「桜を見る会」を追及する法律家の会・検察審査会申立
2月2日、「桜を見る会」を追及する法律家の会の代表7名が、検察審査会申し立てを行った。東京地検が不起訴としたための検察審査会請求である。
申立書を下記に貼り付ける。
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審 査 申 立 書
2021年 月 日
検察審査会 御中
申立人
資格 告発人(略)
罪名
公職選挙法違反
政治資金規正法違反
不起訴処分年月日
2020(令和2)年12月24日
⑵ 被疑者配川博之 令和2年検第18326号
⑶ 被疑者阿立豊彦 令和2年検第18327号
⑷ 被疑者西山猛 令和2年検第32650号
不起訴処分をした検察官
被疑者
氏名 安倍晋三
職業 衆議院議員・晋和会代表者
生年月日 1954(昭和29)年11月12日
氏名 配川博之
職業 安倍晋三後援会代表者・同前会計責任者
⑶ 住所 山口県下関市
氏名 阿立豊彦
職業 安倍晋三後援会会計責任者
⑷ 住所 東京都千代田区永田町2丁目2番1号 衆議院第一議員会館1212号室
晋和会事務所
氏名 西山猛
職業 晋和会会計責任者
申立の趣旨
申立人らは、申立人らが告発した後記第1ないし第5の被疑事実について、検察官が被疑者らについてなした不起訴処分は全部不服であるから、全ての被疑事実につき起訴を相当とする議決を求める。
告発の趣旨と検察官の処分
申立人らは、下記の趣旨で、2020(令和2)年5月21日及び同年12月21日、被疑者らを告発した。
記
1 政治資金規正法違反(収支報告書不記載)・・・第1(後援会)・第2(晋和会)
被疑者安倍晋三、被疑者配川博之、被疑者阿立豊彦及び被疑者西山猛の後記第1の1ないし5及び第2の1ないし5の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項2号、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
2 政治資金規正法違反(収支報告書不記載につき晋和会代表者の会計責任者に対する選任監督義務違反)・・・第3(安倍晋三)
被疑者安倍晋三の後記第3の所為は、政治資金規正法第25条2項、同条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
3 政治資金規正法違反(収支報告書不記載につき晋和会代表者の重過失責任)
・・・第4(安倍晋三)
被疑者安倍晋三の後記第4の所為は、政治資金規正法第27条2項、同法25条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
4 公職選挙補違反(寄附禁止違反)・・・第5(安倍晋三後援会)
被疑者安倍晋三及び被疑者配川博之の後記第5の1ないし5の所為は、刑法60条、公職選挙法249条の5第1項及び同法199条の5第1項に該当する。
しかるに、東京地方検察庁検察官検事田淵大輔は、被疑者らを以下のとおり処分した。
⑴ 被疑者安倍晋三 不起訴
⑵ 被疑者配川博之 告発事実第1の2~5につき略式命令、その余につき不起訴
⑶ 被疑者阿立豊彦 不起訴
⑷ 被疑者西山猛 不起訴
不起訴処分理由告知書によれば、不起訴処分の理由はいずれも嫌疑不十分である。
告発事実・被疑事実
以下は、申立人らの2020(令和2)年12月の告発にかかる告発事実を基本としているが、このたび、2018(平成30)年から2020(令和2)年に提出された3年分の安倍晋三後援会の収支報告書が訂正されたことから、この3か年に関しては、金額等は、訂正後の収支報告書に基づいて記載する(訂正後の趣旨報告書で確認された箇所には下線を付する)。
第1 政治資金規正法違反【収支報告書不記載】(安倍晋三後援会)
被疑者安倍晋三(以下、「被疑者安倍」という)は、2014(平成26)年12月14日施行の第47回衆議院議員選挙及び2017(平成29)年10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して、いずれも山口県第4区から立候補し当選した衆議院議員であり、被疑者配川博之(以下、「被疑者配川」という)は、安倍晋三後援会(以下、「後援会」という)の代表者を務めると共に少なくとも2016(平成28)年5月27日までは後援会の会計責任者を務めていたものであり、被疑者阿立豊彦(以下、「被疑者阿立」という)は、遅くとも2017(平成29)年5月29日頃から現在まで後援会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、
