樋口直人『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014年)
外国人参政権が安全保障化した経過を確認した樋口は「第八章 東アジア地政学と日本型排外主義」において、こうした言説が「ある種の人々に信憑性を持って受け止められるのはなぜか」という問いに答えるため、東アジア地政学、とりわけ在日コリアンに関わる要素に注目し、日本と朝鮮半島をめぐる国際政治の中で起きてきた在日コリアンに対する弾圧と差別、在日コリアンによる権利獲得運動などが、日本型排外主義とどのように関係しているのかに立ち入る。
樋口は、ブルーベイカーの東欧ナショナリズム研究における「民族化国家」「民族の祖国」「ナショナル・マイノリティ」という三者関係モデルを分析枠組みとして採用して、第二次大戦後の日本と朝鮮半島の状況を分析する。在日朝鮮人の歴史にとって興味深い分析が続くが、さらに樋口は「在日コリアンの変遷」にも目を向け、「地方市民権」という状況も検討する。
こうして樋口は「三者関係にもとづく理解が生み出し最悪の帰結として、排外主義運動が『在日特権』を糾弾するメカニズムを検討する」。つまり、「二者関係を基に在日コリアン(ナショナル・マイノリティ)の危険性を訴えても、あまりに信憑性がなく運動の勢力拡大はおぼつかなかっただろう。そうではなく、それゆえ『民族の祖国』に対する敵意が醸成され、それがナショナル・マイノリティの排斥へと転化していったのである」という。
樋口は次のようにまとめる。「日本型排外主義とは近隣諸国との関係に規定される外国人排斥の動きを指し、植民地清算と冷戦に立脚するものである。直接の標的になるのは在日外国人だが、排斥感情の根底にあるのは外国人に対するネガティブなステレオタイプよりもむしろ、近隣諸国との歴史的関係となる。その意味で、外国人の増加や職をめぐる競合といった外国で排外主義を生み出す要因は、日本型排外主義の説明に際してさしたる重要性を持たない。」