、豊富な取材データに基づいた分析を提示する。