被疑者安倍及び被疑者配川は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、山口県下関市東大和町1丁目8番16号所在の安倍晋三後援会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」(以下、「前夜祭」又は「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約540名を乗じた推計約279万円及び被疑者安倍の資金管理団体晋和会から約157万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、上記前夜祭の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約427万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」(以下、「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約458名を乗じた推計約229万円及び晋和会から約177万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ANAインターコンチネンタルホテル東京に対し、少なくとも推計約407万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2017(平成29)年5月29日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約482名を乗じた241万円及び晋和会から190万1056円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも431万1056円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2018(平成30)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
4 2019(令和1)年提出(2018年分)
被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数607名を乗じた303万5000円及び晋和会から150万6365円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも454万1365円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2019(令和1)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数767名を乗じた383万5000円及び晋和会から260万4908円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも643万9908円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2020(令和2)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
第2 政治資金規正法違反【収支報告書不記載】(晋和会)
被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、東京都千代田区永田町2丁目2番1号 衆議院第一議員会館1212号室所在の晋和会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約157万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
2 2017(平成29)年提出(2016年分)
被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約177万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2017(平成29)年5月26日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金190万1056円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2018(平成30)年5月16日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
4 2019(令和1)年提出(2018年分)
被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金150万6365円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2019(令和1)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
5 2020(令和2)年提出(2019年分)
被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金260万4908円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2020(令和2)年5月18日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、
第3 政治資金規正法違反【収支報告書不記載につき晋和会代表者の会計責任者に対する選任監督義務違反(安倍晋三)
被疑者安倍は、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、上記第2の3ないし5の所為について仮に故意がなかったとしても、晋和会の会計責任者である被疑者西山の選任及び監督につき相当の注意を怠り、
