Tuesday, October 05, 2021

預言者ムハンマドの風刺画と宗教的ヘイト・スピーチ

103日、犬の体をしたイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を描き、命を狙われていたスウェーデンの画家ラルス・ビルクスが、交通事故に巻き込まれて死亡した。

ビルクスは何度も命を狙われてきたため、警察の保護対象であり、同乗していた警察官2人も死亡した。走行中にタイヤが破裂した可能性があるという。

いくつかのニュースを見たが、最初は単なる交通事故と報じていたのが、やがてタイヤの破裂が判明したようだ。

また、ニュースではヘイト・スピーチについて不正確な情報が流されている。

1に、日本ではヘイト・スピーチが犯罪とされていない、許されているので、それを前提とした解説をする評論家がいる。しかし、欧州ではヘイト・スピーチは犯罪と見るのが普通であり(EU加盟国はすべて犯罪としている)、スウェーデンも一定のヘイト・スピーチを犯罪としている。

2に、ヘイト・スピーチの中でも宗教に関連する場合をどう理解するか。宗教的ヘイト・スピーチを犯罪とするかどうかである。ニュースでは、マクロン大統領の「宗教批判の自由がある」という発言を紹介して、宗教批判はヘイト・スピーチに当たらないという解説をしている。

しかし、欧州諸国の中には宗教的ヘイト・スピーチを処罰する例がある。フランス刑法でも宗教的動機によるヘイト・スピーチを犯罪としている。マクロン大統領の発言は、たしかにそう述べたのだろうが、「ヘイト・スピーチに当たらない限り、宗教批判の自由がある」という意味のはずだ。そうでないと、理解できない。

フランスについては私も誤解していた。シャルリ・エブド事件の時、最初、私はフランス刑法では宗教的ヘイト・スピーチを処罰しないと思い込んでいた。後に訂正した。

スウェーデンについて私は十分な情報を持っていないので、ここでは断定的なことを言えない。なお、欧州人権裁判所も宗教的ヘイト・スピーチの処罰を肯定している。

宗教的ヘイト・スピーチについては、フランスやイギリスについて憲法学者による論文が書かれているが、総合的研究はこれまで行われていないと思う。今後研究が重要だ。

 

シャルリ・エブド事件の時の私の誤解は、下記。

宗教的ヘイト・スピーチ(1)

https://maeda-akira.blogspot.com/2015/01/blog-post_13.html

宗教的ヘイト・スピーチ(2)

https://maeda-akira.blogspot.com/2015/01/blog-post_87.html

宗教的ヘイト・スピーチ(3)

https://maeda-akira.blogspot.com/2015/01/blog-post_14.html

 

また、宗教的ヘイト・スピーチに関する欧州人権裁判所の判決については、

ファクトシート:ヘイト・スピーチ(欧州人権裁判所)(5)

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/09/blog-post_6.html