国連人権理事会46会期(2021年2~3月)に国連人権高等弁務官事務所が作成した報告書「宗教又は信仰に基づく不寛容、否定的ステレオタイプ、スティグマ、及び人に対する差別、暴力の煽動、暴力と闘う」(A/HRC/46/67. 11 January 2021)が提出された。差別とヘイト・スピーチと闘う国際的な動向を明らかにしているので、以下、簡潔に紹介する。
Ⅰ 序論
Ⅱ 行動計画実施のために各国がとった措置
Ⅲ 国連人権高等弁務官事務所及び人権メカニズムがとった行動
Ⅳ 2012~2020年に受け取った貢献の評価
Ⅴ 行動計画実施を加速する可能なフォローアップ措置に関する結論と考察
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Ⅰ 序論
2011年の人権理事会決議16/18、国連総会決議66/167は、宗教に基づく不寛容と差別と闘う一連の行動をとるように呼び掛けた。人権理事会決議43/34は、人権高等弁務官事務所に、本件に関する報告書を提出するよう要請した。人権高等弁務官事務所の照会に応じて12か国が報告を寄せた。今回報告したのは、バーレーン、ボリビア、コスタリカ、キューバ、ラトヴィア、メキシコ、パキスタン、ポーランド、カタール、ロシア、スロヴェニア、トルコである。本報告書は主にこれらの報告を基にまとめられた。新型コロナに関連する対策にも言及する。
(報告書は各国政府の報告に依拠している。NGOからの報告との比較検討は行われていない。)
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Ⅱ 行動計画実施のために各国がとった措置
以下は次の項目から成る。
A 憲法的法的枠組み
B 暴力的過激主義・ラディカル化に対処する措置
C 相互理解、対話促進のための協力ネットワーク創設
D 紛争予防のために政府内の適切なメカニズムの設置
E 政府公務員の研修
F 差別の原因やこれに対する戦略を討論するリーダーの努力の助長
G 差別の煽動になる宗教的憎悪の唱道など不寛容に反対する発言
H 宗教に基づく暴力煽動を犯罪化する措置
I ヘイト・クライムに反対する措置
J 否定的宗教ステレオタイプや宗教的憎悪と闘う必要性の理解
K 開かれた、建設的な、責任ある討論
L 公的書記官が差別をしないための効果的措置
M 宗教的自由と多元主義の促進
N 個人がその宗教に関わらず代表され、社会参加すること
O 宗教的プロファイリングに強く反対する
P 宗教施設、墓地、教会の尊重と保護の措置と政策
Q 新型コロナ・パンデミックの文脈における措置
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A 憲法的法的枠組み
バーレーン、ボリビア、キューバ、ラトヴィア、メキシコ、パキスタン、ポーランド、ロシア、スロヴェニア、トルコは、宗教の自由、平等及び非差別を保障し、宗教に基づく差別や不寛容と闘う憲法的法的枠組みを報告した。
B 暴力的過激主義・ラディカル化に対処する措置
2012年以来報告してきた37か国が、行動計画に暴力的過激主義に対処する措置を報告した。法律の人権への影響評価は、対処する措置がしっかりと人権に根差していることを確保するのに決定的である。ロシアは2002年6月25日の連邦・反過激主義法と刑法規定を報告した。刑法は2-14年に改正されて、過激主義犯罪の刑罰を加重した。
C 相互理解、対話促進のための協力ネットワーク創設
2012年以来報告してきた53か国が、相互理解のための強調ネットワークをつくる措置を報告した。コスタリカは、外務省に礼拝局を設置し、外務省と宗教コミュニティの関係強化を図っている。2019年に意見交換協議会を行った。キューバは1985年以来、共産党中央委員会宗教問題事務局を置き、持続的関係と対話を継続している。イタリアは2019年以来、反人種差別事務局がカトリック大学、現代ユダヤ人文書センター、ミラノのショアー記憶財団と協力している。ショアー記憶財団のプロジェクトは、宗教的文化的動機によるヘイト・スピーチ現象の分析を深め、ソーシャル・メディアの差別現象を予防し闘うことである。
バーレーンは2018年に「平和的共存のためのハマド国王グローバル・センター」を設置した。寛容の、平和的共存、多元主義と多様性の価値を促進し、過激主義イデオロギーと闘う目的である。
メキシコは内務省に宗教問題監督官を設置している。宗教の自由を監督し、平和の文化を促進する。ポーランドは、政府が教会や宗教組織と協力している。ポーランド司教会議、ポーランド・全キリスト教センターと協力している。平和、安全、暴力予防のため、ユダヤ人の日を設定している。ロシアは、国家政策として国際NGOや国内NGOと協力してマイノリティの権利保護と、宗教的理由に基づく差別の予防を尊重している。