第4 政治資金規正法違反【収支報告書不記載につき晋和会代表者の重過失責任】(安倍晋三)
被疑者安倍は、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、仮に故意がなかったとしても、重大な過失により、上記第2の1ないし5の所為を犯し、
第5 公職選挙補違反【寄附禁止違反】(安倍晋三後援会)
被疑者安倍及び被疑者配川は、共謀の上、法定の除外事由がないのに、
1 2018(平成30)年の前夜祭
2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、宴会費用が454万1365円であったところ、参加者608名から1人5000円ずつ徴した参加費合計303万5000円と宴会費用との差額150万6365円を後援会から補填し、合計431万1056円をホテルに支払い、もって被疑者安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、454万1365円相当の酒食を無償で提供して寄附をし、
2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、宴会費用が643万9908円であったところ、参加者767名から1人5000円ずつ徴した参加費合計383万5000円と宴会費用との差額260万4908円を後援会から補填し、合計643万9908円をホテルに支払い、もって被疑者安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、643万9908円相当の酒食を無償で提供して寄附をし、
たものである。
不起訴処分を不当とする理由
はじめに―告発の正当性と意義
1 本申立の経緯
2020(令和2)年5月21日、521名の法律家が、上記被疑事実のうち第1の4及び第5の2、すなわち2018(平成30)年4月に行われた「桜を見る会前夜祭」につき、安倍晋三後援会が収支報告書に収支を記載しなかった事実(政治資金規正法違反)及び後援会員に対し違法な寄附をした事実(公職選挙法違反)につき告発をし、告発した法律家は最終的に977名に達した(第一次告発)。また2020(令和2)年12月21日、上記被疑事実の全てについて、10名ほどの法律家が告発をした(第二次告発)。
本申立は、第一次及び第二次告発の双方の告発人になった法律家が申し立てるものである。第二次告発は、報道によって、検察が被疑者配川のみを、しかも政治資金規正法違反のみで略式請求して捜査の幕引きを図ろうとしていることが明確になったことから、それだけでは済まされないことを示す目的で急遽行ったものであるため、告発人の人数は少ないが、第二次告発及び本申立の背後には、第一次告発を行った法律家の強い賛同と支援があることを、ここに記しておきたい。
2 告発の正当性
東京地検特捜部は、捜査の結果、2020(令和2)年12月24日、被疑者配川に対し、上記被疑事実のうち第1の2・3・4・5の罪についてのみ略式起訴し、同人は罰金100万円の刑で処断された。私たちは、それ以外の被疑者及び被疑事実が不起訴処分とされたことについては不服であるが、特捜部の捜査について、
①前夜祭について参加者が支払った1人5000円の会費は後援会の「収入」であり、ホテルへの支払も後援会の「支出」であり、これらを後援会の収支報告書に記載しなかったことは犯罪であると認めたこと、
②前夜祭の費用について、毎年後援会が補填していた事実を突き止め、補填分のホテルへの支払も後援会の「支出」と認め、その原資も後援会の「収入」とし、これらを後援会の収支報告書に記載しなかったことを犯罪であると認めたこと、
については高く評価している。
被疑者安倍は、以上の①②について、2019(令和1)年11月から2020(令和2)年3月まで、国会において、「安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡したから、ホテルとの契約主体は個々の参加者であり、後援会に収入支出は一切ない」、「補填はしていない」といった趣旨の答弁を再三重ね、特捜部の調査によりこれが虚偽答弁であったことが明らかになったが(衆議院調査局の調査で118回の虚偽答弁があったことが明らかにされている)、特捜部は、被疑者安倍の公設第一秘書である被疑者配川を訴追し、前首相の秘書といえども、嘘を重ねて逃げ切ることを許さなかったのである。
これは、告発人らが、「ホテルと契約した契約主体は後援会であり、前夜祭にかかる収支は後援会の収支である」、「1人5000円の参加費ではパーティは賄えないはずであり、補填があった可能性が高い」と主張していたことの正当性を特捜部も認めたことに他ならない。
3 さらなる真相解明と厳正な処罰を求めて
1000名近い法律家の告発がなければ、特捜部が捜査をすることはなく、真実が国民の前に明らかになることはなかった。この意味で、私たちは、告発の意義に確信を持つものである。
しかしながら、東京地検特捜部の捜査と処分はきわめて不十分であり、秘書1人だけを政治資金規正法違反で略式起訴し、前首相であった被疑者安倍の刑事責任や、被疑者安倍が代表を務める政治資金団体晋和会の違法行為は不問にして、捜査の幕を引いた。このような形で、特捜部と被疑者安倍は「手打ち」をしたのである。そのために、健全な民主政治のため国民に明らかにされるべき重要な真実の多くが、いまだに隠されたままになっている。
