Friday, March 15, 2013

人権理事会UPRでの新しい課題を考えた

グランサコネ通信2013-18                                                                  *                                                                                              今回のグランサコネ通信、最後の通信だ。「グランサコネ」とは何かと聞かれるが、ジュネーヴ郊外の私の宿舎の所在地名である。小さな丘の上にあり、私の部屋は一戸建ての山小屋の1階であり、何もなくて不便だが、静かでいいところだ。国連欧州本部までゆっくり歩いて30分だ。今回は2月16日に来たので4週間の滞在だった。                                                                   最初の週は国連人権理事会平和への権利作業部会に参加し、ロビー活動を行った。幸い、3回発言できた。後日、NGO会議にも参加した。人種差別撤廃委員会には2日しか顔を出せなかったが、資料は少し集めた。その後は、人権理事会が始まったが、1週目は大臣の演説なので、途中からルガーノ観光に行ってきた。2週目と3週目はまじめに出席して、情報収集し、議題4(慰安婦問題)と議題5(朝鮮学校差別問題)の発言ができた。十分とは言えないし、NGO発言をしていったい何の効果があるのかと言い出せばなかなか難しいが、同じ時期にちょうどニューヨークの女性の地位委員会でも「慰安婦」問題が取り上げられたので、NYとGEの両方で日本政府に要求を突き付けることになってよかった。                                                                                      日本政府の普遍的定期審査は予定通りの結果というか、去年の10月の審議が本番で、今回は報告書の採択なので、まあこんなものかと思う。今回は、15日のペルー、スリランカも含めて、14カ国の普遍的定期審査のすべてを傍聴した。そこで新しい課題に気づいた。これまで日本関連NGOは、UPRで、日本の人権状況を訴え、各国政府に発言をチェックし、日本政府の応答に腹を立て、より良い勧告を求めてきた。その勧告を実現するために国内で頑張ってきた。しかし、それでは決定的に足りない。もっとやるべきことがある。その第1は、他の諸国のUPRに際して、NGOが何をなすべきかであるが、これは今回は置いておく。                                                                                                    重要なのは第2で、他の諸国のUPRに際して、日本政府が何を発言し、いかなる勧告を出しているかのチェックである。今回の13カ国に関する日本政府の動きをチェックしてみた。これは一定期間継続的に調査する必要がある。(1)UPRは、国連加盟国すべてについて公開の場で相互にチェックし合い、相互協力によって人権状況を改善するためのものである。当然、自国のことだけではなく、国連加盟国には、多国の人権状況に改善提案をすることで、国連人権理事会に貢献することができる。日本政府はその努力をどれだけやっているか。(2)他国の人権状況に改善勧告を出すためには、それなりの調査・研究、情報収集、分析が必要である。いい加減なことを言うわけにはいかない。各国のジュネーヴ代表部のスタッフには、そうした調査・研究能力が求められる。アメリカ、中国、日本のような大国は、ジュネーヴに大きなビルを構え、多数のスタッフが抱えている。何十人もの外交官が活動している。それでは、日本は何をしているか。                                                                                     以上の(1)と(2)の関心から、今回の13カ国に対するUPRの経過を調査した。結論は、ほとんど最初から見えていたが、日本政府の発言は非常に少ない。日本政府が各国に対して出した勧告は、韓国に3、スイスに0、スリランカに2、ペルーに0、パキスタンに2、ザンビアに2、ガーナに0、ウクライナに0、グアテマラに0、ベニンに0、チェコ共和国に0、アルゼンチンに0、ガボンに0といった調子だ。つまり、UPRの大半の時間を日本政府はひたすら沈黙しているのだ。アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、キューバ、カナダ、ノルウェーなどは、多くの諸国に対して3つも5つも勧告を出している。ごくごく小さな国でも、良く出している。国連加盟国193カ国の中には、国家財政規模からいって、ジュネーヴに1人しか代表のいない政府も珍しくない。それでも、頑張っている。何十人もスタッフのいる日本政府は、上のようなありさまだ。この点はもっと詳しく調べる必要がある。今会期だけでなく、数回の会期にわたって調べること。そして、勧告の内容も検討することが必要だ。勧告を出していても、「いや、それはすでに実現しています」と答えられた例もある。どうでもいい内容の勧告もある。日本政府が審査を受ける時だけではなく、普段から国際人権法にいかなる姿勢を持ってるのかをチェックしていかなくてはならない。                                                                                                            *                                                                                                                                   と、今回の人権理事会活動をいちおうまとめ、今後の課題も確認して、今夜はSyrah, Matre de Chais, 2008.