青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(講談社+α新書)
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いま一番信頼できるジャーナリストの対談である。共同通信記者出身の青木と、週刊誌記者出身の安田。社会部出身で警察、司法に強い青木は、外信部にもいてソウル特派員も経験。いまは政治・社会に幅広く発言している。ヘイト・スピーチや外国人に対する差別問題の第一人者の安田は右翼取材も手がけてきた。この2人が、「ネットに吹き荒れる誹謗中傷、国民を見殺しにする政府や権力者、強気を助け、弱気を挫くメディアの病巣、日本の歪な現実の病巣」を抉る。
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まえがき 切り捨ての時代を招いたもの
第一章 対韓感情悪化の源流とそれをもたらした日本社会の構造的変化
第二章 友好から対立へ 日韓それぞれの事情
第三章 恫喝と狡猾の政治が生む嫌な空気
第四章 社会を蝕む憎悪の病理 ヘイトクライムを生む確信犯的無責任と無知
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かつて世界で第2位の経済力を誇った日本だが、バブルがはじけ、1990年代の「失われた10年」に始まり「失われた20年」を経て、経済成長が止まったまま、ついに経済競争力は世界で30位と言われるようになった。世界で稀に見る極度な高齢化社会となり、高度経済成長時代に整備した社会資本にも限界が来た。傾向的低下がとどまらない。
それだけに自己認識が分裂し、傲慢と嫉妬のナショナリズムに走る。ヘイトと排外主義、周辺諸国に対する羨望と蔑視、外国人に対する排斥と差別が、文字通り濁流となって社会のど真ん中を覆っている。線状降水帯的な自画自賛と、集中豪雨的な他者蔑視。論理も倫理も失われた憎悪の社会が形成されてきた。
青木と安田は「日本社会の構造的変化」を指摘し、特に日韓関係にそれが顕著に表出されていると見る。社会だけでなく、政治も恫喝と狡猾、隠蔽と改竄、腐敗が根深く、どこまでも転落していく様を確認する。
この国の病理は深刻だが、矛盾から逃げずに、いかに生きるべきなのか。ジャーナリストとして2人はこれからも疾走し続けるのだろう。