従って、私たちは、さらなる真相解明と厳正な処罰を求め、市民の方々によって構成される検察審査会の健全な審査に期待して、本申立をするものである。
第1 公職選挙法違反の寄附を不起訴処分としたことの不当性
1 本件の本質は違法な寄附である
本件の本質は、安倍前首相が公的行事である「桜を見る会」に自らの後援会員800名以上を招待してもてなすという、いわば「税金による寄附行為」と一体となる形で、後援会がその「前夜祭」を開催し、参加者の支払った5000円の参加費を上回る酒食の提供をして後援会員をもてなすことにより、公職選挙法で禁止されている後援会による寄附行為を行ったことにある。
収支報告書にその収支を記載しなかったのは、安倍事務所の関係者に違法な寄附をしたことの自覚があり、それを隠蔽する目的があったからこそであって、それ以外の理由は考えられない。
それにもかかわらず、収支報告書の不記載だけを処罰し、公職選挙法違反の寄附についていずれの被疑者についても不起訴処分としたことは、極めて不当であり、到底看過することができない。
2 寄附を隠蔽するための収支不記載
後援会は、被疑者安倍が首相になって初めての2013(平成25)年の前夜祭における補填分「829,394円」については、被疑者安倍の政治資金団体である晋和会がホテルに支払った金額を晋和会の「支出」として、領収証を添付し、2014(平成26)年5月に提出した晋和会の収支報告書に記載していた。
しかし同年、小渕優子議員の後援会による寄附事件が発覚し、同議員が閣僚を辞任する事態となったところ、その翌年の2015(平成27)年5月提出の収支報告書以降、安倍事務所は、補填分の支出をどこにも記載しない扱いにしたのである。こうした経緯からも、寄附を隠蔽する意図は明白であるといえる。
被疑者安倍が、国会で「補填はない」との答弁を必死で繰り返していたのも、寄附の違法性、犯罪性を熟知していたからに他ならない。
3 高額の寄附
公職選挙法の寄附禁止は、公職の候補者による脱法的な買収行為を許さないという立法趣旨がある。「金で票を買う」ことを許さない趣旨である。そのため、公職選挙法はたとえ1万円の香典であっても処罰の対象としているのであり、違法な寄附についての政治的責任は極めて重いのである。
しかるに、このたび後援会が訂正した収支報告書によれば、安倍後援会の補填額は、2019(平成31)年4月の前夜祭では260万4908円、2018(平成30)年4月の前夜祭では150万6365円、2年分の合計額は411万1273円と、極めて多額である。公訴時効が3年であるため上記では2年分を挙げたが、添付別紙のとおり、5年間では916万円ほどになる。最初の2013(平成25)年まで遡れば1000万円を優に超える寄附を行っていたのである。
これほど高額な寄附について、後援会自身が補填の事実を認め、1円単位で補填金額を明確にしているにもかかわらず、「嫌疑不十分」とはどういうことであろうか。
東京地検特捜部は、政治家にとって致命的な「寄附」を不問にすることによって、安倍前首相との間で手打ちをしたと言わざるを得ず、寄附についての被疑者安倍及び被疑者配川に対する不起訴処分は著しく不当である。
4 「最低でも1万1000円」―明細書で解明を
本申立の「告発事実・被疑事実」第5では、このたびの捜査によって解明されたとされる補填額を「寄附」の金額として記載したが、第一次及び第二次告発状に詳細に記載したとおり、ホテルニューオータニ東京におけるパーティ費用が「最低でも1人1万1000円」であることは、ホテル関係者の証言や国会議員の調査によって明らかになっており、訂正された収支報告書におけるホテルへの支出額では、1人1万1000円には到底達しない。
例えば2019(平成31)年における費用総額を参加者数で割ると1人あたり8400円ほどになるが、その水準の酒食しか出されなかったのか、それとも通常であれば1万1000円以上の酒食が供されたのかは、「寄附」の規模を判断する上で、重要である。
これは、ホテルが作成した明細書を調べれば判断できる。ところが被疑者安倍は、2020(令和2)年12月25日の議員運営委員会の答弁においても、ホテルから明細書を取り寄せて公開することを拒んでいる。検察審査会では、ホテル作成の明細書を調査して、審理をしていただきたい。
第2 晋和会の収支報告書不記載を不起訴処分としたことの不当性
1 晋和会は後援会への「支出」とその原資の「収入」を収支報告書に記載する義務がある
晋和会は、被疑者安倍の政治資金管理団体であり、東京の議員会館内の被疑者安倍の議員事務所に所在し、代表者は被疑者安倍、会計責任者は被疑者西山である。
晋和会は、「前夜祭」の代金のうち、参加者から徴収した参加費を超える補填分をホテル側に支払い続けてきた可能性が極めて高い。
少なくとも2013(平成25)年の前夜祭における補填分「829,394円」は、晋和会が同年の前夜祭会場となったANAインターコンチネンタルホテルに支払って同ホテルから領収書の交付を受け、晋和会の収支報告書に上記と同じ金額を同ホテルの運営会社㈱パノラマ・ホテルズ・ワンを支払先とする「支出」として記載していたことが明らかになっている。従って、その後の補填も晋和会がホテルに支払う形で行われた可能性が高いのである。
