Saturday, October 10, 2015

マンザナ強制収容所を生きた女性たち

昨夜は、こまつ座113回公演「マンザナ、わが町」(作・井上ひさし、演出・鵜山仁、紀伊国屋ホール)だった。
日本軍の真珠湾奇襲の後、アメリカ政府は、在米日本人(1世の日本人、アメリカ国籍を取得した者、2世の日系人など)12万人を強制収容所に収容した。アメリカ憲法に違反する人権侵害であるが、戦時下の大統領命令により日系人強制収容所への収容が強行された。マンザナはその一つである。
「カリフォルニアの東に連なるシエラネヴァダ山脈。」
「その最高峰ホイットニー山。」
「高さおよそ四千五百米、アメリカ本土でもっとも高い山でもあります。」
「そのホイットニー山の東側、ひろびろとひろがる平原に、わたしたちの町マンザナが拓かれようとしています。マンザナ……、」
「ここはわたしたちのひろば。」
「マンザナ!」
収容された5人の女性たちに演劇『マンザナ、わが町』上演が課せられる。ソフィア岡崎(新聞記者)、オトメ天津(浪曲師)、サチコ斎藤(孤児の奇術助手)、リリアン竹内(歌手)、ジョイス立花(女優)――いずれも個性的な5人の女性が、ソフィア岡崎演出のもと、すれちがい、ぶつかり合い、協調しながら、演劇の練習に励む。この劇中劇の中で、アメリカによる日系人差別、白人による黒人差別、日本人による朝鮮人差別・中国人差別が盛り込まれ、差別との闘いが描かれる。
井上演劇・こまつ座を何度も率いてきた鵜山仁演出により、5人を演ずるは、土居裕子、熊谷真実、伊勢佳世、笹本玲奈、吉沢梨絵。伊勢佳世と吉沢梨絵は、こまつ座初出演だと言うが、素晴らしい演技だった。ソフィア岡崎の土居裕子は実に適役だ。昨夜は台詞が少しだけつかえたが、台詞の多さ、難しさから言ってやむをえないだろう。日本語と英語のちゃんぽんあり、中国語風になまった日本語と、日本語らしい日本語、と次々と変わる台詞が最難関のサチコ斎藤の伊勢佳世は見事だった。そして、何よりも凄かったのが熊谷真実だ。浪曲調の台詞、喧嘩腰の台詞、涙声あり、かすれ声ありのオトメ天津を演じたのが熊谷真実だ。かつての熊谷のイメージからは、まさに驚愕の演技だ。役者って、凄い!と唸るしかない。リリアン竹内の笹本玲奈も、ジョイス立花の吉沢梨絵も、鮮やかな印象を残した。
「ここはわたしたちのひろば。」
「マンザナ!」
「日本人の血を引くすべての……、」
「そして人間の血を引くすべての人びとのひろば。」

戦争と差別に抗する、笑いと涙の井上芝居。「東京裁判3部作」や「ヒロシマ3部作」と対応する井上悲喜劇は、感動を突き抜ける。