Thursday, March 24, 2022

ヘイト・スピーチ研究文献(192)ヘイトデモと警察

瀧大知「ヘイトデモと警察対応 : 差別禁止法がない社会における「反差別」の立ち位置」『和光大学現代人間学部紀要』第12(2019)

著者には下記の論稿がある。

瀧大知「差別団体による『選挙ヘイト』――その実態と市民の抵抗」『IMADR通信』200号(2019年)

https://maeda-akira.blogspot.com/2019/11/blog-post_9.html?msclkid=cfa7f2d2aaae11ecac3deaca64cd40cd

瀧大知「『ふれあい館』への虐殺宣言と法務大臣による非難メッセージまでの経緯」『コリアNGOセンターNews Letter』53号(2020年)

https://maeda-akira.blogspot.com/2020/12/blog-post_27.html?msclkid=cfa7c369aaae11eca48dea636c047b0c

「ヘイトデモと警察対応」は、冒頭に「要旨」をまとめている。

「本稿は警察によるヘイトデモへの対応を分析し、その課題を明らかにすることを目的としている。そのために、筆者によるフィールド調査のデータをもとに、警察とカウンター行動との関係に注目した。分析の結果、本稿では以下の点を明らかにした。まず、警察の目的はヘイト・スピーチを止めることではなく、デモを安全に終わらせようとするのみであること、つぎにそのような姿勢の警察にとって、カウンターはデモ隊と衝突を起こす危険性のある「挑発行為」としか捉えられておらず、一般通行人にとっての「迷惑」行動とされていること、その背景には日本に人種差別を規制する法律がないことを指摘した。そのうえで「ヘイトスピーチ解消法」の課題を提示している。」

瀧は、20182月から10月までの都内におけるヘイトデモを追跡調査し、警察規制の実態を確認す売る。警察はヘイトデモ隊には丁寧に説明し、ヘイトデモ隊が安全にデモ行進できるようにコースを守る。しばしば「警察がヘイトデモを守っている」と批判される通り、警察はデモ隊を優遇する。デモ隊には「ご協力を要請します」。他方、ヘイトに反対するカウンターに対して、警察は厳しい姿勢で臨む。カウンターに対しては「挑発行為をおこなうのはやめなさい。警察は厳正に対処する」。

2016年にヘイトスピーチ解消法が制定されたが、警察と言う「暴力装置」は、「守られる差別」と「排除される反差別」をつくりだす構図に変化はない。ヘイト・スピーチ解消法は「反レイシズムゼロ」を乗り超えるものではない。

最後に瀧は「差別的言動のない社会の実現に寄与しているのは誰なのか」と問う。答えは明白だ。レイシズムに対峙してきたカウンター=プロテスターである。にもかかわらず、「ヘイト・スピーカーの表現の自由」を守り、「マイノリティの表現の自由」を否定し、「カウンターの表現の自由」を抑圧する警察という歪んだ現実がある。この現実を変えることが瀧の次の課題となる。