また、「関係者」の話として、ホテル側が「毎年」発行した領収証の宛先は晋和会であり、晋和会は受領後、領収証を廃棄した疑いがあるとの報道もある。「関係者」とは特捜部以外に考えられない。
さらに被疑者安倍も、2020(令和2)年12月24日の記者会見において、ホテルとの交渉や支払を行っていたのは「東京の事務所」であったと再三述べている。「東京の事務所」とは晋和会であり、晋和会が支払をしていたことは明らかである。
そうであれば、晋和会は、ホテルに支払った補填分を、ホテルに対する支払債務を負う後援会に「支出」したのであり、そのことを収支報告書に記載する義務がある。また晋和会は、その補填分の原資を「収入」として記載する義務がある。被疑者安倍は、上記記者会見において、「私のいわば預金からおろしたもの」が、晋和会の支払資金であると述べている。仮にそのとおりなのであれば、被疑者安倍個人からの「収入」として記載すべきであった。
しかるに、晋和会の会計責任者である被疑者西山及び代表者被疑者安倍は、その義務に違反したのである。
2 後援会収支報告書訂正の驚くべき辻褄合わせ
このたび、後援会は、3年分の収支報告書を訂正し、前夜祭参加者から徴収した参加費及び補填分を、それぞれホテルへの「支出」として加筆した。また、参加費については新たに「収入」として加筆した。それでは、補填分に相当する「収入」はどのように記載したか。
驚くべきことに、補填額相当分は、全て「前年からの繰越金」を増額させる形で「収入」として処理しているのである。
収支報告書の訂正は、保管期限が経過していない過去3年分についてのみ、なされた。訂正された「収入」の増加額を詳しく見ると、以下のとおりである。
2017(平成29)年分
1 収入総額増加額
⑴前年からの繰越金増加額 6,012,329円
①補填額相当額 1,901,056円(A)
②翌年への繰越額 4,111,273円(B)
⑵本年の収入額増加額(参加費)2,410,000円(C)
2 支出総額増加額 4,311,056円(A+C)
1 収入総額増加額
⑴前年からの繰越金増加額 4,111,273円
①補填額相当額 1,506,365円(A)
②翌年への繰越額 2,604,908円(B)
⑵本年の収入額増加額(参加費)3,035,000円(C)
2 支出総額増加額 4,541,365円(A+C)
2019(平成31・令和1)年分
1 収入総額増加額
⑴前年からの繰越金増加額 2,604,908円
①補填額相当額 2,604,908円(A)
②翌年への繰越額 増加0円(B)
⑵本年の収入額増加額(参加費)3,835,000円(C)
2 支出総額増加額 6,439,908円(A+C)
要するに、毎年のホテルへの支払額から参加費の合計額を差し引いた補填額を全て、ありもしなかった「前年からの繰越金」で処理し、「3年分遡って帳尻を合わせればよい」とばかりに、補填額3年分を2017(平成29)年分に積み、3年をかけてそれを順次、使い切るという「訂正」で処理しているのである。
何という辻褄合わせ、帳尻合わせであろうか。そもそも存在しなかった「繰越金」を計上し、「3年分の辻褄が合えばよい」とばかりに形だけを整えて、補填分(つまり寄附に使った金)の原資を隠蔽しているという他ない。被疑者安倍が、補填分は「東京の事務所」から「私のいわば預金」から支払ったと述べていることとの整合性も全くない。
政治資金規正法の趣旨は、政治団体の収入・支出を透明化することにより、政治家が「金で票を買う」、「金で政治を動かす」ことをなくし、健全な民主政治を確保するところにある。
しかるに、後援会は、このような単なる辻褄合わせの収支報告書の訂正でお茶を濁し、補填分の原資がどこから賄われたのかを、国民の目からひた隠しにした。これは収支報告書の虚偽記載罪に該当する。
そして、検察が、後援会の収支報告書の訂正がこのような辻褄合わせで処理されたことに異議も述べず、後援会の代表者である被疑者配川の略式請求だけで捜査の幕を引いたのは、被疑者安倍が代表をつとめる晋和会の収支報告書の不記載の刑事責任を追及しないという、被疑者安倍側との「手打ち」に他ならない。
このような不起訴処分を許してはならない。
第3 被疑者安倍に対する厳正な処罰を
1 少なくとも2019(令和1)年分の後援会の収支報告書不記載には「故意」がある
被疑者安倍は、被疑者配川が罰金100万円の処罰を受けた後になっても、記者会見においても国会においても、「自分は知らなかった」、「秘書が自分に隠していた」として、秘書に責任を押し付け、自らに故意はなかったと主張している。
しかしながら、そもそも「安倍事務所」の実質的代表者である被告発人安倍が、自らの後援会や、政治資金管理団体の金の流れや収支報告書の内容について、「知らない」ことはあり得ない。
少なくとも、「桜を見る会」や「前夜祭」が国会で厳しく追及された2019(令和1)年11月以降、被告発人安倍が、真実はどうなのかと真剣に確認しないはずがない。被告発人安倍は、その上で、意図的に虚偽答弁を重ねて追及から逃げ切ろうとしてきたのであり、極めて悪質である。
