Thursday, March 03, 2022

フェミサイド研究の現状02

欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)の報告書『EUと国際的なフェミサイド測定――ある評価』(2021)

4.      欧州と世界の情報収集システム(概観)

5.      フェミサイドについての指標と分類システムを定義するために(概観)

6.      各国レベルのフェミサイド(定義と情報収集)

7.      NGOによるフェミサイドの情報収集

8.      勧告

「4.欧州と世界の情報収集システム(概観)」では、EU27カ国の、フェミサイドについての情報収集と分類システムの現行の枠組みを提示する。フェミサイドの定義と関連する変数の類似性と差異を確認する。フェミサイドの類型、その動機を評価するための第一歩である。

・各国における主として行政情報を収集する国際的スケールの枠組み。

・殺人やフェミサイドの多様な国際的及び国内的な監視、フェミサイドの定義。

・フェミサイドの定義や指標についての国際的な専門家集団の議論。

・関連する組織の多様なアプローチの評価。

統計目的のための国際的な分類としては、国連麻薬犯罪事務所とEurostatによりICCSがあり、2015年以来、採用されている。フェミサイドの特別の定義をしていないが、「故意の殺人」に「女性嫌悪又はジェンダーに基づく理由による女性の故意の殺人」が含まれる。犯罪の要素として(1)事件、(2)被害者、(3)犯行者をあげており、被害者と犯行者について、性別、年齢、身分(未成年か成人か)市民権、法的身分、依存症の有無、経済的地位、被害者とのパートナシップの有無、常習性が示される。しかし、犯罪の動機に関する情報はない。

国連麻薬犯罪事務所は、殺人に関する世界的情報収集においてフェミサイドの分類システムを保有し、「故意の殺人」に分類している。犯罪の背後にある動機を特定している。故意の殺人の分類の基準は、状況の文脈(殺人の場所)、被害者と犯行者の関係(元パートナー、現パートナー、家族、知人)、殺害方法(武器、手段)である。被害者の性別、市民権、年齢、殺害方法、状況の文脈、地域等が含まれる。

Eurostat統計情報はEU加盟国とトルコの公的犯罪統計である。警察、検察、裁判所、刑事施設の情報が含まれる。2008年以来、Eurostatと国連麻薬犯罪事務所が協力し、殺人と性暴力の統計を集めている。故意の殺人について、被害者の年齢、性別、犯行者との関係が記録される。

GREIVO(欧州評議会)――イスタンブール条約によりフェミサイドの情報収集が整備され、女性に対する暴力とDVに反対する行動専門家集団(GREIVO)が監視システムとして設置された。2016年、GREIVOはイスタンブール条約第11条により、ジェンダーに基づく暴力の統計をとっている。女性殺人についての行政情報と司法情報である。

「犯罪・刑事司法統計に関する欧州情報集」が2019年に出版された。警察、訴追、有罪の統計が、性別、年齢、国籍ごとに収集されている。

世界保健機関WHOは、女性の健康に対する悪影響という観点でフェミサイドの情報収集、定義、分類を行っている。2012年、フェミサイドに関するファクトシートを発表した。健康に関する情報なので、犯行者や、被害者―犯行者の関係についての情報は含まれない。司法統計と比較しての弱点である。

WHOも参加した研究の中には、これらも含まれる。女性殺人の35%以上が親密なパートナーによるという研究が公表されている。

フェミサイドの監視についてベストなモデルはないが、研究者や人権活動家による報告や勧告が積み上げられてきた。

欧州におけるフェミサイド監視

・欧州殺人モニター(EHM)――フィンランド、オランダ、スウエーデンにおけるパイロット・プロジェクト。3カ国の殺人モニターの情報を統合している。主に行政情報、司法情報、警察情報に加えて新聞情報も含まれる。2003年以来、殺人事件の分析を続けている。被害者、犯行者について、ジェンダー、年齢、出生地、市民権、両親の出生国、市民的地位(婚姻、未婚、離婚等)、被害者の子ども、アルコール・麻薬歴、暴力の前歴が含まれる。判決内容、以前の裁判歴(性犯罪、その他の犯罪)、刑期も。

・欧州フェミサイド監視(EOF)――2018年、ヴァレッタのマルタ大学が始めた欧州科学技術協力の一環としてのモニターである。2018年と2019年に報告書を発表した。2020年にも数カ国の統計情報を発表・分析した。

・イギリス・フェミサイド調査データベース(UKFC)――2015年に始められ、2009~15年の報告書を公表、その後、17年、18年、19年も。メディアの情報と警察対応の記録である。フェミサイドを男性による女性と少女の殺人と定義する。被害者の出生国、民族、移民の地位、年齢、子ども、妊娠、障害、健康状態、職業、性的指向も含まれる。犯行者について出身国、年齢、職業、暴力歴、障害、健康状態、ポルノ歴、性産業の利用歴、フェミサイドとの関連でもIT利用が記録される。

HALT(殺人・虐待・学び・共に)――イギリスにおける家庭内殺人調査の包括的研究。家庭内殺人のリスクや要因の調査である。犯行者について暴力歴、虐待歴、性暴力、住居、財産状況も。

以上は欧州である。欧州以外では

・ミネソタ・フェミサイド報告(MFR)――NGOの「暴力から自由なミネソタ」がメディアに報告された事例を記録している。2016年、18年、19年に報告書。

・司法と責任に関するカナダ・フェミサイド監視(CFOJA)――2017年に始まったフェミサイド被害者調査。メディア情報に依拠し、先住民族、移住者、高齢者、障害者の女性に焦点を当てる。2019年の報告では、親密なフェミサイド、家族フェミサイド、非親密フェミサイドを区別している。フェミサイドの動機として、(1)女性嫌悪、(2)性暴力、(3)行動の強制・統制(嫉妬、ストーキング)、(4)別居・行き違い・離間、(5)やりすぎ(overkill)をあげる。2019年には(1)暴力歴、(2)行動の強制・統制、(3)別居、(4)関係修復の拒否、(5)女性の人生計画への抑圧・支配、(6)脅迫、(7)妊娠女性、(8)性暴力、(9)傷害、(10)過剰な暴力、(11)監禁、(12)強制失踪、(13)女性遺棄、(14)人身売買、(15)女性嫌悪をあげている。

・殺人監視国内プログラム(NHMP)―オーストラリア犯罪学研究所が1989年以来DVとフェミサイドの統計を取っている。(1)事件ファイル、(2)被害者ファイル、(3)犯行者ファイル、(4)併合事件ファイル。

・アルゼンチン・フェミサイド監視(AOF)――オンライン・ニュース、警察情報、新聞情報。

・ラテンアメリカ情報公開イニシアティヴ(ILDA)――2019年にフェミサイド・ウオッチを公表。フェミサイド認定手続きのためのガイドを作成。

・ラテンアメリカ・フェミサイド監視等々。

報告書は、欧州と世界の殺人とフェミサイド監視の比較をさまざまな図表で示している。