四 人種差別撤廃条約に照らして考える
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ここで論じているのは、これまでに「◯◯人を殺せ」などと過激な人種差別・人種主義の煽動を行ってきたことで有名なヘイト団体が公共施設の利用を申請した場合、公共施設側はこれを受理すべきか、という問題である。
ヘイト・スピーチを行ってきた人種差別集団に公共施設を利用させ便宜を図ることは、人種差別撤廃条約に違反するので、受理すべきでないことは明白である。
人種差別撤廃条約第二条第一項は次のように定める。「締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、
(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。
(b)各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。
(c)各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするために効果的な措置をとる。
(d)各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる。
(e)各締約国は、適当なときは、人種間の融和を目的とし、かつ、複数の人種で構成される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他の方法を奨励すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する。
それゆえ、日本政府は人種差別を撤廃するために「すべての適当な方法により遅滞なくとることを約束」し、「いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束」した。さらに、「すべての適当な方法により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる」ことを約束した。従って、日本政府(当然のことながら県も含む)は、過激な人種差別・人種主義の煽動を行ってきたことで有名な集団を後援、擁護、支持してはならない。従って、地方政府は、そのような差別集団に便宜を図ってはならず、公共施設の利用を認めてはならない。
人種差別撤廃条約第四条本文に基づいて、日本政府は「一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは 種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束」している。
日本政府は人種差別撤廃条約第4条(a)(b)の適用を留保しているが、第四条全体の適用を留保しているわけではないので、人種差別撤廃条約第四条本文に基づいて検討を行い、県条例第三条(2)(3)について判断するべきである。それゆえ、日本政府は、「人種差別を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる団体を非難」するべきであり、「このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとる」べきである。従って、県は、そのような差別集団に便宜を図ってはならず、公共施設の利用を認めてはならない。
人種差別撤廃条約第七条は「人種差別につながる偏見と戦い」とし、「特に教授、教育、文化及び情報の分野において、迅速かつ効果的な措置をとることを約束する」としている。山形県や門真市が、教育施設の性格、とりわけ子どもが利用する公共施設と言う面を強調しているのは、条約第七条を実践するものとして高く評価できる。
結論として、日本政府や県が、差別団体、ヘイト団体に便宜を図り、一般の施設よりも安価・利便性のある公共施設の利用を認めた場合、それは人種差別撤廃条約に違反するものである。このようなことはあってはならない。