確実に言えることは、2019(令和1)年分の収支報告書を作成提出した時期は、2020(令和2)年5月、つまり上記の国会での厳しい追及の後だったということである。新たに2019(令和1)年分の収支報告書を作成するにあたり、被疑者安倍は、収支の不記載が犯罪となることを明確に認識しており、2019(平成31)年4月の前夜祭に関するホテルの請求額、参加者から徴収した会費額、安倍側が不足額をホテルに支払って補填をした事実、補填額等を確認することは容易にできたのであり、国会であれだけの追及を受けた後、政治家としてそれを確認しないはずがない。被疑者安倍は、それにもかかわらず、あえて収支を記載せず犯罪を隠蔽することについて、被疑者配川や被疑者阿立と共謀したのであって、このことは、被疑者安倍に明確な犯罪の「故意」があったことに他ならない。
そこには、「国会であれだけ嘘を言い切った以上、今さら真実の収支を記載することなどできるわけがない」、「首相である自分が捜査を受けたり立件されることなどあり得ないだろう」といった傲慢さが伺え、悪質極まりない。
従って、少なくとも2020(令和2)年5月27日に提出した後援会及び晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書不記載については、被疑者安倍に故意があったことは明白である。
2 晋和会の代表者としての刑事責任
また、被疑者安倍は、記者会見において、ホテルとの交渉や支払を担当したのは「東京の事務所」であったと述べている、「東京の事務所」とは晋和会であり、被疑者安倍は、晋和会の代表者である。
前述のとおり、被疑者安倍は、後援会が支払うべき補填分を、晋和会が、「私のいわば預金」からホテルに支払ったことを認めている。後援会の収支報告書は後援会がホテルに「支出」したと訂正されたのであるから、晋和会は後援会に「支出」したのであり、これを晋和会の収支報告書に記載しなかったこと、その原資を「収入」として記載しなかったことは犯罪である。この点についても、被疑者安倍は晋和会の会計責任者被疑者西山と共謀して、収支報告書不記載という犯罪を犯したという他ない。
さらに、万一被疑者安倍に上記について「故意」がなかったとしても、被疑者安倍には、晋和会の代表者として、会計責任者である被疑者西山の選任及び監督について相当の注意を怠った罪(政治資金規正法第25条2項)や、重大な過失による収支報告書不記載の罪(政治資金規正法第27条2項)が成立する。
前首相であるから寛大に扱うのではなく、行政の最高責任者であったからこそ、民主制の基礎をなす政治資金を不透明にした罪は、厳しく問われるべきである。
3 寄附罪について被疑者安倍を処罰すべきである
前述のとおり、本件の本質は違法な寄附である。
被疑者安倍、安倍晋三後援会及び晋和会が「前夜祭」の宴会費用の補填をひた隠しにした目的は、自らの選挙区内の有権者に対する違法な寄附を隠蔽するためであったことは疑いない。
そして、被疑者安倍が、2014(平成26)年分の収支報告書から毎年続けてきた補填について「秘書が勝手にやった」、「自分は知らなかった」などということはあり得ず、通用するものではない。
公職選挙法違反は、政治家にとって恥ずべき致命的な犯罪であり、秘書だけに罪を押し付けるのではなく、寄附によって利益を享受する政治家本人が厳正に処罰されるべきである。
4 公民権停止
政治資金規正法や公職選挙法は、収支報告書不記載や寄附の罪により罰金刑に処せられた場合であっても、その刑が確定した時から5年間、「選挙権及び被選挙権を有しない」と定めている(政治資金規正法28条1項、公職選挙法252条1項)。
現職の国会議員、まして内閣総理大臣にとっては極めて厳しい制裁であるが、法はこれらの犯罪を、こうした厳しい制裁に値するものと位置付けているのである。
被疑者安倍は、現職の内閣総理大臣であった時期に、7年連続で公民権停止に値する犯罪を犯し、それを隠蔽し続け、国会でも虚偽答弁を重ねたのであって極めて悪質であり、まさに公民権停止とされるべきである。
第4 最後に
「桜を見る会前夜祭」については、国会で厳しく追及され、大きく報道もされ、市民の関心は高い。
2020(令和2)年12月26日~27日に行われた読売新聞の世論調査では、「安倍前首相の後援会が主催した『桜を見る会』の前夜祭を巡る事件で、安倍氏は、事実に反する国会答弁があったことを謝罪し、事件は『私が知らない中で行われていた』と説明しました。安倍氏の説明に、納得できますか、納得できませんか」との質問に対し、「納得できない」とする回答が76%に上った。
これほど注目されている事件であるにもかかわらず、検察は本件について強制捜査を行わず、ホテルの領収証や明細書すら市民に明らかにしないまま、秘書1人処罰して捜査の幕を引いた。
これでは、公職選挙法や政治資金規正法の立法目的が全く果たされない。首相の犯罪だからこそ、公開の公判廷において政治資金をめぐる真実が明らかにされ、厳正な処罰がなされるべきである。
市民で構成される検察審査会が、健全な市民感覚を大いに発揮して、被疑者ら、とりわけ国会で虚偽答弁を重ねた挙句、秘書1人に責任を押し付けた被疑者安倍について、起訴相当の議決をされることを心から期待するものである。
なお、申立人らは、被疑者配川についての確定刑事記録を閲覧・謄写の上、本申立にかかる審査のため有用な資料を追加して提出する予定である。
添付別紙:
「桜を見る会前夜祭・収支不記載の報告書・会費徴収額と補填額」(1枚)
以上